「しつもんメンタルトレーニング」って聞いたことがありますか? 「しつもん」を通して一人ひとりを認めて、個人の良さを引き出すメンタルトレーニングの一つです。この考え方をワークショップや講習会を通して伝えているしつもんメンタルトレーニングアクティビティトレーナーの加藤智也さんに、「しつもん」から考える人と人との関わり方について教えてもらいました。
しつもんメンタルトレーニングを体験
加藤さんはしつもんメンタルトレーニングアクティビティトレーナーとして活動されていらっしゃいます。まずは「しつもんメンタルトレーニング」がどういうものなのか教えてください。
加藤:「しつもん」を通してその人なりの気付きや発見を見つけて、さらにそれを他の人と一緒に行うことでさまざまな価値観に触れてもらう、メンタルトレーニングの一つです。
加藤:例えば子育て中のお母さんだと、子どもが宿題をしていなかったら「宿題しなさい!」って言うことが多いですよね。
加藤:そこを、「宿題はいつするの?」と問いかける形で聞くんです。そうすると、子どもは自分で考えて返事をしますよね。「ゲームが終わったらする」とか「何時からやる」とか。「しつもん」を投げかけられた人が、自分で答えを出せるような問いかけ方をするんです。
加藤:そうした「しつもん」を複数人でしあうと、今度は人それぞれ違う答えが出てきます。答えは正解も不正解もないので、違う答えや価値観に触れて自身の新しい気付きや発見につなげていくんです。
自主性や多様性を認めるきっかけづくりという感じでしょうか。
加藤:そうですね。「しつもん」の仕方で返ってくる答えも違いますしね。自分はアクティビティトレーナーとして活動しているので、ワークショップで体を動かす簡単なゲームなどアクティビティ要素を加えながら、「しつもん」を通して人と人の関わり方を知ってもらう方法を伝えています。
せっかくなので、私たちもゲームアクティビティをさせてもらったりできますか?
加藤:もちろんです! 今日は道具を持ってきているので、やってみましょう。
加藤:3人で手分けして、シートに書かれている数字を30秒以内で番号順に消せるだけ消していきます。まずは一回やってみましょう。よーい、スタート!
加藤:なるほど、じゃあもう1回やってみます。次23以上を消すためにどのようにすれば良いと思いますか?
藤安:えーっと、ゾーンで区切ってみたりとか? 自分から近い場所にある数字をまずしっかり探すとか…。
中尾:あと、消すときに数字を声に出しながらするとみんなも分かりやすいかも?
じゃあその2つを意識しながら次はやってみましょうか。
加藤:はい、終了です! 今回は何番まで行きましたか?
加藤:増えましたね! こんな感じで1回目が終わったら私が「しつもん」を投げかけて、それに対してどう対応するかチームの中で話し合ってもらうんです。そこで出たいろんな意見を受け入れながら2回目をやってもらうことで、チーム力を高めていくというゲームです。次は、もっと体を動かすものをしてみましょう。
こうやって体験すると、どんなものなのかが分かりやすいですね。ゲームをクリアするためにどうすればいいか、チームの人同士で「しつもん」したり考えたりして。
加藤:そうですね。体験に勝るものはないので、ワークショップではこうやって頭や体を動かしながら、楽しんでやってもらっています。
大人にも子どもにも生きる「しつもん」
加藤さんは、どんなきっかけでしつもんメンタルトレーニングに出会ったんですか?
