今でこそ「江田島はオリーブの島」として知られていますが、江田島市がオリーブの栽培に取り組み始めたのは10年ほど前から。その早い段階からオリーブ栽培に携わり発展に努めてきた一人が、『瀬戸内いとなみ舎/オリーブラボ江田島』の峰尾亮平さんです。
生産者としてオリーブの栽培・加工・販売を行うだけではなく、オリーブを通して生まれた地域との縁をきっかけに、江田島の町づくりや島全体の活性化についても考えるようになり、活動の幅も広がっているそうです。
峰尾さんの多彩な取り組みを通して、江田島オリーブの魅力やさらなる可能性に迫ります!
農業未経験から、オリーブ生産者の道へ
オリーブ栽培に携わるようになったきっかけを教えてください。
峰尾:神奈川県で会社員をしていましたが、東日本大震災をきっかけに農業がしたいと思うようになりました。ちょうどその頃に江田島市がオリーブの栽培技術指導員を募集していたので、農業未経験でしたが応募して、地域おこし協力隊として江田島に移住してオリーブ栽培を始めました。
地域おこし協力隊ではどのような活動をしていましたか?
峰尾:自分でオリーブを育てながら、地域の方が育てた実を収穫して購入し、それを加工・製品化することに携わりました。任期中に島の魅力に触れ、地域の人とのご縁もでき、よりオリーブの魅力を伝えていきたいと思ったので、任期後も江田島でオリーブ栽培に携わっています。
オリーブオイルはコンテストで受賞もしていますよね!
峰尾:自社で初めてつくったオリーブオイルが「OLIVE JAPAN® 2022 国際オリーブオイルコンテスト」で銀賞を受賞しました。オリーブの収穫には多くの人手が必要です。地域の人や島外からのボランティアの人と一緒に収穫した実でつくったオイルなので、受賞は本当にうれしかったですね。今年は「ニューヨーク国際オリーブオイルコンペティション2024」という国際大会でも金賞と銀賞に選ばれ、大きな自信になりました。
アグリツーリズモの拠点となる施設が誕生
峰尾:以前は市の施設でオイルなどの食品加工を行っていましたが、自分でも食品製造工場が持てたらいいなと考えていました。元々給食センターとして使われていたこの建物が見つかり、稼働に向けて2020年頃から少しずつ改装してきました。クラウドファンディングへの挑戦も経て、今は食品製造のほか、見学や体験、飲食もできる“人が集まれる”施設として活用しています。
峰尾:はい、味わえます! 国産のオリーブオイルは価格もそれなりにするので、手に取っていただくにはハードルがあると思っています。実の収穫体験は地域おこし協力隊をしていた頃から行っていましたが、そうした農園での体験やテイスティングで味わう体験をしていただくことで、身近に感じてもらえるようになったらいいなと考えました。
実体験があると、より深くオリーブのことを知ることができますね。
峰尾:オリーブ農園などへの視察でイタリアへ行ったとき、各農園で必ずといっていいほど立食の時間があったんですよ。生産者と話しながら、パンやワインをオリーブオイルとともに味わうと、おいしいのはもちろん、生産者の顔も覚えるしすごく応援したくなりました。そうしたアグリツーリズモ(農業観光体験)を通してオリーブのファン、広くは江田島のファンをつくりたいと思い、この施設をつくりました。
峰尾:オリーブの実の収穫のほかにオイルの搾油、出来立てのオイルのテイスティング、そのオイルにパンや江田島のシラス、トマトやチーズを合わせた食事、オリーブの木の枝を使ったカトラリーづくりなどを組み合わせてツアーにしています。年1回でも体験に参加して、オリーブのことや江田島の良さを知ってもらえる機会になればいいなと考えています。
住民と島に来てくれる人とで江田島の自然を守りたい
峰尾:親子で参加してくださる子育て世代の方から、80代くらいの方もいらっしゃっています。「オリーブオイルにこんなに味があるとは思わなかった」とか「料理への使い方が勉強になった」、「収穫の大変さや価格が高い理由が分かった」という声を頂いていて、皆さん満足していただいているのがうれしいです。収穫して食べるまでを体験できるので、まさに“畑から胃袋まで”というイメージです。その日搾油したオイルはお土産として持ち帰ることもできますよ。
峰尾:最近ではビール醸造所の『江田島ワークス』さんと一緒にオリーブのビールをつくったり、オリーブの茶葉でお菓子づくりをしたりと、お土産にしてもらえる商品の開発も行っています。これまでやってきたオリーブの栽培と食品製造を基盤に、ほかの専門分野の方とも一緒にできることを探していきたいです。
峰尾:地域おこし協力隊として江田島に来たので、オリーブでちゃんと実績を出せるように、より良いオイルをつくるためにこれまで取り組んできました。今年国際大会で金賞を受賞できたことでこれまで自分がやってきたことに自信が持てましたし、だからこそ次はそのオイルをより多くの人に知ってもらう機会や、江田島へ来てくれる人も増やしたいと感じるようになりました。
峰尾:オリーブの木は、長いものだと1,000年生きることができます。少なくとも100年後も誰かがわたしの農園でオリーブを収穫して、オイルをつくっていてほしいなと思うんです。江田島の人口が減少している中、住んでいる私たちだけで環境を維持していくのは簡単なことではないのですが、だからといって多くの人が江田島へ移住するのも難しいですよね。だから1年に1回でも収穫を手伝ったり商品を買ってもらえる人を増やすことが重要かなと考えています。住民と島に来てくれる方とで江田島の自然や環境を維持していけたらと思い、昨年からは島全体を魅力にした観光ツアーの実施にも少しずつ取り組んでいます。オリーブと観光、町づくりが一緒になるような活動をこれからも続けていきたいです。
オリーブ栽培だけに留まらず、町づくり、そして江田島のファンづくりという視点で広く取り組む峰尾さん。
『オリーブラボ江田島』では、江田島のことや江田島暮らしが好きな人が自由に集まって交流したり話し合う「島ラボ」というイベントも毎月開催されています。農園での収穫体験やオイルの搾油体験はもちろん、島ラボや観光などを通して、ぜひオリーブや江田島の魅力に触れてみてください。