標高400メートル程の高原地であり、多くの観光農園で季節の果物や花を楽しむことができるなど、お出かけスポットとして人気の高い世羅町。かつては茶産地としても知られたこの場所で、現在、茶の木を育てているのが西甲太郎さん・智子さんご夫妻です。
西さんが収穫するのは、茶葉ではなく茶の実。国内でも茶の実を専門とする農家は少なく、西さん夫妻は収穫した実からオイルをつくることに取り組んでいます。
日々の暮らしの中でお茶を飲むことは多くても、茶の実からとれた「ティーシードオイル」を使う機会はまだまだ少ないのではないでしょうか。お二人にティーシードオイルの特徴について、そして世羅町での栽培や収穫について話を伺いました。
実は、茶の実には驚くほどの成分が。
ティーシードオイルをつくり始めたきっかけを教えてください。
西(甲):世羅町は、高原地で赤土があり、在来種の茶の木が残っているなど、全国的に見ても茶の生産にとても向いている素晴らしい土地です。僕自身は茶農家として歩もうと世羅町へ移住し、最初は茶の木を育てて茶葉を収穫していました。自然農法で育てているので花がたくさん咲き、実も多く生るのですが、草刈りをしているときに地面へ落ちている実を見て妻から「実は何かに使えないの?」と聞かれたことがありました。
西(智):詳しく聞いてみると、茶の実にはビタミンEがかなり多く含有されているなど大きな特徴があることが分かりました。私は管理栄養士の資格も持っているので、その含有量に驚いたくらいなんですよ。それで茶の実を生かす方法の一つとして、オイルの搾油にたどり着きました。
人の手を加えすぎず、自然の力で育てる。
自然農法とのことですが、西さんの茶畑では茶の木をどのように育てていますか?
西(甲):世羅町では昭和初期から茶の生産が始まりましたが、生産者の高齢化や後継者不足で茶畑は長らく手つかずのまま放置されている状態でした。草木が生い茂っていたので、収穫時に人が通れるように木々をかき分けながら少しずつ茶畑を整えていきました。農薬などは使わずに、茶の木や畑そのものに負担をかけないよう自然の力で育てています。
西(智):畑を整備して、茶の木にちゃんと日が当たって風が通るようになると、実の付き方がだんだん良くなっていったんですよ。
西(甲):畑が広いのですべての場所をまだ整備できてはいないですが、自然農法を大切にするためにも畑を整えて土台をつくることは大切だと改めて感じました。
畑は広いし傾斜もけっこうあるので、収穫するのは大変だろうと思います。収穫後の実はどうなるのですか?
西(甲):乾燥工場で乾燥させていきます。種はカビやすいので、実が重ならないよう一粒ずつ広げて並べて、2次乾燥まで行います。
栽培から加工まで、世羅町で。
西(智):乾燥したら、今度は種の殻を割ると出てくるナッツのようなものを粉にして、オイルを搾っていきます。搾油したティーシードオイルは自分たちで充填もしているんですよ。オイルは熱と光の影響を受けやすいので、酸化しないよう温度管理と光の管理に特に気をつけています。
ティーシードオイルの成分にはどんなものがありますか?
西(智):ビタミンEやオレイン酸、リノール酸、コエンザイムQ10、茶カテキンが含まれています。私たちがつくっているのは美容オイルなので、化粧水前のブースターなどに使うのがおすすめです。私自身はヘアオイルとしても使っています。
西(甲):搾油工場は稼働してまだ1年なので日々試行錯誤を重ねながらですが、栽培から加工まで世羅町で行っているので、安心して使ってもらえるティーシードオイルを届けていきたいです。あとは、化粧品としてだけではなく食用オイルも製造できるように準備していきたいと思います。
こだわりが詰まった、世羅町生まれのティーシードオイル。自然農法による栽培や手間を惜しまず手作業で行う加工など、オイルには西さんご夫妻の茶の実への思いが存分に込められています。そんな背景にも思いを馳せながら、日々のお手入れにこのオイルを加えてみてはいかがでしょうか。