広島には、世界基準のモノづくりをしているメーカーが多くあります。モルテンもその一つ。子どもの頃からバスケットボールやバレーボールで親しんできたという人も多いのではないでしょうか。
そのモルテンが2022年、広島市西区観音新町に完成させたのが、テクニカルセンター[the Box]。技術職の社員が主に勤務するこのセンターは、“モノづくりの心”を刺激するさまざまな工夫にあふれた場所だと話題です。
今回は、そんな特別な場所へ広島CLiP新聞編集部員が潜入! [the Box]とはどんな場所なのか体感してきました。
創造性豊かに、新しいモノづくりに挑戦できる環境を エントランスを入ると目の前にある大階段。左側の段差は幅が広く、座って語らうなどコミュニケーションの場としても活用されている。 この素敵なセンターを、[the Box]建設プロジェクトメンバーの中森さんが案内してくれました。
[the Box]がつくられた経緯を教えてください。
中森: 「開発センターが欲しい」という社員の声に応え、2012年にセンター建設の構想が立ち上がりました。それから立地やコンセプトの検討、決定を経て、2021年に着工、2022年に竣工しました。[the Box]という名前には、「Outside the Box(創造的な、独創的な)」というメッセージが込められています。モノづくりに関わる社員がアイデアを形にできる設備環境を整えたテクニカルセンターです。
[the Box]建設プロジェクトのメンバーの一人、株式会社モルテンの中森真太郎さん。 中森: モルテンには4つの大きな事業があります。各事業のモノづくりのほか、全事業を横断して開発ができるような場をこのセンター内に設けています。競技用ボールの製品開発を追究する「the Court」、自動車部品の開発やクルマの走る歓びを共有する「the Garage」、医療・福祉機器の開発や研究に取り組む「the Medical Lab」、マリン・産業用品事業を含めたすべての事業が得意な分野を生かしながら共同でアイデアをカタチにする「the Studio」の4つです。
バスケットコートが設置されている「the Court」。コートの上層階には社員のオフィスフロアがあり、エンジニア自身がすぐにコートへ降りて試作品をテストできる環境になっている。 エンジニア自ら実車を組み立てたり分解したりして、エンジン吸気部品やシャシー部品などの開発技術を磨く「the Garage」。半無響室も用意し、より広く比較・検証ができるように。 人の動作解析ができるモーションキャプチャを備えた「the Medical Lab」では、人間工学をベースに医療や介護の現場で欠かせない床ずれ予防エアマットレスや車いすなどの開発を行う。 事業の壁を越え、社員がコミュニケーションを取りながらモノづくりのアイデアを持ち寄り、新しい取り組みにチャレンジしていく「the Studio」。社員やその家族が作業台をDIYで制作するなど、社員自身も[the Box]建設の一部を担った。
庭や農園、羊に観葉植物。有機物がいたるところに どの空間も、生み出したものをすぐに試せるのがいいですね。
中森: 「つくりたい」という気持ちを掻き立てるような場所を目指して建てられているので、技術者がすぐ行動に移せるような環境にしています。先ほど挙げた4か所以外にも、館内にはさまざまなアイデアが採用されているんですよ。
中森: 屋外に小さな庭や農園を設けて、野菜や花などを育てています。羊も飼っていてエサをあげたりできますし、館内と庭には330種以上の観葉植物がいたるところにあるんですよ。技術者は普段無機物に触れることが多いので、有機物に触れることでいつもとは違う刺激を受けて、新たなアイデアにつなげられたらという思いからです。
建物すぐ横にある羊小屋では、3頭の羊が元気に過ごしている。5月には社内イベントとして羊たちの毛刈りも実施。 1階エントランス付近や社員フロアなどには多くの観葉植物が。 自然のものが近くにあると、仕事中もリフレッシュできそうですね。
中森: そうですね、メリハリをつけることも大切だと考えています。あと、違和感を感じることがアイデアの発想元になったりすることもありますよね。そうした感覚を得られる箇所もあるんですよ。
例えば「the Court」のバスケットコート。競技ルールとしてはラインは白線が一般的だが、ここでは違和感を生むように黒線で設計。
コミュニケーションが生まれるオープンスペース 建物1階は、ガラス張りで開放感あふれる気持ち良い空間ですね。ここは食堂でしょうか?
中森: 1階は特に社内の人が自由に集まれるような、食堂やカフェ、大階段などがあります。社内での打ち合わせや社外の方との打ち合わせもここで行います。社内外の交流を通していろんなアイデアを生み出し、活性化できるようなコミュニケーションスペースです。食堂ではこの広い空間を生かしてミニ四駆大会をしたり、カフェではモニターでスポーツ観戦をしたりと、[the Box]ができて以降は社内行事も増えました。
昼休憩の時間になると、食堂には多くの人々が。開放的な空間で、食事をしながら皆さんリラックス。食事を終えると、外の庭を散歩する人もいるのだとか。 仕事をするフロアと、食堂のようなオープンな場。どちらも創造性を高められる造りになっていて、まさにモノづくりに携わる人にとって良い刺激が得られる空間になっているんですね。
中森: そうですね。良い製品をつくっていきたいという気持ちはもちろん、例えばフリーアドレスやドレスコードの変更、ペーパーレス化やキャッシュレスなど、働く環境としての根本的な改革も行いました。気持ちよく働き、モノづくりへの意欲を高め、社会貢献や地域貢献にも意識を向ける。そうした循環の中で、社員や関係者の皆さん、地域の皆さんとともに新しいモノの価値が生み出せる場所になっていけばと思っています。
[the Box]の中は、どの場所もまるで映画のセットのような雰囲気。 食堂横には、入社から1年かけてモノづくりの研修を行ってきた新人エンジニアによる修了制作を展示。2023年度はイスを制作。アイデアを自由に豊かに膨らませた、個性が大爆発しているプロダクトが並ぶ。 2階はギャラリーになっており、4事業部の主力製品がずらりと展示されている。
社員のモノづくりへの探求心がきっかけとなり、10年の月日をかけて誕生したテクニカルセンター[the Box]。世界大会の公式球として選ばれる競技用のボールや、機能や性能を最大限に引き出す製造技術に高い信頼を得ている自動車部品など、その名を世界的に知られている広島発のモノづくりメーカー・モルテンが手掛ける、これまでにない、今まで以上の製品がここから生まれることが楽しみで仕方ありません。
中森さんと編集部員4名で。潜入させてもらった私たちもたくさんの刺激をもらう時間になりました。