かつては商店が立ち並び、賑わっていたJR可部駅東口周辺。平成に入ってからはかなりの商店が閉店し、シャッター通りになっていました。「愛する可部の町を活性化させたい!」という熱い想いで始まったのが、「噂通りの会」。今回はそのメンバー4名に集まっていただき、立ち上げのきっかけや活動について話をお聞きしました。
「楽しい!」が原動力に
気が付いたら可部駅東口の交差点に「噂通り」の看板が立っていて、あれ? いつこの通りは「噂通り」になったんだろうとびっくりしました(笑)。どういう想いで、名付けられたんですか?
大戸:最初は『HOTEL RICH』のキャッチコピーを長谷川哲士さんにお願いしたんです。長谷川さんはローソンの悪魔のおにぎりなど、大手の企業から依頼が殺到するコピーライターさん。誰にでも優しく、愛のある言葉で人を動かす力を持った方です。実際に長谷川さんがホテルに泊まられたとき、近くの店をはしごしてもらったんですよ。
大戸:長谷川さんは「どのお店も噂通り美味しかった! 僕の会社がある渋谷にだってこんなに楽しくはしご酒できる通りはないですよ」と喜んでくださいました。「この通りを噂通りにしませんか?」と冗談のようにおっしゃっていたので、お礼のメールにも「噂通りのホテルリッチです!」と送ったんです。それから5日後、「広島に日本で唯一の“噂通り”をつくりましょう!」という企画書が届きました。それを見たら、可部のみんなに伝えたくなって。このメンバーで地図に残る仕事をしたいと本気で思ったんですよ。
なるほど! ネーミングが先で、その後に会ができたんですね。
大戸:可部駅前を盛り上げたい、自分たちが住む町を、自分たちで面白くしたいと結成しました。駅前に『どうらく』という居酒屋があるんですが、現在のメンバーはそこのお客さんや取引先です。
梶谷:そうそう、みんな飲み仲間。飲みながら盛り上がって、「せっかくここにいろいろな店があるんだから結束して、可部の町を盛り上げようや」ということになったんです。
大戸:『どうらく』の営業が終わる夜中12時前後に集まって、朝まで語り合っていましたね。イベントの内容一つ決めるのもなかなか決まらない。でも集まったら楽しい! それが原動力でした。
梶谷:同世代だったこともあり、すぐ意気投合しました。全員に共通していたのが「可部が大好き。だからこそ可部を盛り上げたい」という想い。現在のメンバーは『HOTEL RICH』、『旭鳳酒造』、『木の家』、『SAKE Barゆう』、『どうらく』、『まるしげ商店』、『広島北BEER BAR』、『かしわや入江』、『Pizzeria la Vita』の9つです。これからどんどん同じ気持ちを持った同志を増やしていきたいです。
可部愛がすごいですね! 皆さん、地元ご出身ですか?
岡原:僕は可部南小学校、可部中学校、可部高校と生粋の可部っ子です。卒業後は飲食店で修業するため関西のほうに10年以上出ていました。可部にはたまにしか帰っていなかったけど、帰って来たときは父と『どうらく』に飲みに行ったりしていたんですよ。自分の店をこの場所にオープンしたのも、『どうらく』のオーナーに「この近辺でお店を出したらどう?」って勧められたのがきっかけで。
梶谷:そうだよね。『広島北BEER BAR』も同じように勧められたのがオープンのきっかけだしね。仲間がどんどん店を出して、めちゃくちゃいい循環になってる!
濵村:僕は旭鳳酒造の7代目で、大学時代は安佐南区にいたけど就職してからはずっと可部に住んでいます。可部の町がどんどんさびれていくのが悲しくて、どうしたらいいのかなと思っていました。『どうらく』でみんなとのつながりができて、可部をいい町にしていきたいという根っこが一緒だっていうことが分かって。これからも同じ想いを持って進んでいけたらいいなと。
大戸:私は、祖父がもともと可部駅前で酒販店をしていたんです。平成元年に父がコンビニとウィークリーホテルを建てたんですよ。ゆうくん(岡原さん)はそこでアルバイトをしてくれていたんよね。
大戸:私は結婚して関東にいました。全然可部に戻る気がなかったんですが、父が病気になって介護のために帰ってきました。一人っ子だったんでね、そのまま跡を継いで可部に住んでいます。関東出身の主人からは騙されたと(笑)。
梶谷:僕は呉出身ですね。最初は歯科技工士をしていたんですが、結婚して一軒家に住みたいと思って可部南の借家に住んだのが、可部と縁ができたきっかけです。
参加型イベントで可部の魅力を発信!
