明治23年創業の金具屋に生まれ、京都で修行したのち家業を継ぎ、職人としてさまざまな錺金具(かざりかなぐ)を製作する『吉田佛檀金具製作所』代表の吉田州伸(よしだくにのぶ)さん。伝統工芸士にも認定されている吉田さんの夢は、錺金具と全国の伝統的工芸品とのコラボレーション。取材を通して、編集部も金具の世界と吉田さんの想いに触れてきました。
幼い頃から慣れ親しんだ金具の音に導かれて
創業は明治23年で吉田さんが5代目だとお聞きしています。吉田さんは、やっぱり子どもの頃からこの職人の道に進もうと考えていたんですか?
吉田:小学生くらいの頃には何となくそう思っていました。子どもの頃は広島市南区の段原あたりに工場があって、しょっちゅう通っていたんですよ。職人さんが音を響かせながら金具を叩いている姿を見て、いつかは自分もやるんだろうなと思っていましたね。
吉田:それが、親父からはまったく継がさないと言われていたんですよ。京都の大学へ進学して、卒業する頃に「やっぱりやりたい」と伝えたら、それなら修行しなさいということでそのまま京都で修行に入りました。
吉田:5年くらいかな。京都では主に銅板に模様を入れる工程を学んだんですよ。それで2002年に広島に帰ってきました。
吉田:そうですね、ただ帰ってきて3年後に親父が亡くなって。業界のことを知らないまま入って、しっかりと技術を学ぶ時間もなく…という状況だったので、継いでからも職人として、経営面でも大変でした。
吉田:1つの仏壇をつくるときはチームで製作するので、例えばお仏壇店さんや先輩職人さんなど、周りの方から教えてもらいながらここまでやってきました。今は金具を見たり知る機会が減っていると思いますけど、この金具の技術を何とか残していきたいと考えています。
代々受け継ぐ手仕事と青宣徳
広島仏壇って県の伝統的工芸品に指定されていますけど、普段どのようにつくられるんですか?
吉田:製作工程は7つに分けられるんですけど、お仏壇店(塗師)さんが棟梁みたいな感じで仏壇全体の設計を担当することが多いんですよ。その中でうちは金具部門を担当している、という形です。昔は広島にも金具屋さんが3~4軒はあって、今も機械でプレスするところはあるんですけど、手作業でやるのはうちくらいになってしまいましたね。
手作業なのは吉田佛檀さんだけなんですか…! 本当に少なくなってしまって、貴重になっているんですね。
吉田:そういう面でも、やっぱり技術は伝えていきたいんですよね。今は新しい仏壇の金具のパーツをつくったり、長く使われてきた仏壇金具や寺社仏閣など建築物に使われている金具部分の修復を行っています。
京都で修行して学んだことと、広島で受け継いだ技術の違いって何かあったりするんですか?
吉田:京都は分業なので、金具の工程の中でも担当者が分かれています。型をとる人もいれば、私みたいに板に模様を入れる人もいて。でも自社ではその金具の工程を一貫して最初から最後までしているので、そこが違いでもあり強みにもなってきますね。
全部ということは、その分幅広い知識や経験が必要になってくるということでもありますよね。
吉田:そうですね、私は京都で模様を入れる工程のみ集中して学んだので、広島に帰ってきた頃は加工や寸法出しとかはまったく分からなくて。親父から3年の間でできる限りを教えてもらったという感じです。あと、うちは着色にも特徴があって、青宣徳(あおせんとく)という色を出しているんです。この着色技法は大阪が本家になるんだけど、真鍮に青を着色してこういう色にするんですよ。
本当だ、他のと比べると少し青みがかった渋い色合いですね。
吉田:この色合いを出していくのがまた難しいんです。実は今こうして出せているのも、親父が亡くなった後、数字とカタカナが書かれた数行のメモが見つかったからなんですよ。もしこれがなかったらどうなっていたかな…と今でも思いますよね。
吉田:そのメモが見つかってからも試行錯誤を繰り返して、なんとか出せた色です。水や薬品の量、温度とかが微妙に違うだけで、だいぶん変わってしまうので。
その試行錯誤のことを考えると、気が遠くなりそうです…。
手作業で生まれる錺金具の価値
吉田さんは伝統工芸士に認定されていますが、作業をするうえで大切にしているのはどんな部分になりますか?
