denebの橘新二さん(Vo.&G.)とbubbles(Vo.)さん。 結成から10年以上が経つ、広島市佐伯区五日市を拠点に活動するポップスバンドのdeneb。地域で音楽活動を地道に続けていたら、ある日突然インドネシアへその活動範囲が広がったといいます。今では音楽を通して、日本、広島とインドネシアを橋渡しする役割も担っているdeneb。メンバーの橘新二さんとbubblesさんに、2人が運営するライブハウス『MusicGuild Match Box』で活動への想いを尋ねました。
BLUE LIVE HIROSHIMAで行われたdenebのライブ。(撮影:青野文幸) 実はCMソングでもおなじみ、denebの楽曲 denebを結成したのはどんなきっかけからですか?
橘: 僕は五日市出身で、高校卒業後に神戸で数年間インディーズのバンド活動をしていました。広島に帰ってきたとき友達が連れて行ってくれた場所が、当時ライブハウスを始めたばかりのここだったんです。そこで音響をしていたのがbubblesです。
bubbles: そうなんです、それが最初の出会いですね。
橘: 音楽を辞めようと思って広島に帰ってきたんですけど、ここでギターを弾かせてもらうとやっぱり楽しくて。それ以来、bubblesやライブハウスにお客さんとして来ていた人に声をかけて集まったメンバーでライブをして、それからメンバーが確立されてdenebの結成に至ります。
橘: そうですね。ただ僕がライブハウスという場所が当時あまり好きではなかったので、地域のお祭りや福祉施設で演奏活動をしていたんですよ。それがきっかけで、介護福祉の企業からの依頼でCMソングをつくって、以降は演奏活動をしながら釣具店や銀行などのCM曲もつくったんですよ。
私、特に釣具店のCMの曲がすごい印象に残っているんですよ!
bubbles: 本当ですか! ありがとうございます。毎週テレビの釣り番組の間に2~3回流れているみたいなんですけど。
あれっ。私、けっこうCM観ているんですけど、無意識のうちに釣り番組毎週見てたんですかね…(笑)。
気が付けば、世界進出 橘: そんな感じで演奏活動したり楽曲をつくったりしていたら、2017年の3月頃、急に僕らのYouTubeがチャンネル登録されたり高評価がついたりと次々お知らせが来るようになりました。何かおかしいと思って設定を確認しようとYouTubeを開くと、たまたまあがってきた関連動画にdenebの曲が使われていたんですよ! しかもそれが、インドネシアのポカリスエットのCMで。
bubbles: どういうこと!? ってなりますよね。連絡がすぐ来て、送ってもらったURL開くとやっぱり自分たちの曲だし。
まさかのインドネシア! それは本当にびっくりしますね。でも楽曲使用って著作権的にはNGなんじゃ…?
橘: 本来はね。ただ僕たちはその楽曲をロイヤリティフリーのサイトに登録していたんです。それで、ただ純粋にお礼が言いたくて、日本の大塚製薬さんに電話しました。すごく怪しまれましたけどね(笑)。
連絡がつき次第すぐに向かったというインドネシア。『Amerta Indah Otsuka』の皆さんと。(撮影:青野文幸) bubbles: 最初はかなり訝しがられたんですけど、ちゃんとつないでいただいて、インドネシアから連絡が来たんです。それで、自分たちの曲が流れている国を見てみたくて、現地へ行ったんですよ。
橘: 広島でこんなおじちゃんおばちゃんと呼ばれるような世代の人がどんなに頑張ってもメジャーデビューとかあり得ないし、せっかくなら海外でボランティアで演奏したいねと、以前からメンバーと話していたんです。まさかこんなきっかけでインドネシアと縁ができるとは思っていませんでした。現地では厚く歓迎してくれて、インドネシアの大塚製薬の皆さんの前でライブもさせてもらいました。
現地で開催したライブ。最後にはアンコールも起こり、インドネシアにもそうした音楽文化があることを実感したという。 bubbles: そこで演奏した曲をすごく気に入ってくださって、また別のウェブCMでも使っていただけるということになって。日本に帰って来たその足で、急いで広島へ戻ってレコーディングしたんです。
すごく展開が早い! インドネシアに行った分さらにご縁が広がった感じがありますね。
橘: そうなんです。現地の学生が日本語でミュージカルをする劇団en塾という団体があって、その代表が呉市出身というご縁もあって。ちょうど日本とインドネシアの国交60周年を迎えた年ということもあり、記念ソングをつくることになりました。作詞はen塾主宰の甲斐切清子さんが担当なんですけど、日本語とインドネシア語の両方を使ったものにして、僕らと学生さんが遠隔でレコーディングして制作しました。
bubbles: 完成した曲を向こうのお祭りに参加して披露したりしていたら、今度はよさこいグループの方とつながりができたんです。グループの代表の方がポカリスエットのCMの撮影・編集をしていた方で、denebを知っていると!
