
広島県の中央部、世羅郡世羅町の自然豊かな高原にある山羊チーズ工房『やぎ丸農場』。有畜循環型農業をコンセプトに、山羊や名古屋コーチンの飼育、米作りをしています。また、自家工房では放牧地でのびのびと育った山羊から手搾りしたミルクを使い、チーズやヨーグルトなどを製造。限りなく自然に近い環境での農業を実践し、自然へ負担をかけず、恵みをいただく優しい循環。日々奮闘する代表の重丸雅紀さんにお話を伺いました。
自然の流れに沿って営む農業で、おいしく体に優しい食材を届ける

米作りの兼業農家の実家で育ち、もともと農業への関心は高かった重丸さん。一度は就職したものの、農業への思いが断ち切れず実家へUターン。ご両親の米作りのサポートと同時に酪農を始めたのは今から11年前のことだそうです。
※6次産業:6次産業とは、農林漁業(1次産業)が自ら、加工(2次産業)と販売・流通(3次産業)までを一貫して行うことです。これにより、農産物などに新たな付加価値をつけ、農林漁業者の所得向上や地域活性化を目指しています。
有畜循環型農業をコンセプトに掲げている重丸さんですが、「特別なことは何もしていない」と微笑みます。
山羊たちはチーズ工房の裏山で放牧し、日中は自由に過ごしています。名古屋コーチンは平飼いで、光や騒音に敏感な性質に配慮した環境作りを行っています。

山羊にとって最高の環境を整えています。
放牧地でのびのびと育った山羊は、広い場所で自由に動き回ることで体力が維持でき、毛並みもよく、穏やかなのが見て取れます。また、群れになって行動する習性があり、夕刻になると揃って小屋に戻ってくる利口な一面も。
ある日、戻ってこない山羊を探しに山に入ったら分娩していたという微笑ましいエピソードもあったほど、自然に過ごしています。

ホワイト、グレー、ブラウンと様々な模様が特徴です。

平飼いによりじゅうぶんな運動が確保できている名古屋コーチン。最近仲間入りしたヒナたちもすくすくと成長しています。エサはホエーに加え、ご近所の豆腐屋さんから譲ってもらうおからや畑で取れた新鮮な野菜などを与えています。
自家工房で製造する山羊チーズやジェラート

実は牛乳で作るチーズよりも歴史が古いといわれている山羊チーズ。外観は真っ白な色合いで、きめ細やかなのが特徴です。『やぎ丸農場』では、特有の風味と酸味を損なわないながらも食べやすい口当たりのチーズに仕上げています。
春から秋(4月〜10月)の搾乳シーズンには、手搾りしたミルクを使い自家工房でフレッシュタイプのチーズやヨーグルト、ジェラートなどを製造をしています。搾取する時期や製造方法によって、製品の味わいの変化も楽しめます。

チーズは、国産乳製品等競争力強化対策事業が開催する「ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」や「JAPAN Cheese Award」で入賞も果たすほどの自信作です。


自然との共存で得た学びを子ども達へ繋ぎたい

酪農に携わるようになり、自然との共存で多くのことを学んだという重丸さん。そんななか子どもたちが食肉をしっかり理解できていないという現実を耳にする機会が増えたきたといいます。
食育を通して自然からの学びを子ども達に伝えていきたいとの思いから、命を学ぶワークショップ「鳥の会」や「羊の毛刈り」などのイベントを定期的に開催しており、定員いっぱいになるほどの好評ぶり。重丸さんの思いが多くの人々の共感を得ていることを感じます。


この命の循環を体感することで、自然への敬意が深まり、動物や食に対する認識に変化をもたらす、一つのピースになればと願ってやみません。
自然に寄り添い、自然と共存する農業。「生き物が相手だからいろんなことがあります」とこれまでを振り返る重丸さん。試行錯誤はまだまだ継続中だそうで、「やりたいことがたくさんあるんです!」と笑顔がこぼれます。
自然豊かな高原で、のびのびと育つ愛らしい山羊たちに癒される一方で、地元に根付きこれからを考え続ける『やぎ丸農場』。この空間で大切に作られるチーズをぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?