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南印度カレー食堂 カレーの木 矢田一樹さん・美香さん|「カレーの木」を営むことこそが日々の喜び

東京から広島に移住し、「南印度カレー食堂 カレーの木」を営む矢田一樹さん・美香さんご夫妻。移住先では“好きなこと”を仕事にしようと決め、「カレーの木」をオープンしました。「カレーの木」から広がる人との出会いとつながり、そして日々の営みの中での喜びや、やりがいについて話を聞きました。

南インドカレーに出会った世界一周ひとり旅

矢田さんは、東京から広島に移住されたとお聞きしました。東京でも飲食に関わる仕事をされていたんですか?

一樹:最初は音楽関係の仕事をしていて、そのあと介護の仕事をしていました。

飲食店とは全く関係ない仕事をされていたんですね!それに、カレーの木で提供される「南インドカレー」は、当時は今ほどメジャーではなかったと思うのですが、出合ったきっかけは何だったんですか?

一樹:30歳くらいの頃ひとりで長い旅をしたんですけど、そのときに、南インドでカレーを食べたんです。それが出合いですね。

長い旅というと、休暇を使っての旅行とは違いますよね?

一樹:ある人から「一年後に新しく事業を始めるから、そこの新規スタッフとして働かない?」と誘われたんです。そこで、一年後の開業ならそれまで働かなくていいじゃん!この時間を使って旅できるじゃん!って思って(笑)。それまで働いていた会社を辞めて、アジアからスタートして約一年間かけてひとりで世界一周しました。

広島CLiP新聞で取材した方の中には旅と音楽をされていた方が多いのですが、一年後の開業だから一年間旅できる、という発想はさすがに驚きました(笑)。しかもひとりで!

一樹:友達と旅行したタイが衝撃的ではまってしまって。それから何度かアジアを旅したことがあったので、旅をすることには慣れていたんですよ。最初は世界一周するつもりはなくて、オーストラリアまで行って二ヶ月くらいかな、と思っていたんです。でも、一年あったら世界一周できるんじゃない?と思って(笑)。

南インドで出会った“ミールス”と呼ばれる南インドカレーの定食のようなもの。
南インドにて、ランチに招待されたときの一枚。
ガンジス川での沐浴。かなり慣れている旅人でもガンジスでの沐浴は避ける、と聞いていたので、編集部スタッフは驚きました!
南インドの電車内にて
「旅と音楽をされていた取材先の方にお会いしたいなぁ」と話す一樹さん。

後に南インドカレーの店を開こうと思うくらいだから、南インドカレーとの出合いは相当なインパクトがあったのではないですか?

一樹:それが、それほどではなかったんです。本場のカレーは美味しいなぁ、と言う程度で(笑)。その時はカレー屋で働こうとも思っていませんでした。

カレー屋で働こうとも思っていなかったのに、なぜカレー屋を始めることに?

一樹:カレー屋をやりたいというよりは移住をしたいという方が先で、移住するにあたって何をやろうかと考えていたときに、南インドで食べたカレーを思い出したんです。

美香:二人とも一般的な企業に勤めることは考えていなくて、何か自分の好きなことをやろうという意見が一致したんです。私は飲食業の経験が長かったこともあって料理が好きだし、主人はカレーが好きだし。その両方を叶えられるのがカレー屋だったんです。

一樹さんは南インドカレーを作る経験があったのですか?

一樹:妻は料理経験が豊富なので、主体になるのは妻かなって話をしていたんです。だけど、子育てをしながらは大変だし難しい。だったら自分が覚えよう!って。南インドカレーのことを教えてくれるところを探していたら、当時住んでいた家の近くに南インドカレーにすごく詳しい先生の教室があったんです。

美香:その先生は夫がすごく尊敬しているインド料理・スパイス料理研究家で、先生が作るカレーを食べたときに衝撃だったみたいなんですよ。「すっごく美味しかった!あんなに美味しいもの食べたことない!」って。それから毎日家でカレーを作るようになって。

南インドで食べたカレーよりも衝撃だったんですね!

