広島を代表する冬の味覚といえば牡蠣!広島のスーパーではむき身のパックをよく見かけますが、身を取り出した後の牡蠣殻がどこでどう処理されているのかご存知ない方も多いのではないでしょうか?そこで編集部は牡蠣殻の行方を追って牡蠣殻肥料・飼料メーカーの丸栄(マルエイ)株式会社の海田工場へ向かい、常務取締役の立木仁さんにお話を伺いました。
1年間で排出される牡蠣殻はなんと野球場1杯分!
工場に入ってまず目に止まったのがこの牡蠣殻の山です。どのくらいの量があるのですか?
立木:広島県では毎年約2万トンの牡蠣のむき身が生産され、牡蠣殻は約15万トン発生しています。15万トンというと、だいたい野球場を一杯にするくらいの量です。そのうち、だいたい10万トンくらいの牡蠣殻を弊社が回収していますが、この山はそのうちの1ヶ月分にも満たない量なんですよ。
そんなにたくさんの牡蠣殻が毎年排出されているとは驚きです。回収した牡蠣殻はここでどのように処理されるのですか?
立木:まず弊社が所有する海中の保管所に半年以上漬けて殻に残っている貝柱等を自然の自浄作用で取り除きます。その後、雑物を取り除き、乾燥やクラッシュなど16の工程を経て、飼料や肥料に再生します。
肥料としての牡蠣殻の魅力
処理には手間も時間もかかるのですね。肥料としての牡蠣殻にはどんな特徴があるのですか?
立木:牡蠣殻の約90パーセントは炭酸カルシウムで、これは酸性土壌を中和し、土壌を柔らかくすることで根張りをよくする効果があります。また一般的な石灰(消石灰や生石灰)に比べて牡蠣殻はアルカリ分が低いので手荒れの心配もなく、家庭菜園にもおすすめですよ。弊社の敷地で土を使わず牡蠣殻の肥料だけでピオーネを育てたこともあるんですが、2年目には実をつけて近所の方もびっくりされていました。
廃棄されるしかなかった牡蠣殻を効能的にも優れた肥料に再生するという「アップサイクル」(※)に、70年以上も前から取り組まれていたことになりますね。
立木:そうですね。「余ったものや廃棄されるもので何か作ろう」ではなく、使うことでお客様の収益が向上したり、問題や課題の解決に繋がるような、価値を感じてもらえる商品開発を心がけています。例えば「カキテツ」という肥料は、農家さんから稲作の田んぼで硫化水素が発生して困っているという話を聞き、牡蠣殻がヘドロに含まれる硫化水素を吸着する実証実験で効果が確認されたことから、硫化水素の発生を防ぎつつ稲が必要な肥料分も含む肥料として開発しました。今では全国の多くの農家さんに使っていただいています。
(※)アップサイクル…本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること。
牡蠣殻の可能性と見えてきた課題
立木:2019年には牡蠣殻の特性を活かした商品として「貝適空間」という壁材を開発しました。ホルムアルデヒド等の有害物質を無害化し、調湿性にも優れているので、ご家庭用のDIY資材としてはもちろん、病院などの施設で使っていただいた実績もあります。
牡蠣殻のアップサイクル事業はいろんな可能性を秘めているのですね。
立木:一方で課題も多くあります。昨今の世界情勢や環境変化による資材やエネルギーの高騰が我々の事業に与える影響は少なくなく、事業の効率化は急務です。またここ数年、全国的な鳥インフルエンザの流行で飼料の需要が減少し、牡蠣殻のアップサイクルが滞ることで牡蠣殻の余剰在庫が増え、牡蠣のむき身の生産を減らそうという動きもでています。
牡蠣殻のアップサイクルが滞ってしまうと、牡蠣の生産量にも影響が出てしまうのですね。私たちができることはあるでしょうか?
立木:まずは広島には牡蠣殻という可能性のある資源があるということを知っていただくことかなと思います。そして弊社としては牡蠣殻に価値を感じてもらえる商品を作り続けること。今後も牡蠣殻を使った商品でお客様が抱える様々な課題を解決しながら、広島の牡蠣産業の発展に寄与していきたいと思います。
SDGsや循環型社会などが叫ばれるずっと前、廃棄されるしかなかった牡蠣殻に新たな可能性を見出し、付加価値をプラスするアップサイクルという形で牡蠣養殖業を70年以上も支え続けてきた丸栄株式会社。個人ができることには限りがありますが、今こそ環境問題と真剣に向き合う時。まずは牡蠣殻が広島の資源ということを知るところから始めてみませんか?