庄原ICを降りて車を走らせること約4分。広い駐車スペースを囲むように幼稚園、小児科クリニックと調剤薬局が建ち並ぶ一画に、本屋「ほなび」はあります。
「ほなび」を経営するのは、総商さとう代表取締役社長の佐藤友則さん。庄原市で明治創業の歴史をもつ総商さとうの4代目であり、お隣の東城町で「ウィー東城」という本屋を営んでいます。
佐藤さんは2001年に「ウィー東城」の店長に就任。全国の本屋が苦境を強いられる中、黒字化に成功。その後、20年以上も右肩上がりの成長を続け、今や全国の書店員が視察に訪れるという、知る人ぞ知る本屋さんです。
その佐藤さんが2店舗目となる新しい本屋さんを開業したと聞きつけ、本屋好きの広島CLiP新聞編集部員がさっそくお話を聞きに伺いました。
街の本屋はみんなの未来のためにある
「ほなび」をオープンすることになった経緯を教えてください。
佐藤:2023年、庄原市で2軒の書店が相次いで閉業しました。いろんな方に「あんたが(本屋を)やらんと駄目だ」って説得されたけど、「本屋なんて1軒だけでも大変なのに2軒は無理です」って、ずっとお断りしてたんです。でも「いい物件があるから、見るだけでいいから」と、コンビニの跡地のここを紹介されて、ひと目見た瞬間、頭の中に本屋をイメージできてしまった。だから決めちゃいました。
佐藤さんの決心を地域の方は喜んでくださったのでは?
佐藤:そうですね、たくさんの方に応援していただきました。コンビニの跡地って通常は家賃が高くて下がりにくいそうですが、大家さんが地元の名士で、本屋ができるならと家賃をすごく下げてくださったんです。実は日本には明治の頃から地域の名士が街の本屋を支えてきたという歴史があるんですが、今回もまさにそうで。いい街にしたいという街の方々の強い思いがあったからこそ「ほなび」は生まれたんだと思います。
2024年5月に「ほなび」がオープンして数ヶ月。今、どんなことを感じていますか?
佐藤:ここでやってみて分かったのは、本屋って未来のためにあるということ。本って今日より明日がよくなるために読むでしょ。だから未来のために本屋はあるんだなっていうのを、ほなびを開店してみて改めて強く感じています。
そういえば、オープン前に地域の方々と一緒に本の棚入れを行ったそうですね。
佐藤:「開店前の空っぽの本棚にみんなで本を詰めよう!」と声かけしたら、3日間でなんと150人以上の老若男女の皆さんが集まってくださったんです。みんなで約2万3000冊の本を棚に詰めました。
佐藤:棚づくりに参加できたことをとても喜んでくださったし、自分でつくった棚がどう変わっていくのか見たいとおっしゃって、オープン後もしょっちゅう来てくださいます。我々としても「みんなでつくった」という温度感をつくれたし、その温度感が高いままキープできているのがすごくありがたいですね。
「ほなび」がお客様とのコミュニケーションをすごく大切にされているというのが伝わってきます。
佐藤:やっぱり本屋の最たるは接客なんです。店のことはもう店長や若いスタッフに任せているので、僕が表に出る機会は少なくなってはいるのですが、店に立ったときは一日中お客さんと喋っています。しかも、ほぼ本に関係ない話ばっかり(笑)。でも実はそれが一番大事なことで、日常会話の中にこそ、重要なヒントがある。
お客様が来たら「いらっしゃいませ」だけ言ってあとはパソコンとにらめっこ、ではだめなんです。お客様といっぱい話して、お客様から教えてもらって、発展していくのが本屋の基本なんだよって、スタッフにもいつも言っています。というか、僕がスタッフに言うのはそれだけですね。
本屋を街に分解して、街を再生する
これから「ほなび」をどんな本屋にしたいとお考えですか?
佐藤:「ウィー東城」の時は、地域の人がほしいと思うものを店の中につくってきました。けど「ほなび」はそれを地域の人、次の世代を担う若い人たちと一緒に店の外、つまり街の中につくれたらいいなと思っているんです。本屋がなかった地域に「ほなび」ができた瞬間から街が再生していく。そういう物語が描けたらいいなと。
佐藤:1つは「ほなび」の周りに空き家や空き店舗がたくさんあるので、そこに中高生のための自習室をみんなでつくれたらいいなと思っています。しかもただ勉強するだけのスペースじゃなくて、子どもたちの人生が変わっちゃうようなスペース。
佐藤:あらゆるジャンルの第一人者と繋がる場所にするんです。第一人者といわれる人は、大体、本を書いてるでしょ。だから本屋なら出版社を通じてそういう人を呼べる。呼ぶのは子どもたち自身ですよ。僕はそのお手伝いをするだけだけど、本屋を通じて特別な人と出会い、人生が変わる。そういう提案です。
佐藤:でしょ(笑)。そして自習室に今は「ほなび」に置いている参考書類をごそっと持っていく。そうやって本屋を街の中に分解していくと、本は街に溶け込んでいく。しようとしているのは、本屋の価値の再定義なんです。
佐藤:今、日本の1/3が無書店地域ですが、「ほなび」の活動を通じて「本屋があったら子どもたちのそういう可能性に繋がるんだよ」ということを見せることができれば、「街に本屋が必要だといってるのはこういうことなのか」となる。そうすれば「街に本屋を呼ぼうぜ」となって、無書店地域もひっくり返ると思うんですよ。
佐藤:本屋にしかできないこと、本で表現できることはいくらでもある。だから、「超絶おもしろいじゃん!」って思うことをしながら、時代の少し先を歩いて行けたらいいなと思っています。
はつらつと元気な佐藤さんのお話を聞いていると、いつのまにかこちらまで笑顔になります。遠くてもわざわざ行きたくなる街の本屋さん「ほなび」で、あなたの人生を変えるかもしれない一冊を、探してみてはいかがでしょうか。運が良ければ、佐藤さんにも会えるかもしれませんよ!