一樹:そうですね(笑)。それまでも南インドカレーのレシピを見て家で作ったことはあったけど、それが本当に正解なのか分からないし、美味しいのかも疑問だったんです。でも、教室で先生のカレーを食べたらうまいんですよ!だから、このカレーを作れるようになったらいいな、って。スパイスの事から、カレーの作り方、飲食店のノウハウまでいろいろなことを教わりました。

カレー教室では、毎回数種類のカレーを作るそう。カレーの木ではこれらをアレンジしたものが提供されています。

移住を決める、広島で店舗を探す、住むところを探す、など東京に住んでいながらだと大変なことも多かったのではないですか?

美香:大変でした!下の子は生まれたばかりだし、保育園を決めようにも広島の町の事がわからなくて。住むところも、東京に居ながら広島の地図を見て決めたんです。母親としてはそういう大変さがありました。

広島には、移住するまでに何度か来られたんですか?

一樹:実際に広島に来たのは2回だけで、その2回の間に店舗と住居を決めたんです。店舗は居ぬき物件だから考える間もなく即決しないといけなくて。最初は、独立したキッチンの所にすればよかったな、失敗したかな、とも思ったけど結果的には良かったんですよね。カウンターを挟んで顔を見てお客様と話をするのが一番楽しいですから!

人が人を呼び、つながる出会いと広がる交流

お店をオープンして約2年。お客様も知り合いも増えてきたのではないですか?

一樹:オープンしてすぐの頃に、店の向かいのヨガ教室の先生が来てくれて。その方たちを介していろいろな人とつながることができたんです。周りにたくさん人が集まるような面白い人たちも来てくれるようになって、お客様も知り合いも増えていきました。ヨガとカレーはインドつながりだから自然と仲良くなって(笑)。

人が人を呼んで、というふうにつながっていったんですね!

一樹:そうですね。それに、上の階のお店は音楽バーだし、レコード屋さんも近くにあって、目の前がヨガ教室。自分たちが好きな“インド”と“音楽”が近くに集まっているんですよ。好きなものをきっかけにご近所同士の付き合いも生まれて、本当に恵まれた環境です!

矢田さんがインドを旅した時に撮った写真が店内に飾られています。
インド感あふれるフィギュアも!
この絵は、カレーの木をオープンさせる直前、インドに行った際に買ってきたのだそう。

知っている人がいない土地で生活を始めるのは、大人になればなるほど勇気がいると思いますが、こうしてだんだんと人と知り会ってつながっていくってすごく価値のあることですよね。

美香:自分たちから出向くのはどうしても時間も範囲も限られてしまうので、今はこのかいわいの人たちとつながることが多いんです。でも常連のお客様が紹介してくれた店にふらっと行って話をしたり、紹介された店の方と友達になったり。そういうのがうれしいですね。あぁ、知り合いができたんだな、って。車がないので遠くへ遊びに出掛けたりはできないけど、ちょっと寄って話をしたりするのが今の癒しになっています。

お客様を介して知り合った方と今では仲良くなって行き来するって、自然に紡がれたいい関係ですね。同業者同士のつながりもあるのですか?

一樹:カレーの木をオープンして間もないころに、府中町で南インドカレー屋を営んでいる方が「頑張ってください!」って、わざわざ自家製のハーブや香草を持ってきてくれたことがあったんです。その時は本当に感激しました!

美香:他にも店の設備で困っていることを何気なく言ったら業者を紹介してくれたりもして。お互いの店を行き来するのはもちろんですが、店の事で相談に乗ってくれる関係が築けているのは本当にありがたいです。

同じ南インドカレーの店を営む仲間として頑張ってほしいという気持ちだったんでしょうね!新しい生活の場で助けてくれる仲間がいるというのは心強いですね。

美香:本当にそうです!その話を聞いたときは、うれしくて泣きそうになりました。今ではカレー屋以外の飲食店の方ともお付き合いが広がってきて、道で会ったら話をしたりお互いの店を行き来したりもするんです。

すっかりこのかいわいの一員ですね!

