「広島にコーヒー農園を!」。1933年創業の『ニシナ屋珈琲』三代目・新谷隆一さんが、コーヒー豆の販売に特化してきた専門店として長年描いてきた、「広島でコーヒーを栽培したい」という夢。その実現に向けて2021年から東広島市・大芝島で栽培をスタートし、今秋にはいよいよコーヒーの実の初収穫を迎えます。
コーヒーの島を瀬戸内に
新谷:『ニシナ屋珈琲』創業の地である瀬戸内・広島で、コーヒー農園を始めることが長年の夢でした。大芝島は安芸津ビワの栽培で知られていますが、瀬戸内海の柑橘栽培のルーツでもある島なので、コーヒーを栽培するのもこの島で、と考えました。
大きなビニールハウスですね! どのくらいの広さがあるのですか?
新谷:敷地自体は2反(600坪)あって、1反をビニールハウス、残り1反を露地でさまざまな作物をテスト栽培しています。ビニールハウスには2021年5月にコーヒーノキの苗を200本ほど植えて、2年数か月が経った今、1.5~2メートルくらいの大きさに育っています。
瀬戸内で栽培するのにポイントとなるのはどんな点でしょうか。
新谷:コーヒーは、「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道を挟む北緯25度から南緯25度までのエリアが栽培に適していると言われています。日本だと、沖縄がギリギリ栽培できる地域です。実際に沖縄では育てられていますが、それでも四季がある日本では15~25度が適温とされるコーヒー栽培はなかなか難しい現状があります。そんなコーヒーを大芝島で育てるために、苗は「凍結解凍覚醒法」という手法で耐寒性や成長速度を高めたものを使用して、ハウス内の夏の暑さ対策と冬の寒さ対策をしっかり行うことを大切にしています。
新谷:風があまり通らないので、空気を循環させるために扇風機を回しています。コーヒーは直射日光が苦手なので、日当たりが良すぎるとうまく育たないんですよ。だからハウスの天井にはシェードを設置して調整しています。冬場はハウス内にボイラーを入れることで乗り越えましたが、地温ヒーターを設置した路地の方はダメでした。まだまだ失敗の連続ですが、「成功するにはたくさんの失敗があってこそ」と考えて日々取り組んでいます。
新谷:2023年の10~11月ごろが本格的な初収穫になりそうです。一年先行してこの大芝島と同じ苗を育てている人が岡山にいるので、そちらのコーヒーの味を先に確認することができました。柔らかくてとても美味しかったので、この大芝島のコーヒーも期待しています。
新谷:瀬戸内にはさまざまな特産品を持つ魅力的な島が多くあるので、大芝島もコーヒーを通してその一つになったらいいですよね。コーヒーには、世界的に生産量が減少すると言われている「2050年問題」というものがあります。そうした面を考えても、コーヒーの未来と瀬戸内の活性化を目指して取り組んでいきたいと思っています。
瀬戸内生まれのコーヒーを味わえる場所づくり
新谷:農園の近くに、改装した母屋と納屋があります。納屋の方には果肉除去機や乾燥機、焙煎機を置いているので、ここで豆の精製や乾燥、焙煎を行います。農園に来てくれたお客さんもその様子を見学したり体験したりできるようにしようと思っているんですよ。
新谷:ある程度収穫量が見込めるようになったら、お客さんにコーヒーを味わってもらいたいので、納屋の2階をカフェとして使えるように整えています。窓の向こうには瀬戸内海が見えて、ゆっくり過ごしてもらえると思いますよ。母屋の方は、現在は農園の作業を手伝ってくれる学生さんたちに宿泊施設やコワーキングスペースとして使ってもらっています。
新谷:この秋の初収穫がどれくらいの量になるかはまだ分からないけれど、まずはここから数年かけて、瀬戸内の穏やかな気候の中育ったコーヒーの実からおいしい豆を焙煎することが目標です。それができたら、納屋や母屋を整えて皆さんに来ていただける場所にすること、さらには大芝島でのノウハウを皆さんと共有して、さまざまな地域で国産のコーヒーをつくっていくことが目標です。そしていずれはインドやフィリピン、ラオスなどの海外でもコーヒーづくりにチャレンジしたいと思っています。
広島のコーヒー文化をつくってきた『ニシナ屋珈琲』三代目・新谷さんの夢は、まだまだ始まったばかり。近い将来、大芝島がコーヒーの島として知られ、愛されるようになることを願って、新谷さんのこれからの挑戦も応援していきたいと思います。