広島中の+(プラス)体験を集めるWebマガジン 広島CLiP新聞 広島CLiP新聞

公式SNS 広島の耳寄り情報配信中!

ハレの酒を醸し200年の伝統を繋ぐマンション地下の老舗酒蔵|株式会社原本店 原 純さん

広島市中区白島九軒町。JR広島駅や中心街からほど近い住宅街にあるマンションの地下に、創業200年以上の歴史ある酒蔵があるのをご存じでしょうか。なぜマンションの地下に?そしてどんな日本酒を造っているのか、6代目蔵元の原純さんにお話を伺いました。

200年の伝統をマンション地下で繋ぐ

原本店は地上10階地下2階建てのマンションビルの地下2階にある
広島市内のマンションに酒蔵があるということにまずびっくりしました。しかも、創業200年以上の老舗酒蔵さんなのですね。
原:創業は文化2年(1805年)で、私で6代目になります。元々の蔵は昭和20年に投下された原子爆弾で焼失しました。しかし翌年には蔵を再建して酒造りを再開したそうです。このマンションで酒造りを始めたのは平成7年(1995年)からです。
なぜマンションの地下に酒蔵を造ることになったのですか?
原:平成2年に先代が亡くなったときに廃業の話がでて、蔵の跡地もマンションにするということで話が進んでいたのですが、途中で祖母が「やっぱり廃業はしたくない」と言うので、じゃあ、マンションの中に蔵をつくって酒造りを続けようと。それで、オペレーションを色々考えたら地下が一番いいということになったんです。もちろん、私自身、200年以上の伝統をここで絶やしたくないという気持ちもありました。
原さんはもともと酒造りを手伝っておられたんですか?
原:いいえ、先代には「継がなくていいよ」と言われていたので、そのつもりはなかったですね。ただ大学で発酵工学を学んでいましたし、当時はよその酒造メーカーでお酒の品質検査や分析をしていましたから、酒造りについては一通り理解していました。
いざ、酒造りを始めるとなったときに不安はなかったですか?
原:不安はなかったです。酒を造るということはものづくりだから楽しみでした。でもやってみて初めてわかることも多かったですね。理解していたとはいえ、机上論だったので、タンク1つ洗うのも最初は時間がかかって仕方なかった。
醸造室ではタンク4つがフル稼働中
このタンクですね?1つのタンクでどれくらいの量を醸造することができるのですか?
原:700リットル用タンクです。このタンク1つでできるお酒の量は大体280リットルくらいですね。このタンクを4つ使って、1年中酒をつくるわけです。
いわゆる「四季醸造」という方法ですね。
原:そうですね、1回の仕込み量は少ないですが、1年中酒を造ることで生産量が確保できるんです。

アウトドア素材で作った麹室で麹も手づくり

ゴアテックス素材の麹室は原さんのオリジナルアイデア
マンションの地下で酒を造るということで、工夫していることはありますか?
原:湿気対策ですね。麹づくりに大切なのは「乾燥、温度、清潔」。でも地下は湿気が多いので、その対策には苦労しました。で、たどり着いたのがこのゴアテックス素材で作った麹室です。ゴアテックスは空気は通しますが水は通しません。だから結露もできない。ワンダーフォーゲルをしていた友人が「雪山でテントの中でコーヒー飲んでも結露しない」と言っていたのをヒントに、思いついたんですよ。
麹室以外にもお米を洗って蒸す釜場、醸造室など、作業に必要なものがこの地下にぎゅっと詰まっている感じですね。作業は全てお一人でされるのですか?
原:妻と二人でやっています。お酒を醸す作業はもちろん、それこそタンクを洗ったり、瓶詰めやラベルを貼るのも全部、手作業でやってます。