「カレーの木」を営む中での日々の喜び

カレーの木を営む中での喜びや、やりがいは何ですか?

一樹:常に自分の好きなことを好きなようにやっているので面白いですね。もちろん上手くいくときもあるし、上手くいかない時もあるし、難しいこともあります。でもコツコツ毎日を繰り返す中で、常連のお客様もできて話をする機会も増えたり、メニューの幅を広げていろいろな種類の料理を作る楽しみが増えたり。そういった日々の中に喜びや、やりがいがあります。

美香:夫はカレーを作るのが本当に好きなんですよ。新しいこと、新しいやり方を考えてとにかく作りたい。とにかくカレーを作るのが好き。それに、カレーの木を営む中でいろいろな人と出会って話をして交流が生まれることもうれしいですね。だから、カレーの木をやっていることそのものが喜びなんです。

人生でそんなに好きな事に出合えるってすごいことですよね。さらにそれを仕事にして、その日々の中に喜びがある。そういう人生に憧れる人ってたくさんいると思います。

美香:好きなことを続けるのは全部自分の責任になるし、大変なことももちろんある。うまくいかないことの方が多くて、自分の気持ち次第だとわかっているけど、やっぱり人間だから沈むときもあって。でも不思議とそういう時にお客様が声を掛けてくれて、気持ちが変わるようなことがあるんです。すごくありがたいですよね。

上手くいかない時にお二人で話をされたりもするんですか?

一樹:しますよ。「あれはよくなかったね、次はこうしよう。」とか、「これ美味しくないね。出せないね。」という時ももちろんあります。自分たちが納得しないものは食べてほしくないという思いがあるんです。

美香:料理の盛り方も、「現地のやり方はこうだよ」「それは日本の女性には受け入れてもらい難いよ」なんて議論をしたり、二人で雑誌を見て勉強したりもします。

カレーの木で提供されている、旬の野菜や豆をふんだんに使った “ミールス”。いろいろな種類のカレーや副菜を混ぜながらいただきます。

移住前と今、お二人の中で変わったことはありますか?

美香:お互い、ものを提供する立場での話し合いもするしぶつかり合うこともあるので、今は夫婦というより“仕事仲間”や“同志”という感じですね。その話し合いやぶつかり合いの中で提供のスタイルが決まったりもするので、やっぱり二人で話し合いをするのは大切な時間です。

では、今後の目標を聞かせてください。

一樹:お客様に、「カレーの木に来たら、なんだか実家に帰って来たような感じがする。」って言われることが多いんです。だからこれからも、来たらほっとできるようなみんなの実家的存在でありたいし、いつもわいわいにぎわう店になりたいですね。

矢田さんご夫妻と編集部スタッフ

自然体で気負いのない矢田さんご夫妻。広島での出会いやつながりは、「南印度カレー食堂カレーの木」をお二人らしくやっていく中で自然と広がっていったことが、今回の取材を通して伺えました。ビビッドな緑色の壁の「カレーの木」がどこか懐かしくてあたたかいのは、矢田さんご夫妻の人柄がそのまま感じられるからではないでしょうか。一度訪れるとあなたにとっての “カレーの実家”になるかもしれません。

南印度カレー食堂 カレーの木

矢田 一樹さん・美香さん

2019年に東京から広島に移住し、広島市中心部の並木通りに「南印度カレー食堂 カレーの木」をオープン。食べるとなんだか元気になる、スパイスをたっぷり使った本格的な南インドカレーと美香さんが作る季節のフルーツを使ったアイス、そして自然体で穏やかな矢田ご夫妻の人柄にファンが増え続けている。

南印度カレー食堂 カレーの木

広島市中区中町1-4 REGOビル2F

TEL.070-3155-5082

OPEN.11:30~15:30(15:00L.O.) 18:00~20:30(19:30L.O.)(要確認)

定休.毎週水曜日、第1・第3木曜日(臨時休業あり)

アクセス
広島CLiP新聞編集部(CLiP HIROSHIMA)から車で約5分