本好きの川下耕平さんが、会社の駐車場の一角に設置した私設図書館「憩いの木箱」。壁と屋根があるウッドデッキに、木で作られた棚、ベンチ、テーブルがあり、まるで絵本の中から登場したような愛らしいたたずまいです。散歩途中の近所の人が休憩したり、下校後の子どもたちが立ち寄ったりして、地域のコミュニケーションを育む場所になっています。
2冊から始まった図書館
私設図書館「憩いの木箱」が誕生したきっかけを教えてください。
川下:地域を良くしたい、地域に貢献したいという思いがあり、会社と地域の接点ができたらいいなと考え、2018年に「憩いの木箱」を作りました。
川下:建築関係の会社なので、当初は端材を使ったワークショップなどを開催する場所として活用していました。二年間ほどいろいろ試していく中、私設図書館を運営している人を知って、自分もいつかやってみたいと思い、2020年に施設図書館の運営を始めました。
川下:置いている本は、全て地域の人や会社の取引先、友だちから寄付してもらいました。当初は2冊からのスタートでしたが、現在は830冊ほどあります。憩いの木箱ができて、挨拶していただいたり、話し掛けてもらったりなど、地域の人との交流が増えましたね。
本の感想がコミュニケーションツールに
川下:憩いの木箱では、本を借りる手続きは必要ありません。
川下:読んだ本の感想や読みたい本をリクエストできる仕組みにしています。毎月約50通ぐらいあって、いただいたコメントは定期的に会社の公式LINEのタイムラインや、メールマガジンで登録者に送っています。
それを見た登録者が、自分が持っている本の中に該当するものがあれば寄付することも?
川下:そうですね。リクエストや感想を読むだけでも楽しいと言ってくださる方もいます。
互いに見知らぬ人同士の本を通じたコミュニケーションが生まれていて素敵ですね。
「本に命を救われた」という言葉がやりがいに
川下:本を借りる人はもちろん、近所のお散歩コースにしてベンチで休憩する人や、友だちとわいわい宿題する小学生などがいます。子どもたちのその光景に「元気をもらえる」と喜ぶ人もいますね。
川下:たまたま僕が掃除していたとき「あなたがここを作ったんでしょ?」と話し掛けられたことがあったんです。その人は本をよく借りているらしく「借りた本を読んで命を救われた」とおっしゃっていました。あまり深く聞くことができなかったのですが、「今日あなたに会えて良かった」と言われました。
川下:声を掛けられたり手紙をもらったりすることで、周りが喜んでいることを知って僕もうれしいですし、やりがいを感じます。
地域の憩いの木箱、今後はどのように展開していきたいですか?
川下:本の置き場が無くなってきたこともあり、周辺に憩いの木箱のような場所が点々とできたら面白いと思っています。休憩するところがあると人が集まるので、そこで互いにコミュニケーションを取れば、より良い町になると信じています。
交流を育んだり生き方を変えたり、取材を通して感じた憩いの木箱と本の可能性。憩いの木箱を大切にする人が集まれば、地域のコミュニティーは強くなるはず。川下さんは「みんなで運営できる仕組みを考えていきたい」と話し、憩いの木箱を長く続けるための方法を探っています。