コロナ禍に生酛(きもと)造りに挑戦

コロナ禍のお酒造りはどうされていたのですか?
原:飲食店に卸せないという状況だったので、造っても売るところがないわけです。でもお米は前の年に契約してるからどんどん届いてこれは困ったなと。で、時間だけたっぷりあったから、じゃあ生酛造りでもやろうかと。
生酛造りというと、昔ながらの製法でとにかく手間と時間がかかると聞いたことがあります。
原:酵母の培養に欠かせない酒母(しゅぼ)を造る際に、雑菌や微生物の増殖を防ぐために酒母を酸性に保たなければなりません。現在は人工的につくられた乳酸を直接添加して酸性を保つ「速醸」という方法が主流ですが、天然の乳酸菌の力で酒母を酸性にするという昔ながらの方法が生酛造りです。うちの蔵の酒母(高温糖化酛)だと8日ほどでできますが、生酛造りだと約4週間かかるし、その間の管理も大変なんです。
タンクの中でぶくぶくと発酵中(写真は生酛のお酒ではありません)
それを全部お一人で…すごいですね。味はやっぱり他のお酒と違うのですか?
原:ちょっと複雑な味になるんですよね。のみ方としては、お燗につけて、それも「とびきり燗」っていう55度以上まで温めてのむのがおすすめです。
この生酛のお酒は年中購入できますか?
原:生酛はとても手間がかかるのでタンク1つ分しかつくれません。2021年、2022年と9月に出荷してすぐ完売する人気でした。今年(2023年)も9月に限定発売予定です。

おすすめは「蓬莱鶴 純米吟醸 奏(ハーモニー)」

原本店で直売されている蓬莱鶴(ほうらいつる)のラインナップ
他にもいろんな種類があるんですね。原さんおすすめのお酒はどれですか?
原:「蓬莱鶴 純米吟醸 奏」です。りんごのようなフルーティな香りで後味がすっきりしているんですよ。「蓬莱鶴 純米大吟醸 奏」はG7広島サミットの社交夕食会の飲物にも選んでいただきました。
どちらものんでみたいです。家で美味しくいただくコツがあれば教えてください。
原:純米吟醸や純米大吟醸のような香りを楽しむお酒は冷蔵庫で冷たくしてのむのが一番美味しいです。あとは慣れたらやっぱり熱燗にもチャレンジしてほしいですね。電子レンジはダメですよ。湯煎してね。
湯煎ってなんとなく難しいイメージです。正解がわからなくて。
原:正解は自分で決めればいいんですよ。「とびきり燗」ぐらいまでつけて、飲んでいると温度が下がっていくでしょう?そしたら自分が美味しいなっていう温度を見つけて、今度からそれを目安にしたらいんです。
なるほど!自分が一番美味しいと思う温度を探せばいいわけですね。
原:あと日本酒は本当にどんな料理にも合うので、いろんなマリアージュを楽しんでほしいですね。日本酒というと和食のイメージが強いですが、ハンバーグだって合うんですよ。
他におすすめのマリアージュはありますか?
原:僕のお気に入りは「シラスおろし」。大根おろしにシラスを混ぜて醤油を2滴垂らす。それを少しずついただきながら酒をのむんです。
あとこの「一途な純米酒」は広島県のプロジェクトでつくった低アルコールの日本酒なんですけど、ワインみたいな日本酒なので牡蠣料理とのマリアージュがおすすめです。アルコール度数も10度だからワインより低いので気軽にのんでいただけると思いますよ。
低アルコールの「一途な純米酒」
お話を聞いていると、原さんのお酒に対する深い愛情を感じます。
原:全工程手作業で一生懸命造っていますからね。うちの酒を手に取ってくださった方には笑顔でのんで「もう一杯!」と言ってもらいたい。そんな「ハレのお酒」をこれからもつくっていきたいですね。

200年の歴史を持つ老舗酒蔵の廃業の危機を「マンションの地下に蔵をつくる」という斬新な発想で乗り越えた原さん。麹室もアウトドア素材で作るなど、ものづくりを心から楽しんでおられる様子がお話の随所に感じられました。そして聞けば聞くほど奥が深い日本酒の世界。まずはその入り口として、吟醸酒の冷酒や「とびきり燗」からチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

蓬莱鶴のお酒が買えるお店

蓬莱鶴は原本店で直売されている他、酒商山田(南区宇品海岸)、大和屋酒舗(中区胡町)、石川酒店(西区古江西町)などの酒販店や、中区にあるスーパー等で購入できます。

原本店

広島県広島市中区白島九軒町9−19

TEL.082−221−1614

OPEN.営業時間:10:00〜19:00

定休.定休日:土・日曜日

アクセス
CLiP HIROSHIMAより車で約18分