ちなみに噂通りの範囲はどこからどこまでなんですか?
梶谷:いい質問ですねえ(笑)。実はGoogleマップにも「噂通り」って登録されているんですけど、今後は可部駅前だけじゃなくて旭鳳酒造がある旧道の一部も噂通りにしたいと今頑張っているんですよ。
梶谷:そう、東側って駅裏と言われがちなんですけど、実際にそう言われると「はあ? 何を言っとるんや!」って気持ちになります(笑)。駅裏ではなく、駅前と呼んで欲しいですよね。
Googleマップにも「噂通り」とバッチリ表示。今後は旧道にある『串井木材』から『旭鳳酒造』までも噂通りにするべく活動中。梶谷:自分たちで考えていたイベントは、コロナでできなくて…。広島市の「元気なまちづくりプロジェクト」に採択してもらったので、改めて趣向を凝らしたフェスティバルを行っています。
岡原:フェスティバルをやりながら、みんなに「可部が盛り上がってるね」と思ってもらえればなと。
皆さんの気迫を感じます。フェスティバルは具体的にどういったことを?
大戸:2020年11月29日に東口の駐輪場をフードコートにしたイベント〈噂通りのフェスティバル〉を行いました。その日は語呂合わせで、「いい肉の日」。肉を使った多彩な料理をみんなに楽しんでもらったんですよ。そのときに使った竹テントは評判だったよね。
竹テントはクラウドファンディングで制作者を募られたんですよね?
岡原:そうなんです。イベント用の竹テントをDIYするメンバーを募集しました。講師は広島のマルシェムーブメントの草分けで、green ground marketの仕掛け人の一人でもある南澤克彦さんにお願いしたのですが、皆さんにとても興味を持っていただけたみたいで、支援目標が2日で達成できたんですよ。
梶谷:2021年には2月に新酒祭り、夏には浴衣を着てクラフトビールを楽しもうというイベントを考えています。もちろん、趣向を凝らした料理も出ますよ!
大戸:私たちメンバーだけでなく、地元の企業さんもすごく応援してくださっているんです。日本で唯一の五右衛門風呂製造を行う大和重工さんは、「噂通りのフェスティバル」のために特別な五右衛門風呂のDJブースをつくって、音響機材も全て用意してくださいました。会場を盛り上げてもらった音楽だけじゃなく、鋳物製造メーカーならではの、噂通りのマンホールを使ったプリントワークショップも大好評だったんですよ。
濵村:フェスティバルは、みんなの可部愛がドーンと爆発する場になればいいよね!
周囲を巻き込んで盛り上がってる! コロナでイベントが延期になっても負けてないですね。
岡原:梶谷さんの提案で以前、安佐市民病院の医療スタッフに弁当250食の差し入れをしました。私の店では法人向きの弁当もつくり始めたのですが、そのときの経験がとても生きていますね。
大戸:楽しかったですね。朝早くから全員同じ服を着て、頭にタオルを巻いて、頑張ってつくって。コロナということもあり弁当提供も受け入れてくださるところが少なかったのですが、看護師さんが「噂通りの弁当が食べたい」と言って応援してくださったみたいで、本当にうれしかったです。
目指すは、リアル版「どうぶつの森」
梶谷:噂通りプロジェクトはスタートしたばかりなので、今はやりたいことが山積みです。自分の会社の理念に「社会貢献する」というのが入っているのですが、噂通りでやりたいことと合致してる。社員も全面的に協力してくれています。町が盛り上がるのは、多方面にプラスの影響がありますよね。マイナスなことは一切ない。だったらめちゃくちゃいいことをしているなと思うし、本当に楽しいんですよ。
大戸:私は可部をリアル版「どうぶつの森」として楽しみたい(笑)。ゲームよりよっぽど楽しいよね。商店街に八百屋さんが欲しいと思ったら、八百屋をやりたい方と出会って、応援して、一緒になって笑ったり、泣いたりして。そうやって応援された方は、次誰かにそれをお返ししたくなるんですよ。この周辺のお店で生活できるくらいの通りになったらいいですよね。
それ、楽しそうですね! 皆さん可部駅前をどんな風にしていきたいですか?