加藤:もともとは小学校の頃からサッカーをしていたので、体育の先生になってサッカーを教えたいと思ってスポーツ課程がある大学の教育学部に進学したんですよ。
加藤:その中で、いわゆる非認知能力の部分に魅力を感じるようになりました。スポーツを楽しみながら集中力とか協調性とかを学べるのがいいなと思って、リーフラスという会社に入社して子どもたちにサッカーを教えるようになりました。
加藤:そうですね。これまでサッカーを通して子どもたちが成長する場面をたくさん見てきました。そうすると、答えを伝えたり与えるんじゃなくて、子どもたちが持っているポテンシャルや可能性を引き出すことが大切だなと感じるようになったんです。
加藤:ベトナムや台湾でサッカー教室をしたとき、英語や現地の言葉が上手く話せないから、子どもたちと会話できないわけですよ。なんとかボディランゲージでやってはみるけど、それまでやってきたようには伝わらない。概念を大きく覆された感じがして、これじゃダメなんだと痛感したのも大きいです。
それで子どもの人間力のような部分を引き出すという形に。
加藤:スクールでできることって時間にも回数にも限りがあるので、スポーツの場に限らず普段の生活の中で子どものやる気を引き出す方法とか、その子どものやる気をお父さんお母さんに上手く知ってもらう方法はないのかなって考えていたときに知ったのが、しつもんメンタルトレーニングだったんです。
加藤:主体的に考える力がつく「しつもん」と、のびのびと体を動かすアクティビティを掛け合わせることで、子どもたちがイキイキ活動できるという点にビビビッときました。しかも、子どもに対しても大人に対しても生かせる考え方なんですよ。それもいいなと思ってて。
確かにお話を聞くと、子育てはもちろん仕事とか、広くは暮らしの全方向にも生きますよね。私はライターで質問することが多い職業だったりするので、確かになぁと思っちゃいました。
加藤:自分でも勉強したり、これまで経験してきたことをどうリンクさせられるかを考えながら準備をしてきて、2020年からトレーナーとしてイベントや研修会を開催するようになりました。
「しつもん」でコミュニケーションを深める
これまでにどんなイベントや研修会を開いたんですか?
加藤:親子向けに「最終的に自分はどうなっていたら最高?」という「しつもん」を設定してワークショップを行いました。体を動かしながらみんなで一緒に遊んだ後、考えたことを振り返ってみると、子どもたち一人ひとりのリアクションや答えは違います。
加藤:はい、完璧な答えを求めているわけではなくて、考えることが大切。保護者の方も一緒に参加して、子どもたち全員の答えを聞いてもらってさまざまな反応に触れてもらうと、家でも今までとは少し違う関わり方ができたりコミュニケーションがとれるようになったという感想をもらいました。
加藤:行政とタイアップして、新人からベテランまで保育士さん60人くらいにチームづくりをテーマに研修会を開催させてもらいました。座学だけじゃなく一緒に体を動かすワークをするので、腑に落ちる感覚、満足度や納得感は高くなりますよ。
加藤:チームビルディングという面で、学校や保育現場、企業で新しい事業を始めるときなどに、お互いへの理解を高めるためにこの機会を持つといいんじゃないかなと思っています。時代的に、今までにない価値観や行動が必要となる仕事の場も多いですよね。対話や多様性を大切にするところから新たなアイデアが生まれてくると思うので、大人にとっても自分が自分らしくいられることのきっかけになればと思っています。
たくさんの人に会う活動の中で大変だったことはありますか?
加藤:やっぱり活動を始めた頃ですかね。最初はワークショップをするといっても1名も集まらなかったんですよ…。自分でチラシをつくって配布してもなかなかで(苦笑)。CLiP HIROSHIMAでイベントする前も、自分で企画書を準備して持ち込みましたし。
そうだったんですか! 地道な活動を経て、少しずつ範囲や機会が増えていったんですね。
加藤:今、少しずつ共感してもらえる人が増えてきているところなんですよ。あとはトレーナーとして多くの価値観に触れる以上、自分自身もさまざまな体験をしてそこから湧き出てくる言葉で伝えていくことが大切だと思っています。
「しつもん」を教科の一つに
「しつもん」を通して人や地域とのつながりを考えているとのことですが、これから挑戦したいことや目標はありますか?
加藤:まずは、PTAのワークに足を運んだりして幼稚園や保育園、小学校の先生方や保護者の方にワークショップをする機会増やしたいですね。
加藤:そうですね。あとは本当に大きな夢になるんですけど、学校で「しつもん」の授業をしたいんです。国語、算数、理科、しつもん、っていうように、教科の一つになるといいのになと思っていて。
加藤:その環境が当たり前になればいいなと、大きな夢を持っています。ただそれは一人では無理なので、共感した人たちと一緒に少しずつでも近づけたらと思っています。
お互いへの理解を深める「しつもん」はコミュニケーションにも関わることなので、小さな頃から自然とそういう考え方ができるようになるといいですね。
加藤:「しつもん」って、広い視点で見ると自分の心が満たされているから他の人の考え方を受けとめる余裕が持てる、ということにもつながってきます。そうした考え方ができれば、もっと寛容な関係性とか多様性を受け入れられる社会になっていくんじゃないかなと考えています。
しつもんメンタルトレーニングの考え方を取り入れると、自分の心の持ちようや在り方も変わってきて、周りの人との関係性もより深く築けそうです。さっそく自分自身へ、周りの人への「しつもん」を今日から始めてみませんか。