広島中の+(プラス)体験を集めるWebマガジン 広島CLiP新聞 広島CLiP新聞

公式SNS 広島の耳寄り情報配信中!

前衛書道家 藤村 満恵さん | 「絵」でも「書」でもない、新しい作品をつくり続けて

小学1年生のときに前衛書道家のパイオニアである竹澤丹一先生に出会い、数々の作品をつくってきた前衛書道家の藤村満恵さん。これまでの作品は「たくさんの人に出会い、日々の暮らしの中から生まれた」と藤村さんは言います。人生の師である竹澤先生から受け継ぐ思いや前衛書道の魅力について話を伺ってきました。

「人生を決めた」竹澤丹一先生との出会い

藤村さんが書道を始めたきっかけを教えていただけますか。

藤村:小学校1年生のときに、母に書道を習いたいと自ら言ったみたいなんです。母が近所の公民館でやっていた書道教室に連れて行ってくれて。大人数の中でお稽古をさせてもらったことが、すごく楽しかったことを覚えています。

そうだったんですね。ホームページには前衛書道のパイオニアである竹澤丹一先生に教わったと記載がありましたが、そちらのお稽古で出会われたんですか?

藤村:そこではなくて、別の場所なんです。たまたま私の父親の知り合いが「広島市内に良い書道の先生が来てるよ」って教えてくれて。その人が前衛書道家の竹澤丹一先生だったんです。実際にお稽古に参加してみて小学1年生だった私に心からご指導してくださり、片道40分かけてバスで毎週お教室へ通うことにしたんです。

今でもそのときに感じた記憶を鮮明に覚えていらっしゃるんですね。

藤村:そうなんです。最初に竹澤先生から習った文字も覚えています。「日」という漢字だったんですけど、先生は「さばき筆」という毛先を固めていない筆を使っていて、半紙いっぱいにはみだす勢いでお手本を書いてくださったんです。「こんな風に書くんよ」って私の手を取ってご指導して下さり、心と体で書道する感覚に楽しさを感じました。

さばき筆は紙のサイズに合わせて使用します。筆の根元まで墨を含ませ、紙いっぱいに文字を勢いよく書きます。
さばき筆は書きたい文字の方向に引っ張るのではなく、体を使い筆を思いっきり押して半紙からはみ出す勢いで文字を書くことがコツです。写真は実際に藤村さんの講座に通われている生徒さんです。

竹澤先生はどんな方だったんですか。

藤村:とにかく褒めて育ててくれる人でした。竹澤先生に褒められることで、毎週喜びと楽しさを覚えて通っていたのかなと思います。

藤村さん(写真右から2番目)が高校生のときに竹澤先生(写真右)と竹澤先生のご友人日本画科の船田玉樹先生(写真左)たちと台湾へ研修に行ったときの様子。台湾にある故宮博物院では、先生が一つ一つの古美術の説明をしてくれて、ものを見る力を養う「目習い」を教わったと藤村さん。

新感覚!?「ニュースペーパー・カリグラフィー」の魅力

藤村さんも竹澤先生と同様に「前衛書道家」ですが、前衛書道について詳しく教えていただけますか。

藤村:前衛書道は絵でも書でもなく、文字を自由に表現することをいいます。だから筆や墨以外に何を使ってもいいんです。私は10年以上前に、新聞紙を折りたたんで裁断面に墨をつけて書く「ニュースペーパー・カリグラフィー」という前衛書道を考案しました。これまでに高齢者施設や保育所、高校生やフランスの俳優さんにも体験していただいています。

県外の高校生が旧日本銀行広島支店にて「ニュースペーパー・カリグラフィー」を開催した様子。

藤村:前衛書道の文字は創作して自由に書くパターンだと作品の雰囲気が同じになってくるときがあるんです。筆以外に何かないか探したときに世界にはさまざまな新聞紙があることに気が付いて、墨跡に注目し、折り畳むと筆代わりになるからいいなと思ったんです。新聞紙を使って世界中の方に日本の伝統である書道を体験して楽しんでもらいたいということで始めました。

新聞が筆になるなんておもしろい!

藤村:ぜひ体験してみませんか。

はい。お願いします!

まずは新聞を広げて、裁断面がピッタリとそろうように折っていきます。
新聞を四角い形に折り畳んで筆代わりの「筆」を作成。裁断面に墨をつけて、書いていきます。各新聞社の裁断面によって仕上がりに特徴が出るそう。
広島トヨペットが発信するコーポレートスローガン『HIROSHIMA+』の「+(プラス)」を書くことに決め、藤村さんご指導のもと書いてみました。新聞でつくった筆は紙が薄いため優しくゆっくりスライドさせることで、きれいに仕上がります。
その他にも藤村さんがつくった作品を見せていただきました。こちらの作品は干支の「牛」が表現されています。

「前衛書道」が「映画」業界にも

6歳から書道を始められて、こまでずっと書道を続けてこられたんですか。

藤村:そうですね。結婚して子どもが生まれてからも続けています。ただ子育て中ってなかなか自分の時間が少ないじゃないですか。だから小学生の子どもたちに、書道を教えながら自分も書道をすればいいんだって気付いて。いつの間にか自分の家が教室のようになっていました(笑)。

