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越智俊之さん|「瀬戸内の知られざる魅力を伝えたい」。全国をめぐって火がついた新たなる挑戦

瀬戸内海を金箔で描いたという印象的な壁をバックに立つ、越智俊之さん。土木建築会社の専務、商工会青年部の全国会長、『ENGAWA』所長と、二足どころか三足のわらじを履きながら、さらにはその同時期に全国47都道府県をまわってもいたそう。越智さんのそんな幅広い活動の軸となっているのが、人と地域のつながり。この広島CLiP新聞も「人と地域をつなぐメディア」がコンセプトなので、日本各地をその目で見てきた越智さんが考える「人と地域」について、話を聞きに行ってきました。

倉庫のような建物の2階に、ひっそりと佇んでいます。

お邪魔したのは、『ENGAWA』。広島市の海の玄関口、広島港からほど近い、工場や倉庫が立ち並ぶ出島エリアの一角にあります。

人生の大きな転換点

越智さん、この壁すごくインパクトがありますね。
越智:でしょう。広島に歴清社っていう会社があるんだけど、そこにやってもらったんですよ。金箔で瀬戸内海を描いていて、僕の出身の江田島もほら、この辺に。
ブルーの目を引く壁が『ENGAWA』のシンボル。江田島は写真中央あたりの少し上側に。
あ~ほんとだ! なんだか、つい見ちゃいますね。ここがオープンして2年くらい経つと思うんですけど、元々この場所をつくる前は何をされていらっしゃったんですか?
越智:実家が江田島で土木建設業をしていたから、自分も自然とその道を選択してたたき上げでやってきたんです。
土木建築…。この『ENGAWA』とはまたちょっとイメージが違いますね。
越智:数年前に広島でも豪雨災害があったでしょう。そのときに、地域の命を直接的に守る仕事なんだなって改めて土木建築の仕事に自負を感じましたね。
確かに土木建築は、日々の暮らしとか生活とすごく密接していますもんね。
越智:そうそう。ただ一方で、新しい考え方を取り入れたり、新しいコンテンツを結び付けるクリエイティブなことが難しい業種でもあるなと感じていたんですよ。もちろん、大きな橋を架けたり観光インフラみたいなものはあるけどね。そういう中で商工会青年部に出合ったんです。
国産ジーンズ発祥の地・岡山県の児島でつくられた、ストライプのデニムジャケットが所長の証。

日本を北から南まで

へぇ~、商工会青年部。そこではどんなことを?
越智:商工会ってそもそもは、地域に根付いて地域の商工業の発展のために地域を盛り上げようと思っている人たちの集まりなんですよ。
じゃあ、その頃から越智さんの中では「地域」というテーマは持っていたということなんですね。
越智:そうなりますね。しかもいろんな業種の人が集まってるから、この人とこの人をつなげたらもっと面白いことが生み出せるな、とか考え始めるようになったんですよ。僕自身、商工会の活動を頑張ったし、皆さんのご協力のもとで商工会青年部の全国会長という役割もさせてもらいました。
商工会青年部での経験を通して、新しい価値が生まれたという。
ぜ、全国会長⁉ すごい! ちなみに全国会長の役割って…?
越智:2年間で全国47都道府県を回ってきたんですけど。自分自身でも各地域の課題を確かめながら、小規模事業者のための支援について各省庁に政策提言をしたりしました。
全国を一気にめぐるって、そんな経験なかなかできないですよね。
越智:もちろん各地域の課題解決のために頑張ろうという気持ちでやってたけど、それ以上に、各地の人に会って話したり見たり体験したりすることが、これからの自分の経験値になるって信じてたんよね。
全国回ってみた中で、印象に残っている地域や人はいましたか?
越智:与那国島で葉っぱで民芸品をつくっているご夫婦がいるんですけど、最後に民謡を歌ってくれて。もう、感動して泣きましたよね。このご夫婦も僕らも同じ青年部の仲間なんだと思って…。
与那国島にて。手前、越智さん。奥、ご夫婦。
越智:ものづくりをされている方以外にも民間救急をされている方にも会ったし、みんな各地域でさまざまな価値観を持って日々を生きている。印象的な方は全国にたくさんいらっしゃいますね。
わ、そうなんですか。それって、行くたびにこちらが刺激をもらう感覚ですよね。
越智:完全にそうですね。全国回って感じたのは、直接的にすぐ自分に役立つことではないかもしれなくても、その中の何かをきっかけに自分の行動は変わるということ。世の中に無駄なことはないんだから、新しいことにどんどんチャレンジしていいんだと思いましたね。それが『ENGAWA』を始めたきっかけでもあるんですよ。
「無駄なことはない」、勇気づけられます。
越智:例えば土木建築以外の経験を積むことで、新しい価値や良い影響は必ず土木建築にもかえってくるし、他のことにもかえってくる。それに単純に、生きている間にいろんなことを知って経験した方が人生面白いだろうな~とも思ったしね。
じゃあ越智さんの中では、全国を回ったことが思考や行動をさらに+(プラス)にするきっかけになったと。
石川県の霊峰、白山にて。全国各地でその地域に暮らす方々と時間や体験を共有した。
越智:そうじゃね、それは大きい。必要ないと思って何もしないと、それ以上は伸びないし広がっていかないから。ひたすら現場をやっていたときには、まさか今こういう活動をやっているなんて思っていなかったですよ。
北海道の礼文島にて。現地に合わせた(笑)スタイルで地域の方々と心の交流を重ねた。
カフェと雑貨が楽しめる店内の内装にも、江田島の和紙、児島のジーンズなど瀬戸内メイドのものが使われている。

