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広島に暮らす一人ひとりと地域に光を。「エンジョイ広島」を合言葉にまちを遊ぶ

「まちのおもしろさは、人のおもしろさ」をコンセプトに、出身地である広島で2010年「ひろしまジン大学」を開校した平尾順平さん。個性豊かな地域の人を先生に、まちや地域のことを学ぶ「授業」を広島県内23の市町で開催するほか、企業や自治体と連携し地域づくりにも携わってきました。縦横断的な視点で広く広島を見てきた平尾さんが考える、人と地域のつながりやこれからの在り方について教えてもらいました。

2010年、「ひろしまジン大学」開校式後の様子。

人の数だけまちの在り方がある

平尾さんは、ひろしまジン大学を通してこれまで広島の人や地域と深いつながりを持ってきています。まずは開校した当時の想いから聞かせてください。
平尾:僕は広島出身です。大学卒業後は東京で国際協力の業界で人材育成の仕事をしていましたが、海外に行くと広島の知名度がすごく高いんですよね。でもそれは、いわゆる被爆都市「ヒロシマ」としての知名度。僕らは平和都市と呼んでるけど、世界から見たら被爆都市なんです。だから、広島に暮らす人にとっても世界の人にとっても、「ヒロシマ」について知ってもらうのはもちろんですが、今の広島をいいなと感じてもらえるようにアップデートしたいと思いました。
広島のことが知られているのはうれしいけど、その内容ですよね。
平尾:あと、学生の頃にバックパッカーをして感じたことも影響しています。シリアで人生初のヒッチハイクをして、トレーラーを運転するおじいちゃんが目的地まで広島から大阪くらいまでの距離があるのに乗せてくれたんです。
海外でのヒッチハイクはけっこう勇気いりますよね…!
平尾:初めてなので怖いし、車の中でもずっと不安だったけど、ちゃんと目的地まで送り届けてくれて。せめてガソリン代をと思ってお礼を渡そうとしたら「君はこの国のゲストだ。君がしなきゃいけないのは、お金を払うことじゃなくてこの国を楽しむことだけだ」と言われたんです。
海外をバックパッカーでめぐっていた頃の平尾さん。
うわぁ、そんな言葉を言ってくれたんですか…!
平尾:もう、衝撃を受けましたよ。自分の国をそれだけ想えることも、自分の国を楽しんでくれたらそれでいいと言えることも素晴らしいなと思って。彼が言った「Enjoy Syria」の言葉がずっと心に残っていて、それで自分も「エンジョイ広島」と言えるまちにしたいという想いがずっと根底にあります。
人生を変える経験になりましたね。
平尾:そうですね。そうは思ったものの、その後も東京を拠点に働いていて向こうで一人でやるには難しい。だから30歳で仕事を辞めて広島に帰ってきました。
広島に帰って、すぐひろしまジン大学を立ち上げたんですか?
平尾:まずは、カフェで地域の人がお茶会をしたり食にまつわる映画について語り合ったりするような、草の根の活動をしました。それがひろしまジン大学の前身みたいな感じかな。原爆というキーワードは広島を知るうえではやはり欠かせないので、2年ほど原爆資料館で働きながらその活動を並行して、退職後にひろしまジン大学を立ち上げました。
ひろしまジン大学が立ち上がったとき、何か特別な活動をしている人だけがフィーチャーされるんじゃなくて、このまちで日常を送る人すべてに広く光を当てているのが素晴らしいなと個人的に感じていました。
平尾:広島には街の景色や産品など魅力的なものがたくさんありますけど、やっぱり人だと思ったんですよね。人の数だけ、まちの在り方があると考えています。
現在の主な活動拠点、広島市西区草津の古民家を改装した『学び舎ゲストハウス Machi+Goto』にて。

地縁と趣味縁の融合

10年経つとさまざまな変化があるものですが、ひろしまジン大学では当時と今とで「人と地域のつながり」という部分で考えの変化はありましたか?
平尾:地域との関わり方としては、特定の地域に住んだりしてその土地に深く関わる場合と、各地域を行ったり来たりしながら関わる場合の2つがあると思っていて、僕らは後者にあたります。また、○○町会とか○○町子ども会といった地縁と、食や映画とかの趣味縁とがあって、ひろしまジン大学は趣味縁を軸に始まりました。
たしかに、授業には趣味的なテーマが多かったですね。スポーツとかカフェ、寺社めぐりとか。
平尾:そうそう。ただ震災や災害が増え始めたあたりから、地域で助け合うことが改めて見直されて、人と人との絆に世の中がフォーカスし始めてきましたよね。ひろしまジン大学としてもその視点を持ちつつ、地域を自由に移動できるからこそ生み出せるものがあると考えるようになりました。
地域と趣味の重なる部分を探していくような感じですか?
平尾:地縁と趣味縁をどう融合させるか、どう接点をつくっていくかのバランスが大事で、その頃から企業や自治体と一緒にコミュニティづくりやまちづくりをする機会も増えましたね。
ひろしまジン大学の授業風景。まち歩きをしながらコーヒー屋の店主に話を聞いている様子。

