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下瀬美術館|「アートの中でアートを観る。」建築とランドスケープも楽しむ美術館

広島県南西部に位置する大竹市。沿岸部には要塞のような工場や化学コンビナートが立ち並ぶ一方で、東方の対岸には瀬戸の海に浮かぶ宮島を望む。そんな大竹市晴海地区の海辺にあらわれたカラフルな四面体。まるで海に浮かんでいるようにも見える物体の正体は、2023年3月1日にオープンした下瀬美術館の展示室。美術館としてはもちろん、唯一無二の建築物としても注目を集める下瀬美術館とは、一体、どんな美術館なのでしょう。

世界のアートシーンで注目を集める圧倒的建築美

エントランス棟の屋上にある望洋テラスからの眺め。敷地面積は約4.6ヘクタールに及ぶ。

広島市中心部から車で約30分。大竹IC付近から海側に向かうと、埋立てによって造成された広大な土地に大小の工場や大型ショッピングモールなどが立ち並んでいます。ナビに従いながらその中を3分ほど車を走らせると、晴海臨海公園の隣に、それまでの景色とは明らかに違う雰囲気をまとったエントランス、そしてその奥にガラス張りの建築物が見えます。それが今回の目的地である下瀬美術館です。

まず驚いたのが、全面がミラーガラスになった楕円型の建築物(エントランス棟)の美しさ。その存在感に圧倒されつつ入り口をくぐると、まるで木の幹から枝が広がったようなデザインの2本の柱と梁があらわれます。その柱以外に視界を遮るものはなく、開放的な空間の先には瀬戸の景色を眺めることができます。

エントランス棟には受付、ミュージアムショップ、ミュージアムカフェがある。

驚くばかりの私たちを柔らかな笑顔で迎えてくれたのは広報の吉田帆香さんをはじめとするスタッフの皆さんです。どんな美術館なのか、まずはお話を伺うことにしました。

建物そのもののデザインがすごく前衛的で、圧倒的な存在感とスケールに驚きました。

吉田:下瀬美術館の設計は、世界的建築家の坂 茂(ばん・しげる)氏が手がけています。エントランス棟、企画展示棟、管理棟の3棟を繋ぐ渡り廊下を含めたすべての外壁がミラーガラス・スクリーンで一体化されています。内側からはガラス張りに見える一方、外側からは鏡のように見えるため、瀬戸内の島々や山々が映り込んで風景が増幅されつつ、大きな建築が風景に溶け込み、建築とランドスケープが融合する様子をお楽しみいただけます。

館内にある椅子などのデザインも面白いですが、これらも坂氏によるものですか?

吉田:はい、坂茂氏といえば、紙管を使った「紙の家」や「紙の教会」などが有名ですが、この椅子も紙管で作られています。

そしてなんといっても、このカラフルなキューブ型の展示室が印象的です。

吉田:そうですね。この展示室は坂氏が瀬戸内海の島々に着想して設計しました。この可動展示室は8つあるのですが、広島の造船技術を活用して水の浮力で動かすことができる可動式になっていて、配置を入れ替えることができます。

2023年3月に開館されて以来、実際に動かしたことはあるのですか?

吉田:いえ、まだないんです。配置換えの際はその様子もお客様にご覧いただきたいです。下瀬美術館は「アートの中でアートを観る」をコンセプトに掲げていますが、展示されている美術品を味わうだけでなく、美術館そのものを楽しんでいただけるような企画を常に考えています。

京人形や西洋工芸、日本絵画など500点の作品を所蔵

庭から眺めた可動展示室。瀬戸内の景色と一体化し、海に浮かんでいるように見える

ところで、この美術館は広島市に本社を置く丸井産業の創業60周年を機に構想された美術館だそうですが、どんな美術品が所蔵されているのですか?