テーマはイノベーション

越智さんは『ENGAWA』でどんなことを表現していきたいなって思われたんですか?
越智:全国でたくさんの人と会って、特に瀬戸内エリアでものづくりをしている生産者や小規模事業者に話を聞いていると、大量生産はできなくても丁寧につくられているものがたくさんあるよな~と気付くんです。実際、僕自身も自分が生まれ育った江田島に陶芸家がいるっていうことを知ったし。
へぇ、そうなんですか!
越智:そうそう。だからまずは瀬戸内の良いものを多くの人に知ってほしいなって考えたんですよ。それで、その価値を高めて消費者に届けることができれば、生産者や小規模事業者の役に立つのかなとも考えたんです。
瀬戸内生まれのものって、例えばどういうものを取り扱っているんですか?
越智:僕の中ではいつも「イノベーション」がテーマなんですけどね。世羅で無農薬のお茶が栽培されているって知ってました?
無農薬のお茶? 知らなかったです…。実は祖父母の家が世羅にあるんですけど、フルーツのイメージしかなかったですね。
店舗の隣りで自家焙煎している世羅産のお茶。茶葉はカフェで提供するパンケーキにも使っているそう。
越智:ですよね、広島県内に住んでいても皆さん意外と広島でつくられているものについて知らないんですよ。瀬戸内に関してもきっと同じ。
うーん、そういわれてみれば、知っているようで知らないことって多いかもしれません。
越智:僕が各地を回って新しい発見をしたように、ここで皆さんも発見や驚きに出合う中で、瀬戸内という地域とそこに暮らす人の営みを知ってもらえたらと。それで『ENGAWA』というスペースを立ち上げたけど、あくまでここはフラッグシップなので、さらにいろんな展開を考えています。
これからまだ広がっていくんですか!
越智:広島県内だけでも面白いことをしている人やものはたくさんあるし、瀬戸内7県になるともっとね。語りつくせないくらいあるんよ。
真鍮製のお皿やカトラリーは、岡山県の作家が手掛けたもの。

これから先に広がる展開

越智さんが考えているこれからの展開って、どんなことでしょうか?
越智:商工会青年部の全国会長と『ENGAWA』を1年くらい並行していたんですけど、昨年その会長職を終えたんです。時間的にできていなかったことができるようになったので、次のステップとしてECサイトをスタートさせました。
会長職と『ENGAWA』が同時期だったんですか…。それに土木建築のお仕事もあるわけで、めちゃくちゃバイタリティある!
「『ENGAWA』が、広島や瀬戸内を知ってもらう一つの間口になれば」と越智さん。
越智:もちろん一人の力だけじゃなくて、生産者とかクリエイターとかいろんな人の力も借りながらだけど、新しいことをするのは僕自身が一番楽しみなんよね。
まずは自分が楽しむこと、ですね。『ENGAWA』は人と地域の縁をつなぐスペースということですけど、いろんな経験をしてきた越智さんだからこそ人や地域についてほかに大切にしていることってありますか?
越智:僕は江田島出身だからより自分事として感じるけど、例えばお祭りとかをなくしてほしくないんよね。必要ないっていう人もいるけど、いざ有事のときとかになると、そうした普段のコミュニティづくりが結果的に地域の人たちの命を守ることにつながるんです。
これは本当に、大切なことですね。
地元、江田島の祭りにて
越智:地域防災のような視点で人と地域のつながりを考えることもできるし、特に田舎の方だとどの地域でも人口減少や少子高齢化という課題があるしね。人と地域という観点からできることは、まだまだ多いと思いますね。
たしかに、地域をどう捉えるかによってできることは広がりそうです。
越智:たくさんの人との出会いや経験を生かして、自分ができることとして『ENGAWA』をつくったけど、ここからさらにまたたくさんのつながりが生まれるわけで。これからも「人と地域の縁をつなぐ」という想いをベースに、たくさんのことに挑戦していきたいですね。
越智さんと広島CLiP新聞編集部の中尾、藤安。

全国47都道府県を回って多くの人と交流を重ねてきた越智さん。その経験が、広島や瀬戸内という地域とそこに暮らす人の存在を改めて浮き彫りにするきっかけになっているといいます。瀬戸内の人が丁寧に紡ぎ出す、瀬戸内の知られざる魅力を伝えていく。感動や喜び、発見など、大きく動いた自身の心を原動力に、越智さんの挑戦はこれからも続きます。

瀬戸内生活様式研究所 代表取締役所長

越智 俊之さん

江田島市出身。全国47都道府県をめぐって各地域でさまざまなことを見聞きし、体感した経験から、自身の暮らす瀬戸内の魅力を伝えるべく『ENGAWA』をオープン。

ENGAWA

広島市南区出島1-32-59-2F

TEL.082-258-1114

OPEN.11:00~17:00

定休.木曜

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