広島県東広島市安芸津町にある今田酒造本店。瀬戸内海に面した小さな港町から酒造りの背景とともに日本酒の魅力を世界に伝えていきたいという想いや、一度は絶滅したと言われるお米「八反草」での酒造りの復活に至るまでのお話を、杜氏今田美穂さんに伺いました。
酒蔵を継ぐということ
今田:「忙しそう」という印象しかないです。とても大変そうだったので、当時は継ごうという思いは全くなかったですね。
今田:誰かがやらなくてはと思っていたので、当時は成り行きで始めて。もともと東京で仕事をしていたので、最初の1~2年でうまくいかなかったら東京に帰るつもりでした。2~3年経ったころ、だんだんお酒の懐の深さが分かってきて本気になっていったんです。
今田:安芸津の酒造り職人さんのすばらしさに触れたり、日本酒を売る人、造る人の思いなどいろいろなことを知っていくうちに、酒造りの面白さが分かってきました。「楽しい」ばかりではないけど、すごくいい業界、いい仕事だと思います。今は日本酒を日本国内だけではなく、世界に知ってもらい、当たり前に楽しんでもらえるよう努力したいと思っています。
今田酒造本店から生まれるお酒
「富久長(ふくちょう)」とはどんなお酒なんですか?
今田:富久長が復活栽培した八反草を、安芸津で受け継いだ伝統の吟醸造りで醸しており、口当たりは柔らかで、旨味たっぷりなのに見事なまでスカッと切れるあと口のよさは、八反草ならではの特徴です。
今田:ポテンシャルを最大限に引き出した富久長のフラッグシップといえる銘柄で、直汲み原酒を1本ずつ丁寧に瓶火入れ、瓶貯蔵しているので、搾りたてのフレッシュな風味を保っています。日本だけでなく、世界でも一番人気で、みなさんに愛されています。
一度は絶滅したお米「八反草」を使ったお酒にはどんな特徴がありますか?
今田:安芸津の水や広島の風土を選び生きてきたお米を使って造ることで、よりその土地らしいお酒ができると思って復活に挑戦したお酒です。難しい品種ですが、農家さんと共に年々改善を重ね、醸造法も積み上げてきました。
今田:2013年には、高温糖化と古来伝統の生酛系酒母を組み合わせたハイブリッド酒母を編み出しました。この新しい技術に磨きをかけ、八反草らしさを最大限に引き出したのが、ハイブリッド生酛です。八反草の繊細な個性や吟醸酒ならではのきれいな香りはそのままに、複雑で奥深い味わいを目指しました。旨味ののった味わいは、冷たい温度から常温まで幅広い温度帯でお楽しみいただけます。
「海風土」と書いて「シーフード」はラベルデザインも可愛いポップなイメージです。
今田:レモンのような爽やかな飲み心地の富久長です。キリッとした酸味と日本酒らしい柔らかな後口が、牡蠣や魚介のおいしさを引き立てます。酸度が高く、原酒でアルコール度数13度に仕上げた軽快な口当たりは、和食だけでなく、イタリアンやフレンチとの相性も抜群。よく冷やして白ワイン感覚でお楽しみいただけます。
日本酒の未来
今田:日本酒って日本や酒造りの文化、農業の歴史、地方の食文化と密接に結びついているんです。嗜好品としてお酒を楽しんでもらうことはもちろん、日本酒の背景にある物も理解してもらえたらと思っています。
今田:日本酒は何千年も前から受け継がれてきたからこそ今ここにあるものなんです。そんな背景や私達の想いを理解してくれる人、日本国内だけでなく世界のマーケットでも信頼して預けられるような人を焦らず丁寧に見つけて、シェアを広げていきたいと思っています。
日本酒を守っていくために私たちができることはありますか?
今田:お酒を選ぶ時、広島のお酒を選んでほしいです。その選択が里山や広島の風景を守ることにもつながると思います。それに日本酒は日本の文化を伝える一つのツールだと思っています。小さいけれどダイレクトに世界につながれる面白い世界なので若い人にも入ってきてほしいですね。
酒造りだけでなくお米作りからも未来を見据えて動いている今田さんからは覚悟と信念を感じました。日本や酒造りの文化、農業の歴史、地方の食文化を未来につないでいくためにも、「今日はどのお酒を飲もうかな。」と思った時には日本のお酒、広島のお酒を思い浮かべてもらえたらうれしいです。