人と地域との関係づくり

これまで活動をしてきた中で、印象に残っている授業はありますか?
平尾:数年前から北広島町の大朝で「たんぼゼミ」を行っています。一年間米づくりを通して田舎暮らしや食育、ものづくりについて体験しながら学んで、地元の方との交流を行う授業です。初年度、若い人が多いと地域のおじいちゃんやおばあちゃんが喜ぶかなと思って、大所帯で行かせてもらったんですね。
楽しそう! 地域の方にも喜んでもらえそうですね。
平尾:田植えや草抜き、収穫をして、一緒にご飯食べたりして。米づくりを終えて1年を振り返ったとき、地域の方からある要望をもらったんだけど、どんな内容だったと思う?
たんぼゼミは、ひろしまジン大学の中でも長く続いている授業の一つ。
え~、なんでしょう。「これからもちゃんと続けてくれるん?」とかですかね?
平尾:ああ、近いです。要は「来てくれた人の名前と顔を覚えたいけど、多すぎて難しいから次は少人数がいい」ということだったんですよ。僕らは参加者という数で見ていたけど、そうじゃなくて質なんだなと気づかされたんです。人と人の関係をちゃんとつくっていくこと。地域ってこういうことなんだなと改めて感じました。
地域の人が求めていることを、理解してやっていくということですね。
平尾:僕らの概念を持ち込むだけじゃダメで、どのように地域になじんでいくか。もちろん地域だけだと新しいことは起きにくいので、そこは僕らができることをやらなければいけない。実際に翌年から少ない人数で行くようになるとより仲良くなって、参加者の中にはたんぼゼミがきっかけで田舎暮らしに魅力を感じて、移住する人もいたんですよ。
座学と組み合わせて行う授業も。建築の専門家から、被爆建物「旧陸軍被服支廠」について学ぶ。

まちづくりは炭火

次の10年に向けて、どのように活動していきたいですか?
平尾:先程のたんぼゼミの話ではないですけど、ひろしまジン大学を始めた当初は学生数を増やすことを意識していました。結果、これまでに約5,000人が授業を受けてくれたんですけど、次の10年でそれをさらに増やそうという指標はないですね。
5,000人というだけでも、十分多いんじゃないかと思っちゃいます。
平尾:もちろん、NPO法人なので誰にでも開けた場でありたいと思っています。同時に、授業で先生や学生として参加した人や、地域・まちづくり事業で関わった企業や自治体の人と向き合って、これまで以上に丁寧にコミュニケーションを取ることを大事にしたいなと考えていて。今はオンラインでの活動も増えているので、新たなスタイルでの関係づくりも日々模索しています。
関係性は一朝一夕で築けるものでもないですし、それこそ10年、20年としっかり続けていくことが大切になってくるんでしょうね。
平尾:まちづくりは花火じゃなくて炭火だと考えているんですよ。花火は華やかだし周りからの期待も大きいけど、根底にはずっと安定して焚かれている炭火がいる。つまり、想いを持って続けるということですよね。僕らは盛大に花火を上げることはできないから(笑)、これまでもこれからも変わらず炭火のようにじわじわと長く活動していきたいと思っています。
人の日々の営みや暮らしの結果がまちだと思っています」と平尾さん。

これまでの活動で、広島の魅力をさまざまな角度から丁寧に伝えてきた平尾さん。「まちの中には、光をあててみれば実は面白いことがたくさんある」と話します。まちを知り、人を知り、思いに触れる。まちに暮らす私たち自身が、まちを楽しむ。そうすれば、世界の人にとっても楽しめるまちになる。「エンジョイ広島」の言葉を胸に、平尾さんはこれからも人と地域に真摯に向き合っていきます。

NPO法人ひろしまジン大学 代表理事

平尾 順平さん

広島市出身。大学卒業後、国内外で国際協力や人材育成の仕事を経て、30歳のときに広島へ。2010年「ひろしまジン大学」を立ち上げる。メディアへのコメンテーター出演など、活動は多岐にわたる。

Machi+Goto

広島市西区草津南2-8-6

TEL.090-6313-9090

アクセス
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