吉田:新しい金具をつくるだけじゃなく、数十年前につくられた仏壇の金具を修復したり掃除したり、広島県以外にある寺院の金具部分をやり替えたりすることもあって。
歴史を持つ金具を修復するのは大変というか、緊張しそうですね。
吉田:当時担当した人の気持ちも考えながら、その上で自分が思うように色が出せたり、復元設置したときにイメージ通りの仕上がりにできるとやりがいを感じますよね。自己満足の部分になるかもしれないけど、そこも含めてお客さんに喜んでもらえるとうれしいです。
寺院だと、やっぱり機械じゃなくて手作業でつくられた金具が多いんですか?
吉田:それが、手作業ではないものが使われている場合もあるんですよ。もちろん機械でやるからこその良い部分もあるし、手でやるからこその良いところもあります。手作業だと画一的ではないので、二度と同じ金具は生まれないですよね。人がつくるがゆえの人間くささみたいなものもにじみ出て、それも味わいだと思うんですよ。
吉田:錺金具って街なかや一般的な場所で見る機会が少ないと思うので、技術をつないでいくのと一緒に、そうした価値やうちに秘めた部分を感じてもらえるような機会もつくっていきたいんです。
金具に込めた想いや心を伝えたい
錺金具のことを知ってもらうための活動って、これまでにどんなことをしてきたんですか?
吉田:広島仏壇伝統工芸士会というのがあって、その会から職人が小学校に出向いて4年生や5年生の子どもたちに伝統的工芸品について教えています。私も広島県内の小学校に伺って、体験授業をしたり話したりしているんですよ。
吉田:自分の場合は金具で打つ作業が多くて、真鍮のメダルを金具でとんとんと打っていく工程を子どもたちに体験してもらっています。他には、鉛筆に金箔を張ったり、蒔絵を描いたり、カンナで木を削ったりという体験もありますよ。今日はメダルを打てるように準備しているので、ぜひ体験してみてください。
吉田:小学校の体験授業だと、器用なお子さんは20分くらいでつくってましたよ。
おっと…、我々大人だけどその倍くらい時間かかりました(笑)。楽しみながら伝統工芸のことも知れるのでいいですね!
吉田:体験授業のあとは一緒に給食を食べたりお礼の歌を歌ってもらうこともあって、もう感動して泣きそうになります。子どもたちの記憶に残ってほしいなと思いますね。
小学校以外にも地域とつながる活動ってあったりするんですか?
吉田:ご縁をいただいた大学の先生の授業の一環で、学生さんが伝統工芸の価値を考えるということで、工場に来られて体験してもらうこともあるし、ものづくりフェスタというイベントに出店してワークショップを行ったりしています。
先ほど吉田さんも言われていましたけど、錺金具は街なかで目にする機会が少ないので、そうした活動はより大切になってきますね。
吉田:体験教室やワークショップを通して、まずは知ってもらう機会を増やしたいと思っています。それで想いを共有できる仲間を増やして、錺金具の作品を街なかで見れるように設置できたらいいなと考えているんですよ。あと、全国の伝統的工芸品とコラボして商品をつくってみるのも面白いんじゃないかと思っていて、これも夢なんですよ。
吉田:そういった機会を通して、金具の技術や知識、金具から感じられる安らぎとか心みたいなものを、何かしら形にして伝えていきたいですね。
取材の最後には、「広島CLiP新聞とのコラボでオリジナル商品をつくっても面白いかも!」と盛り上がった吉田さんと編集部。長く受け継がれてきた錺金具の技術、そして職人が技へ込める想いに触れることで、伝統を残し伝えていくことの大切さを改めて感じました。