広島市中心部を横断する平和大通り。通り沿いのビルの屋上で養蜂が行われているのをご存じでしょうか?ミツバチのお世話をしているのは、広島県立世羅高等学校農業経営科の3年生。2023年から始まったこの養蜂で採れた蜂蜜は、昨年開催されたG7サミットのメディアセンターで提供されたほか、各地のイベントなどで販売されています。広島CLiP新聞編集部員が高校を訪ね、担当教諭の宮本紀子先生と生徒の皆さんにお話を伺いました。
『広島平和ミツバチプロジェクト』に参加
世羅高校の農業経営科では、2016年から授業で養蜂を行っています。きっかけは、地元の梨農家で病気が流行り、摘果の手伝いに当時の高校生が参加したこと。その後から、地元のブランド果実である「世羅梨」の生産維持に協力するため、農園にいる受粉用ミツバチのお世話を担当するようになりました。
そして2023年からは、中区袋町周辺の住民や商店主で構成された「中一区187号線活性化委員会」が行う『広島平和ミツバチプロジェクト』に参加しました。このプロジェクトは、都市養蜂を通じて地域の話題作りや活性化に繋げる他、ミツバチと人が共存できる自然豊かな街並みを維持していくことが目的です。
生徒たちは課題研究の授業の時間を使って、平和大通り沿いのビル屋上に設置された巣箱の管理をしています。特に蜜がよく採れる5月〜6月のハイシーズンは、毎週世羅町から広島市へ通っているそう。
高校生が作り出す「187 PURE HONEY」
ミツバチのお世話は、大きく分けて二つ。一つ目は蜂蜜の採取です。蜂蜜が巣箱に溜まってくると、働きバチは過剰に蜜を集めなくなるので、定期的な採蜜が必要なんだそう。巣箱から巣板を持ち上げ、ブラシを使って優しくハチを退けて、遠心分離機で蜂蜜を採取します。
二つ目のお世話は、2匹目の女王バチを誕生させないこと。
巣に新しく女王バチが生まれると、元の女王バチが働きバチの半数を連れて巣を離れてしまいます。そのため週に一度は卵をすべてチェックし、女王バチの卵(王台)を見つけ出す作業が必要です。女王バチは2週間ほどで孵化してしまうため、この作業が一番大変だそう。
ミツバチの世話を主に担当している坂村さんは、「ハチは全然怖くないです。刺激しなきゃ大丈夫。でも丁寧に世話しないと怒って(巣から)わんさかでてきちゃうので。ハチが怖くない、落ち着いてできる人がお世話をしています」と話します。
生徒たちが一生懸命作り出した蜂蜜は、採蜜した日ごとに違う豊かな花の香りが楽しめます。水飴などを混ぜていないピュアな蜂蜜は糖度80度以上です。
都市養蜂を通じて社会と平和を学ぶ
原子爆弾の投下により、広島市中心部の建物や木々は消失してしまいましたが、戦後、町の復興を願う国内外から木々が寄付され、平和大通りの街路樹となったという歴史があります。
世羅高校の生徒たちが作り出す「187 PURE HONEY」はクロガネモチやクスノキなど、まさに平和大通りの木々が蜜源となっています。この街路樹を維持し平和の大切さを伝えていくため、蜂蜜の売上の一部は樹木管理費として寄付します。
宮本:原爆投下から80年が経ち、広島市内から離れた地域では、平和学習の機会が少なくなっているように感じます。このプロジェクトを通じて、生徒たちが平和の大切さを自分事として捉えてほしいと思っています。
また、このプロジェクトに参加したことで、生徒たちのコミュニケーションスキルの向上にも役に立っていると話す宮本先生。
宮本:農業経営科の生徒は卒業後すぐに就職する子も多いです。このプロジェクトでは、生徒が先生になって大人に説明する機会もあるので、学校内の授業では得られないような学びの場になっています。今後社会に出た時、彼らの役に立てば嬉しいです。
宮本先生の言葉通り、取材時にも生徒たちが自ら進んで蜂蜜のことを教えてくださいました。言葉の節々から、自分たちの手で商品を生み出している誇らしさのようなものも感じられ、何より生徒たちが楽しみながら熱心に取り組んでいる様子がとても印象的でした。
来春にはまた次の3年生が『広島平和ミツバチプロジェクト』を担当します。広島市中心部から生まれる”平和のハチミツ”に今後もぜひご注目ください。