府中市北部の上下町の山あいに位置する『池田牧場』。この牧場では、環境に配慮した持続可能な牧場経営を実践しながら、子ども達への食育や消費者教育に対しても積極的に取り組んでいます。土・日・祝日には牧場を一般開放し、餌やりやバター作り体験や、敷地内のカフェでミルクを使ったスイーツを楽しむことができます。今回、池田牧場を夫婦で経営されている小川香奈さんにお話を伺いました。
香奈:この牧場は教職員だった私の祖父が戦後、生徒たちのために始めた牧場です。最初は牛が2頭だけでしたが、創業からおよそ80年経った現在、106頭の牛を飼育しています。
香奈さんが家業を継ぐことになったきっかけは何ですか?
香奈:語学系短大に通っていたため、日本での生活はあまり考えていませんでしたが、ゼミで幼児心理学を学び、児童養護施設を訪れるうちに、子ども達のための場所を作りたいと強く思うようになりました。牧場では自然や牛を通じて子ども達の心のケアができ、海外視察の機会も多いため、やりたいことが全て叶うと気づき、池田牧場を継ぐことを決意しました。
そんなエネルギッシュな香奈さんは、それからヨーロッパ各地で酪農を学び、得た知識を活かして、環境と牛に優しい牧場経営を実践しています。
牛にも環境にも優しい牧場に
香奈:池田牧場では、生まれた牛の赤ちゃんをおばあちゃんまで育てる「一貫飼育」を実施しています。外部からの接触がないため、病気が持ち込まれにくいことが特徴です。また、牛はつないでおらず牛舎の中を自由に動き回り、好きな時に食べたり寝たりすることができます。最近では自動搾乳機を導入し、牛が自らお乳の張りを感じ、搾乳したいと思った時にお乳を搾れるような仕組みになっています。牛にストレスがかからないよう配慮しています。
香奈:またここでは農薬や除草剤、殺虫剤を使わずに敷地内で牛の飼料となる牧草を育てています。自家産飼料には遺伝子組み換えを使用せず、ヨーロッパで学んだ『環境に配慮した、次世代にも残せる持続可能な牧場経営』を目指した取り組みを積極的に取り入れています。
池田牧場で搾乳した牛乳は三原市の牛乳・乳製品加工会社に卸され、その大部分は学校給食に使用されているそう。子どもたちが安心して飲める牛乳を提供したいという思いで、日々丁寧に酪農と向き合われています。
大人もドキドキ、餌やり体験!
池田牧場では、一般開放日に合わせて哺乳、餌やり、バター作り、チーズ作りの4つの体験をすることができます。今回は香奈さん案内のもと、広島CLiP新聞編集部員も初の餌やりを体験させていただきました。
香奈:餌やり体験では、牧草を乾燥させキューブ状にした「ヘイキューブ」という餌を、直接牛の口の中に入れていただきます。
香奈:この牛舎には白黒柄のホルスタイン種と、茶色い毛色のジャージー種の2種類の牛がいます。どの牛に餌をあげても大丈夫ですので、お気に入りの子を見つけてあげてみてください。
素手で、ですよね・・・思ったより怖いですね!ドキドキします。
香奈:じつは牛には歯が上下どちらかしかありません。手を入れても噛まれることはないので安心してください。餌をあげている時に、上下どちらに歯があるのかぜひ感じてみてください。
おそるおそるだった編集部員も、思い切ってあげることができました。餌をあげてみて、牛には下の歯しかないということを発見!実際に自分で見て、ふれ合うことで得られる体験は、大人の私たちにとってもドキドキワクワクするものでした。
香奈:夫婦2人で経営しており、受け入れ整備が行き届いた観光牧場ではないため、日によっては来ていただいても体験をご案内できない日もありますが、普段からこうして一緒に説明しながら体験していただくようにしています。
ただ餌をあげるだけでなく、説明を聞きながらあげることで、より濃い体験になりますね。
酪農を通じて、いのちの大切さを子ども達にも。
池田牧場は「酪農教育ファーム」に認定されており、小中学生の酪農体験の受け入れや出張授業など、酪農体験を通して、食と命の学びを支援する活動を行っています。
香奈:本当は季節によってミルクの濃さや風味は変化しますし、牛の種類、もっというと一頭一頭で少しずつ違いがあります。そういった違いを子ども達にもっと体験してほしいなという思いがあるので、いつかこの池田牧場に、オリジナルのクラフトミルクが作れる工房を作ることが今後の夢です。
池田牧場は「環境のため、牛のため、子ども達のため」たくさんの愛と工夫が詰まった素晴らしい牧場でした。併設されているカフェでは、自家製のソフトクリームや、ミルクを使ったミルクコーヒーやコーヒーフロート、上下町産の米粉を使った米粉ワッフルなども味わうことができます。五感をめいっぱい使った忘れられない体験ができる池田牧場へ、ぜひ足を運んでみてください!