吉田:丸井産業代表取締役の下瀬ゆみ子と両親が収集した京都の丸平大木人形店の京人形や雛人形、エミール・ガレを中心とする西洋工芸、マティスやシャガール、東山魁夷といった日本と西洋の近代絵画など、国内外の約500点の美術品を所蔵しています。

可動展示室の1つ。多様なガラス技法が紹介されている。
企画展ではエミール・ガレの花器やランプなどの貴重なコレクションが展示されていた。

ちょうど現在(2023年8月)は「エミール・ガレ―アール・ヌーヴォーの花器と家具」を開催中ですね。エミール・ガレにインスパイアされたお庭もあると聞きました。

吉田:はい、開催中の企画展は、館長である下瀬ゆみ子が長年収集してきた60点あまりに及ぶエミール・ガレのコレクションの全容を初公開するものです。エミール・ガレのコレクションについては、当館を構想する段階から、重要な要素として位置づけており、庭も「エミール・ガレの庭」と名付けて、ガレの作品に登場する草花を中心に、瀬戸内の気候に合う草木を植栽しています。ぜひお庭もご覧になってください。


吉田さんに促されてエミール・ガレの庭を見学させてもらった取材チーム。この日は突き抜けるような青空が広がる夏の晴天日。涼しい館内から1歩踏み出せば、日傘なしでは歩けない暑さでしたが、そんな暑さをも一瞬で吹き飛ばすほどの美しい景色が広がっていました。

エミール・ガレの作品に登場する草花など約250種類の植物が見事なランドスケープをつくり出している。

この眺めは、まるで絵画の世界ですね!

吉田:エミール・ガレは自然をモチーフとした作品を多く手掛けたことで知られていますが、実は植物学者としても活動していました。この庭は、そんなエミール・ガレへのオマージュでもあります。時の移ろいとともにこの庭が育っていく過程も楽しんでいただけたらと思います。

ショップやカフェも充実。五感でアートを堪能

企画展示室にあったガラスのオブジェのミニチュア

ひと通り館内を巡ったあとは、エントランス棟内にあるミュージアムショップでアート鑑賞の余韻に浸ってみることに。所蔵品をプリントしたグッズや、可動展示室をモチーフにしたアイテムなど、美術館を訪れた記念になるような品がたくさんありました。


この中でお客様に人気の商品を教えていただけますか?

吉田:可動展示室でご紹介しているガラスのオブジェはとても人気で、ご来館の記念として、またギフト用に購入されるお客様もいらっしゃいます。他には建築、アート、デザインにまつわる書籍も展開し、当館のみで販売している坂茂氏の作品集もあります。

なるほど!どれも貴重な品ばかりで、人気なのがよくわかります。あちらにはカフェもあるのですね。

吉田:はい。冷たいお飲み物もたくさんご用意してあるので、ぜひカフェで涼んでいらしてください。

見た目も美しく涼しげな自家製ジンジャーエール(800円)

というわけで、最後はミュージアムカフェでひと息つくことに。瀬戸の景色を眺めながら、この日、出会った数々のアートに思いを巡らす時間はまた格別です。

カフェメニューは、旬のフルーツを使ったデザートやコーヒー、紅茶、フルーツジュース、ワインなどのアルコールもいただくことができます。私たちは写真映えも少し狙いつつ、美味しそうな自家製ジンジャーエールを注文。スパイシーな香りとすっきりした喉ごしが、この日の気候にぴったりでした。

下瀬美術館の敷地内にはカフェのほか、フレンチレストランもあります。国内外の優れたアートと瀬戸の美しい景色、そして美味しい食とまさに五感をフルに刺激する美術館。大野〜大竹間の国道2号線は海沿いを走るコースが多く、ドライブにももってこいの場所。レジャーも兼ねて、足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

下瀬美術館

大竹市晴海2丁目10ー50

TEL.0827ー94ー4000

OPEN.9:30〜17:00(入館は16:30まで)

定休.月曜日(祝休日の場合は開館)、年末年始、展示替え期間 ※ショップ、カフェ、レストランは年中無休。

アクセス
大竹ICから車で約3分 / 広島トヨペット大竹店から車で約6分