「広島の伝統野菜」と聞いて、思い浮かぶ野菜は? 広島市安佐南区祇園地区で栽培されている「祇園パセリ」がその一つです。地域のお宝野菜を守り続ける、広島市農業振興協議会祇園町農事研究会パセリ部会の会長・木下登さんと副会長・庄田俊三さんを訪ねました。
栽培から収穫、出荷まで、すべて手作業
木下:戦前に広島市西区観音地区でパセリが栽培されていて、戦後頃その種を祇園地区に持ってきて栽培が始まったと言われています。
祇園地区がパセリの栽培に向いているのはどんなところですか?
庄田:祇園は武田山のふもとに位置していて、畑としては山の上の方から小さな段々畑が連なっています。水がきれいで土地の水はけがよく、南向きなのも生産するのに良い条件なんですよ。
木下:葉がきめ細かく縮れていて、食感が柔らかく、苦味が少ないのが特徴です。一年中出荷していますが、旬は10月~翌年4月頃です。パセリはすごく繊細な野菜で、栽培や出荷は手作業で行っています。だから手先が器用な女性の生産者さんが多くて、私たちは「パセリーヌさん」と呼んでいます。
庄田:逆に言うと、畑が小さく段々としていてパセリ自体も繊細だから、機械化できないんです。すべて手作業なので、体力も根気も必要になる大変な作業なんですよ。
木下:自分たちもつくっているので分かりますが、本当に根気が一番。どの野菜も大変だとは思うけど、パセリーヌさんは本当に毎日根気よくされていると思います。
ブランド力を高めて、祇園パセリの未来を守る
祇園パセリは広島の伝統野菜ですが、実は私、これまであまり祇園パセリに馴染みがなくて…。
木下:栽培しているのはほぼ祇園だけですからね。昔は80軒あった生産農家も、今は27軒ほどになっているので生産量が多くありません。でもこの地域ではずっと親しまれている野菜なんですよ。僕は父親がパセリをつくっていたので、サラリーマン生活が終わってから自分も栽培し始めました。
庄田:僕もサラリーマンを辞めて農家になり、今7年目くらいになります。後継者不足はやはり現実問題としてあるので、次の世代に伝統としてなんとか渡していけるよう頑張っています。
祇園パセリの未来を考えると、その部分が一番心配になるところですね。
木下:途絶えさせてしまってはいけないので、まずはこの祇園パセリについて知ってもらうことが重要だと考えました。広島県産応援登録制度の認定や特許庁の地域団体商標登録などを通して、祇園パセリを守りつつブランド化していくことにも力を入れてきたので、今ではスーパーでも並べてもらえるような環境になってきました。
庄田:祇園地区の小学校では10年ほど前から、児童たちが祇園パセリを栽培するという食育の学習を続けています。パセリーヌさんが種のまき方とかを教えて、私が伝統野菜についての出前授業をして、数か月後には収穫したパセリを給食で食べたり、家に持って帰って家族で食べてもらったりしているんですよ。
木下:地域の伝統野菜について勉強することで、将来につながっていけばという思いから続けています。安佐南区内の大学で食物栄養学を学ぶ学生さんにも、祇園パセリのレシピ作成など研究に生かしてもらっています。
祇園パセリを食べてもらえる機会をもっと増やしたい
庄田:最近はレストランへも卸しているので、シェフのアイデアとメニューを通して祇園パセリを知ってもらえる機会が増えているのもうれしいですね。私たちもイベントにキッチンカーで出店して、パセリスムージーをつくったりもしています。祇園パセリを食べてもらえる機会がもっとつくれるよう、これからも頑張っていきたいです。
ちなみに、実際に家で食べている生産者さんならではのおすすめレシピを教えてください!
木下:パセリと豆乳とハチミツをミキサーにかけたパセリジュースです。簡単でおいしいし、家でよく飲んでいるんですよ。他には野菜サラダやかき揚げなどもおすすめです。
庄田:僕はパセリ炒飯です。普通に炒飯をつくって、最後に刻んだパセリをたくさん加えてさっと炒めます。パセリって飾るイメージがあると思いますが、祇園パセリに関しては食べるパセリです。スープに入れてもいいし出汁をとることもできるし、生地に練り込むこともできて、本当に何でもできるんですよ。ぜひ多くの方においしく食べてほしいですね。
生産者が現在まで大切に守り育て、ブランド力を高めながら、伝統野菜として地域に愛されてきた祇園パセリ。今では広島県内はもちろん、県外からの注目も高まっているといいます。まずは広島に暮らす私たちが地域の宝ともいうべきその野菜の価値を知り、おいしく食べて、未来につないでいきたいですね。