インドネシアで行われた音楽フェスにも参加。 橘: よさこいチームを新しく編成するからテーマ曲をつくってくれませんかと依頼をいただいて、それも新曲という形で制作させてもらったんです。『JOGET』というタイトルで、ジャワ語で「踊れ」という意味です。そのよさこいチームが東京の原宿で行われるスーパーよさこいに出場するから、そこで披露される予定だったんですけど、残念ながら2020年は開催中止になっちゃって。
bubbles: 本当にびっくりするようなことがこの数年で何度も起きて。でもこうしてご縁をもらったからこそ、日本とインドネシアのつながりが豊かになればいいなと思って、今ではインドネシアに忍者村をつくるというプロジェクトにも楽曲提供という形で参加させてもらっています。
denebのメンバーは、オンラインでインドネシアとつないで定期的に語学を勉強しているそう。 へー、忍者! インドネシアでは忍者みたいな日本の文化に興味を持つ人が多いんですか?
橘: インドネシアって13,000を超える島々から成る国で、人口は2憶6,000万人くらいなんですけど。
bubbles: だから言語もめちゃくちゃあるし流行っているものもまちまち。ですが、安定して『NARUTO』が人気ですね。忍者系のものは皆さん興味を持っているみたいで。
橘: コロナ禍もありましたし、国を元気にしていこうと動いているプロジェクトです。現地のアーティストや日本の起業家・辻敬太さんとインドネシアの起業家が一緒になって、忍者をコンテンツにした祭りツーリズムを盛り上げようとしています。
Match Boxではメンバーそれぞれが中高生に楽器を教えたり、学生主催の演奏会やイベントをサポートする。 音楽を楽しむ場や機会を提供したい 地元の広島ではどんな活動をされていらっしゃいますか?
橘: 自分たちの演奏活動以外では、僕自身はもともと中学校の支援員をしていたこともあり、音楽を通して地域の子どもたちに関わりたいと思っています。ライブハウスとしての経営を安定させないといけないのは確かなんですけど、音楽を楽しむ場を提供する側になることで音楽を教えることもできるし、音楽に興味のある子どもたちの夢をかなえてあげることもできると思っているんです。
bubbles: 学校に軽音部がない高校生や、軽音部はあるけどもっと練習したいという高校の生徒たちと、大学の学生さんが一緒に音楽活動をしたり。私たちはそうした活動のとりまとめをしています。そこに中学生が来ることもあるし、親御さんも練習見学に来られたりもするんですよ。
中学校や高校へ出向いて、楽器の演奏指導なども行う。 橘: このライブハウスを引き継いで経営し音楽教室もするようになって、僕たちのことや活動を応援してくれる人がたくさん増えました。こんなに人にたくさんのことを与えてもらえるんだと感動したし、自分も音楽を通して何かを与えられる存在になりたいなと思いましたね。
このライブハウスが、大人だけではなく子どもも含めて地域のコミュニティを生み出しているんですね。
橘: コロナ禍で僕らはライブができなくなりましたが、子どもたちも文化祭や大学祭がなくなったりして、自分たちが一生懸命頑張ってきたものを披露する場がなくなってしまいました。でも例えばライブ配信のように形は変えてもできることがあると思っています。音楽で自分たちにできることを、これからも考えて行動していきたいと思っています。
最後は編集部スタッフもバンド気分を味わわせてもらおうと、橘さん、bubblesさんとともにステージに上がらせてもらいました。スポットライトを浴びるだけで、楽器が上手く弾けるような錯覚に…! 音楽を地道に続けていたら、急に開けていった目の前の世界。好きなことをとことん追求していくことが、確かに自分の人生を豊かにし、可能性を広げてくれるのだということを2人の話を聞いて改めて感じます。「広島とインドネシアの2つに、もっと大きな夢を言えば日本とインドネシアをつなぐことに今、人生をかけて向き合っています」という橘さん。皆さんもぜひ、denebが奏でる音楽に触れてみてください。