硬く、無機質なイメージのある鉄から、柔らかくまるで今にも動き出しそうな作品を生み出し続ける工房孝鉄の山広孝司さん。ボルトの人形や動物、昆虫、燭台など、どこか愛らしさのある作品たちを見ていると、老若男女問わず思わず笑みがこぼれます。そんな人々を魅了する作品を生み出し続けられる秘密をお聞きしました。
作品づくりのきっかけは「もったいない」
工房に入った瞬間、鉄で作られた多種多様な作品たちに驚きました。山広さんが鉄で作品を作り始めたのはどんなきっかけからなのですか。
山広:友人が廃棄するボルトを大量に持ってきたのがきっかけです。そのまま捨ててしまうのはもったいないと思い、まずボルトで人形を作ってみました。意外と作ってみると楽しくて。それをきっかけにさまざまな作品を作り始めるようになりました。
ゴルフをする人形や、バンドを模した人形、本当にさまざまありますね。
山広:その時務めていた鉄工場の社長の目を盗んでこっそりいろいろな作品を作っていましたね。周りの反応が良いので、どんどん面白くなって、今も作り続けています。
孝鉄さんというと燭台のイメージが強いのですが、燭台はどういったきっかけで作り始めたのですか?
山広:実は看板屋もやっていて、余った鉄材料を何か使えないかと考えて生まれたのが燭台です。鉄の間をくりぬいて作ったものが始まりで、今では燭台だけでなく花台としても使えるようにろうそくを指す部分が外せるようになっています。
鉄で魅せる柔らかさ
山広:鉄を柔らかく見せたいという思いを大事にしているのでどの作品にも必ず波のような流線型を取り入れています。2007年に「グリーンピアせとうち」で一度個展を行って以降、手すりや門扉のオーダーも入るようになりましたが、オーダーの物でも必ず柔らかさを見せることにはこだわっています。
個展や工房に作品を観に来られた方からはどんな反応がありますか?
山広:9割くらい女性のお客様ですが、皆様驚かれていますね。鉄というとやっぱり硬いイメージがあるので、こんな作品になるとは思っていなかったようです。奥様に連れてこられた旦那様が後日作品を買いに来てくださったこともあります。また、わざわざ岡山から来てくださったお客様が工房のドアを開けた瞬間涙を流してくださったこともあり、今でも忘れられないくらい本当にうれしかった出来事です。
山広:最近作り始めたのがロケットストーブです。キャンプなどにも使えるように、薪ストーブ兼ピザ窯になっています。これで焼いたピザは本当においしいですよ!
鉄から生まれるつながり
作品づくりを続けてきて一番良かったと思うことは何ですか?
山広:鉄の作品づくりをきっかけにお客様と友達になったり、黒川温泉や津和野のお饅頭屋さん、備前焼の先生など全国につながりができたことです。その人たちのもとを訪れるのが今の一番の楽しみになっています。
人とのつながりが作品づくりに生きることもありますか?
山広:全国に足を運ぶとその土地の民芸品からアイデアをもらったり、人との出会いから新たな作品を生み出せたり。作品作りをしていないとできないつながりばかりで本当に面白いなと思います。しっかり長生きしてこれからも楽しい人生を送りたいですね。
山広さんの作品は本当にどれもどこか愛らしさを感じるものばかり。思わず手に取って触りたくなるような、自分の家に持って帰ってずっと眺めていたくなるような…そんな人を魅了する作品を生み出し続けられる秘密は鉄の作品からつながった人とのつながりと好奇心だと感じた取材でした。山広さんのようにワクワクし続けられる人生を送っていきたいですね。