そうだったんですね。ずっと書道をされていたということですが、藤村さんのホームページには映画にも作品が使われていると書いてありました。映画に携わるようになったきっかけは何だったんですか。

藤村:広島出身で映画美術監督として活躍されている部谷(へや)京子さんという方がいらっしゃって、夫の友人がたまたま知り合いだったので、紹介してもらったんです。その後、部谷さんからのお声掛けで広島国際映画祭のスタッフになり、映画祭のタイトルなどを書かせてもらいました。それを見た映画関係者の方から、映画のエンドロールで使う文字を書いてほしいと電話があったんですよ。そういったことがきっかけとなり、いろんな作品に使っていただけるようになりました。

「広島国際映画祭2020」のタイトルを揮毫(きごう)されています。部谷京子さん(写真右)、藤村さん(写真左)。
そうだったんですね。部谷さんからお声掛けがあったから、現在につながっているのかもしれないですね。
2021年1月末に公開された『ヤクザと家族 The Family』の劇中で使用された「任侠道」の額。こちらも部谷さんのお声掛けにより参加することになったのだそう。

日々の暮らしの中で感じたものが作品に

藤村さんが思う前衛書道の魅力を教えてください。

藤村:書道をすると自分らしくなれるというか、無心になれます。書と向き合うことで素直になれて、瞬時に書けた作品も1ヶ月かけて完成した作品もやり遂げたという達成感があるんです。とにかく書道をしていたら楽しいし、これが生きがいなんです。竹澤先生に教わった、手先ではなくて「心と体で書く」ということが自分にすごく合っていたんだと思います。

今ご活躍されていることを紐解いていくと、子どもの頃に良い師に出会ったことが一番大きなポイントだったんですね。

藤村:だから私は人との出会いを大切にしています。どんな場所にも出向きたいし、作品を頼まれたときにはその人の期待以上に答えたいという気持ちになるんですよね。作品をつくるときは美術館や旅行にも行ったりします。その土地の風景をみて、風だったり、空気だったり、香りだったり、五感で感じたものを作品につなげているんです。

そう考えるようになったのはいつからですか。

藤村:17~18年前に初めて個展をした頃だと思います。見るものや感じるもの、五感で感じるものによって作風は年々変わるから、それを見てもらいたくて個展を開いたんです。プラスのイメージになるものは自分の中にどんどん取り入れるようにしています。

2006年11月7日~13日、上八丁堀にあるギャラリーGで初めて個展を開いたときの様子。

日頃から意識的にいいものだけを取り入れているんですね。初めて個展を開かれたときはどうでしたか。

藤村:初めての個展ではペンキを使ってビニールに描いた「舞」をメイン作品として展示しました。墨でもなく和紙でもなく、独創的でシンプルな作品を描きたかったんです。初めての個展でしたが、たくさんの方にご来場いただきました。

初めての個展でメイン作品として展示された「舞」
こちらは新作の「阿吽(あうん)」。同じくビニール素材にペンキで描かれています。

竹澤丹一先生の思いを継いで

将来の夢やこれからの書道の活動についてどんな思いがありますか?

藤村:「ニュースペーパー・カリグラフィー」を世界中に広めることです。身近な新聞紙で日本の伝統書道を世界中の人たちに楽しんでもらいたいですね。それと自宅で書道教室を2年前に開校しました。前衛書道の他にも硬筆や筆ペンをご指導しています。私の教室から前衛書道家を目指される生徒を育てるのも私の使命だと思っています。

藤村さんが指導する書道教室の様子。
藤村:あとは旅行に行ったりサイクリングをしたり、海や山、風景を見て感じることを大切にしています。そういったことは全て作品につながるんですよ。人との出会いを大切にして書の道一筋に前進したいと思います。
「ニュースペーパー・カリグラフィー」で書き上げた「+(プラス)」の文字。

竹澤丹一先生から小学1年生のときに前衛書道を習い、これまで数々の作品をつくり出してきた藤村さん。筆や墨だけではなく、新聞紙やビニールを使った作品などさまざまな領域へとチャレンジし続けています。藤村さんの作品は映画で使用されているものの他に、現在『八丁座』でのタイトル案内板や威風堂々クラシックのポスタータイトルなど広島の街なかでも見ることができます。そうした一つひとつの作品、そしてこれからの新しい作品に、どんな思いが込められているのか考えながら見ることが私の楽しみになりそうです。

前衛書道家 

藤村満恵さん

前衛書道家として作品制作のほか、個展や書道教室を開催。さらには新聞紙を筆代わりに書道をする「ニュースペーパー・カリグラフィー」を独自で考案するなど日々新しいことにチャレンジしている。

藤村書道教室

広島市南区翠5-6-27

TEL.090-9465-4146

OPEN.毎週水曜と土曜 10:00~12:00・13:00~16:00

アクセス
広島CLiP新聞編集部から車で約8分