梶谷:我が家は高校2年生、中学2年生、小学1年生の3人の子どもがいます。この子たちが成人したときに、広島市内じゃなく、横川でもなく、可部で飲もうや! という町にしておきたい。
大戸:私が小さかった頃は商店街がとても賑わっていたんです。この噂通りは私の遊び場だったところ。歩行器に乗って、駅まで一人でウロウロしていてもタクシーにもひかれないし、ご近所みんなで見守ってくれていました。
大戸:ね、今じゃ考えられんよね。両親が夜遅くまで働いていたので、どこかの家でご飯を食べさせてもらったり、本当にいい思い出ばかりあります。近年はさびれてしまって、マンションも立ち並び、ご近所の人も顔が分からない。みんなで子どもを育てられるような通りにしたいですね。
濵村:この町は江戸時代、交通の拠点として栄えた宿場町でした。今は広島市でも郊外というイメージがある可部ですが、自然も豊かだし、戦争の被害がなかったので古い町並みも残っている。可部の良さはたくさんあると思うんですね。
大戸:そうそう。可部の町には旧道沿いにまだ170軒ぐらい古民家が残っているんです。その貴重な財産をそのまま眠らせず、お店をしたい人がいればそこを改装してやってもらって、倉敷の美観地区みたいになればうれしいな~と思っていて。
濵村:古いものと新しいものを融合させて、可部に住んでいることが自慢できるような町にしたいし、もっと可部の魅力を発信できる企業にもなりたいですね。可部の人は可部愛が深いですからね~!
岡原:わざわざ可部まで飲みに来てもらうことを考えると何かに特化したお店ができるのがベストかなと僕は考えています。地産地消のものが楽しめたり、可部の良さを知っている人がいたり、特徴のあるお店にしていくのがいいよね。僕自身、猟師であり、米づくりをしていた祖父から山の中に分け入って食材の楽しみ方を教えてもらった。その美味しさを旭鳳さんのお酒と一緒にみんなに伝えていきたいですね。
女子会にも最適! 楽しみ方は無限大
せっかくなので噂通りでの食べ歩き、ぜひ体験してみたいのですが…。
大戸:もちろん! 連れて行ってあげるよ。飲み歩き、めちゃくちゃ楽しいよ。では早速行きましょう!
大戸:まずは可部駅東口から徒歩すぐ、『串やき まるしげ商店』です!
大浦:白レバーかな。ねっとり濃厚で、癖になる味わいです。ないこともあるから、あればラッキーですよ!
大浦:遠赤外線でじっくり焼き上げているので、中がふっくらしているのが特徴なんです。串は事前に予約してもらえたら、持ち帰りもOKです!
大浦さん、ごちそうさまでした! 美味しかったです!
平本:いらっしゃいませ! 「噂通りビール」と「広島オイスタースタウト」がおすすめなので、良かったらどうぞ。
噂通りビール、すごくフルーティーですね! 美味しい! 広島オイスタースタウトはガツンときます。
平本:地元の上質な地下水を100%使って仕込みをしてるからね。県内産のハッサクやレモン、オレンジなどのフレッシュな果物を使ったビールもあって、女性に人気ですよ。
それ最高ですね! 駅から近いし、電車やバスの待ち時間に利用する方も多いんじゃないですか?
平本:ふらっと立ち寄られる方、飲食店へ行く前や後に利用する方も多いですよ。3種類飲み比べセットも置いてあるので、ぜひいろんなビールを試してみてくださいね。
こうして可部でしか飲めないクラフトビールがあるし、駅前には飲み歩きできる魅力的な飲食店が多くて、はしご酒にぴったりな町だなと改めて思いました!
噂通りの会の皆さんに話を聞いて、実際にはしご酒を楽しんで。可部の町がこれからもどんどん盛り上がっていくことは間違いない! と確信したひと時になりました。これからは、飲みに行くならぜひ噂通りも候補の一つにしてみてください。町を愛する噂通りの会のメンバーが温かく迎えてくれますよ。