「盆栽」はお年寄りの趣味。そんな旧来の盆栽のイメージを覆し、ミニ盆栽づくり体験や食べる盆栽、飲む盆栽といった多角的なアプローチで盆栽の魅力を伝える「庭能花園(にわよしかえん)」。代表の着能松太郎(ちゃくのうまつたろう)さんに江戸時代から400年以上の歴史を誇る庭能花園の伝統と革新のお話、新しい取り組みへの思いを伺いました。
江戸から続く己斐の造園業
庭能花園さんは400年以上の歴史をお持ちなのですね。
着能:庭能花園は江戸より少し前から林業や植木の仕事を始めました。もともと庭能花園がある広島の己斐という地区自体が盆栽の発祥の地と言われ、植木屋の多い地区で私も職人たちの技を見ながら育ちました。
では、幼い頃から造園業を継ごうという思いはあったのですか?
着能:そうですね、大学時代は他の分野に興味を持ったこともありましたが、自分が一番得意な事を仕事にしたいと思い造園業に帰ってきました。現在は、庭師としての仕事の他にも一般の方向けにミニ盆栽づくりのワークショップも開催しています。
そうなのですね!ワークショップを始めたきっかけは何だったのですか?
着能:NPO法人ひろしまジン大学の平尾さんから己斐の伝統を知ってもらうため、盆栽を作るワークショップをお願いできないかとご連絡いただいたことがきっかけです。当時は私自身職人としての意識が強く、「同じ職人ならまだしも一般の人に技術を伝えても意味が無いのでは」と思い、一度お断りしたんです。ですが、自分がお世話になっている方からも「受けてやれ」と言われ渋々やることになりました。
※NPO法人ひろしまジン大学学長・平尾さんの記事はこちら )
着能:初めてやった時に、「そうか、一般の人は造園業を知らないのか。」と気付いたんです。盆栽は広島発祥というのも皆さん知らなかったので、造園業の世界に入ってみようと思ってもらうには、まずは多くの人に興味を持ってもらわないといけないと思いました。
着能:はい。それからはワークショップのお話が来たら必ずお受けするようにしています。ワークショップでは、盆栽は日本のおもてなし文化の一つであること、自分が育てたものでお客様をおもてなしするという楽しさも伝えるようにしています。
気軽にチャレンジ!オリジナルの盆栽づくり
ミニ盆栽づくりというのはどのようなワークショップなのですか?
着能:ミニ盆栽づくりは、器・苗・苔・石を好きなように選んでオリジナルの盆栽を作ります。器は常滑焼(とこなめやき)を使うイメージがあるかもしれませんが、お気に入りの器を持ってきていただくのも可能ですし、植物も松だけでなく、ブルーベリーやオリーブなどを使って伝統的な和風の盆栽以外もチャレンジすることができます。
盆栽は敷居が高く、若い人にはとっつきにくいイメージでしたが、どなたでもチャレンジしやすそうですね!
着能:今まで一番小さい子で4歳のお子さんもチャレンジしてくれました。他にも小学生のころに初めてワークショップに参加してから毎年のように来てくれるお子さんもいます。自分で育てることに面白さを感じてくれたのか、針金のかけ方や、枝のせん定の仕方などどんどん学んでくれています。
盆栽はメンテナンスも大変そうなので、少しずつ自分でできるようになるのはうれしいですね。
着能:そうですね。形にこだわらず、自分がかわいいとかかっこいいと思うように育ててもらえたら思います、最近では育て方の動画もありますし、ワークショップ後もフォローしていますので、お子さんの代やお孫さんの代まで引き継げる盆栽を作れますよ。
口から知る?!新しい盆栽
ワークショップ以外にも盆栽を広めるため色々な活動をなさっていると伺いしました。
着能:はい、今は食べる盆栽、飲む盆栽という物を作っています!
着能:食べる盆栽というのは、「どら盆栽」という盆栽をイメージできるどら焼きです。松葉を入れた甘さ控えめの「松」、梅肉を入れて甘じょっぱくした「梅」、メープルシロップを入れた「紅葉」、桜餅のような風味の「桜」、椿茶と広島椿の色をイメージした3種のあんこを入れた「椿」。5つの味があります。
どれもおいしそうです!造園屋さんからどら焼きが誕生したというのが不思議です。
着能:やはり人は花より団子だなと思いまして、自分の好きなどら焼きで盆栽を知ってもらおうと思いました。あんこは出雲のぜんざい発祥のお店「坂根屋」さんにお願いし、生地は無添加でふわふわな触感にこだわっています。受注生産のみですが、海外の方からも盆栽の文化を知ってもらうきっかけになっています。
着能:飲む盆栽は、2023年3月24日に誕生した「BONSAI RAGER(盆栽ラガー)」という名の盆栽風味のクラフトビールです。己斐地区で採取したクロマツの青い松ぼっくりをつぶして酵母と成分を抽出しています。瓶のふたを開けた瞬間に松が香り、辛口でのど越しが良いと評判です。まずは地元己斐の飲食店限定で販売していきます。クラフトビールはどんな世代の人、どんな国の人にも人気があるので、まず「盆栽って何?」と思ってもらうきっかけにしてほしいです。
まさに己斐地区=盆栽をアピールできる素敵な商品ですね!今後着能さんが目指すものは何でしょうか。
着能:活動のすべての根っこは、広島はものづくりの原点であり、緑に対して歴史もあるまちだということを知ってほしいという思いです。地道に盆栽から文化を伝え、革新しながら後世につないでいきたいと思います。
盆栽というと少し難しそう、自分にはできないかなと取材前は思っていたのですが、実際に植物に触らせていただき、器選びの面白さを知り、やってみたいという気持ちが強くなりました。盆栽を通して、広島の歴史や文化も知ってもらうべく新たな試みに挑戦し続ける着能さんの姿は、生き生きと輝いていました。次はどんなものが生まれてくるのか楽しみです。