「自分の好きなもの、やりたいことを仕事にできたら」。 それは誰もが一度は考える生き方かもしれません。今回ご紹介するのは、定年後、長年の夢を叶えて「~移動販売の古着屋さん~ターコイズ」を始めた中下忠志さんのお話です。
広島市中区、緑豊かな東千田公園のすぐ隣にあるCLiP HIROSHIMAの敷地内に、ポップなイエローのハイラックスがとまっています。その側で古着を広げているのが、今回の取材先である「~移動販売の古着屋さん~ターコイズ」のオーナー・中下忠志さんです。
定年という節目、そして古着への情熱が背中を押した 実は中下さんは元中学校教師。今も古着屋の傍ら、非常勤講師として広島市内の中学校で勤務しています。だからなのか、お話も上手で訪れたお客様はみな楽しげに中下さんとお話しながら買い物を楽しんでいます。
中下: はい、学校の先生って生徒に怖がられる先生と全く怖がられない先生がいると思うんですけど、僕は全く怖がられないタイプの先生でした(笑)。教科は社会で、行ったこともない国について何年も住んどったかのように語り、生きてもいない遥か昔の時代について、さも生きていたかのように語る、詐欺師のようなトークで勝負しておりました(笑)。
社会の先生って面白い方が多かったなあと思い出しました(笑)。ところで古着屋さんをするというのはいつ頃から考えておられたのですか?
中下: 定年を意識し始めた55歳ころからですかね。これまでの自分にひと区切りつけて、新しいことをやりたいなと思ったんです。なので60歳を迎えたタイミングでトラックを購入して、この移動販売の古着屋を始めました。
中下: 友人たちにめっちゃ羨ましがられました。僕はどちらかというと枠からはみ出るのが怖くて、人からどう見られているのか気にするタイプ。みんなそれを知っているから「すごいじゃん!」って、絶賛してくれました。
ハイラックスはネットショップで見つけた松山の店まで買いに行った。お気に入りはバックの白い「TOYOTA」のロゴ 最近古着に興味がわいて、これまでも何度か訪れているという大学生。中下さんのアドバイスを聞きながら、熱心に古着を選んでいました エネルギー溢れる70年代の古着が好き 古着はどんなきっかけで集めるようになったのですか?
中下: オートバイが好きで30代で中型、40代で大型の免許を取得してからは九州によくツーリングに行っていたんですが、バイクにはやっぱりかっこいい古着が似合うんです。それで古着をコレクションするようになりました。でも洋服やファッションが好きなのは、僕の祖母が昔、市内で仕入れた洋服を店舗が少ない田舎に売りに行くという「行商」をしていて、その祖母についてよく洋服屋さんを回ったりしていたことも影響しているかもしれません。中学生の頃に流行ったVANとか、すごく好きでしたねえ。当時はソックスくらいしか買えませんでしたけど(笑)。
中下さんお気に入りの70年代のジャケット。「この無駄に大きい襟のデザインが大好き」 中下: 僕は特に70年代の古着が好きなんですけど、例えば無駄に大きい襟とか、何も入れられないお飾りのポケットとか、デザインにすごい「無駄」が多いんです。でもそこにめちゃめちゃ70年代のエネルギーを感じるんですよね。無駄なことにそんなに一生懸命になれるのか、みたいなところが。
年代ごとの楽しみ方とか、古着って知れば知るほど奥が深いし、面白いですね。もし選ぶコツがあれば教えてください!
明日から使える♪ ターコイズの古着レッスン 古着の見極めポイント①〜Tシャツ編
本物の古着Tシャツを見分けるポイントは、袖と裾(すそ)のステッチ。ステッチがダブル(2本)だったら2000年代以降の比較的新しいもの。シングル(1本)だと1990年代より前の古着だとか。
古着の見極めポイント②〜シューズ編
アメリカで誕生して106年経つというコンバースのオールスターは言わずと知れたスニーカーの王者。にもかかわらず、アメリカではもう製造されていないんだとか。そのため中底に「MADE IN U.S.A」と書いてあるものや、CONVERSEというロゴが四角で囲んであるものは80〜90年代にアメリカで製造されたものということで、特に希少価値が高いそう。
中下さんの話を聞くうちにだんだんと古着に興味が湧いてきた編集部員たち。急遽中下さんに古着をコーディネートしてもらうことになりました。
中下さんがチョイスしたのは、ブルース・リーがプリントされた黒いTシャツと真っ赤なダービージャケット、メンズのブラックデニムにピンクのコンバース。「めちゃくちゃ似合ってる!」という周りの反応に、「古着にハマりそう!」とご満悦の編集部員。 中下: 僕みたいなおじさんはつい古着のウンチクを言いたがるんですけど、若い子たちは「カッコいい!」「カワイイ!」って、理屈じゃなく感覚でパッと決める。いろんな楽しみ方ができるところも古着のよさじゃないかなと思います。
未来はいつからでもつくることができる! 古着屋になる夢を叶え、「ここに座って、自分の好きな古着がこうして風に揺れているのを眺められるのが幸せ」と目を細める中下さん。今はとにかくこの古着屋を長く続けたいと思っているそうですが、将来はいつかアメリカに仕入れを兼ねた旅行に行って、バイクで砂漠を疾走してみたいと、さらなる夢を聞かせてくれました。
定年を機に、大好きだった古着屋を始める夢を叶えた中下さんのお話を聞いていると、未来はいくつになってもつくることができる!と勇気をもらえます。近い将来、中下さんの2つ目の夢、アメリカ旅行もきっと叶うにちがいありません。