広島市中区で『音楽食堂ONDO」を営む森脇敏さん・歩美さんご夫婦。HIP HOPにほれ込み音楽を始めた敏さんと、料理をすることが好きな歩美さん。それぞれの得意分野を生かして、お二人ならではのアットホームな空間を提供しています。二人三脚で経営しているお二人に音楽食堂ONDOにかける思いを尋ねました。
人生を変えたHIP HOPとの出合い
敏さんがHIP HOPにほれ込んだのはどんなきっかけからですか?
敏:中学生のときに兄が友達からHIP HOPのCDを借りてきたのが始まりです。HIP HOPの音楽を聴いていくうちに、どんどん好きになってのめり込みました。その頃兄が、1996年に行われた『さんピンCAMP』っていうHIP HOPの野外イベントのビデオを借りてきたんです。実際の映像を見て「かっこいい!」って感動して、DJを目指すことに決めました。
お兄さんの影響がかなり大きいんですね。それからDJになるためにどんな活動をされたんですか?
敏:音楽が好きな友達とよく情報交換をしていましたね。あとは20歳のときに、大学を1年間休学してニューヨークに行ったりもしました。
ニューヨークに行こうと思った理由はなんだったのでしょう?
敏:僕にとってニューヨークは憧れの場所だったんです。HIP HOPのミュージックビデオを見てかっこいいなってずっと思ってて、これは行くしかないと決断しました。ニューヨークでは自分がDJをしてる音源をDJ Barに持っていって、「DJをやらせてほしい」ってお願いしたりもして。何回か実際にやらせてもらうことができたんですけど、今考えると、よくあんなレベルでお願いしてたなって思います(笑)。
とても行動力がありますね!ニューヨークで生活を送っていく中で何か心境の変化はありましたか?
敏:ジャズやハウスミュージックなどHIP HOP以外の音楽も好きになりました。あと僕が住んでいたスパニッシュ地区では、どこに行ってもサルサとラテンしか流れていなくて。音楽ガンガンで店員さんは電話をしていて、レジには誰もいないみたいなことが多々あって衝撃でした(笑)。
敏:でも僕は日本よりもこっちのほうが好きかもしれないって思いました(笑)。日本に帰ってきて1年ぶりに飲食店に行ったとき、今まで当たり前だと思っていた礼儀正しい接客に違和感がありすぎて、カルチャーショックを受けましたね。
東日本大震災後の決意
ニューヨークから帰国後、どのような活動をしていたのでしょうか?
敏:帰国後は大学を卒業して、友達と八丁堀で立ち飲み居酒屋を始めたんですけど、1年で終わってしまって。次は何をしようかなって考えたときに、もっとDJをやりたいという思いが強かったので、東京に行って学ぶことに決めました。東京では中野にある小さなクラブでアルバイトをしていました。そこでたくさんの人とつながることができて、イベントでDJをやらせてもらえるようになりましたね。
アルバイトをしながらDJ活動をされていたんですね。
敏:そうです。お金を稼いでレコード買って、DJをやるという日々の繰り返しでした。
敏:全然違いますね。広島は個々のやり方を貫いている人が多くて、良くも悪くも中央の影響をあまり受けずに、それぞれで発展しているように思います。一方、東京はどんどん新しい音楽を取り入れていて、それをみんなで情報共有していたんですよ。みんなで音楽を楽しんでいる感じがとても新鮮でしたね。
どんどん変化し続けていくのは面白そうですね。東京から広島に帰ってきたのはなにか理由があったのでしょうか?
敏:東日本大震災が大きなきっかけですね。震災を経験して、自分でちゃんと考えてやっていかないといけない、自分なりの生き方をしないといけないと感じました。震災前はいつか自分のお店を持ちたいとぼんやり考えていたんですけど、震災を経験して、覚悟が決まりましたね。
そうだったんですね。広島に帰ってきてすぐお店を始められたんですか?
敏:まだ場所も決まっていなかったので、しばらくはアルバイトをしながらお店の場所を探しました。ある日、通っていた広島市内の音戸温泉の地下が空いたっていう情報を手に入れて。2015年に今あるこの場所、音戸温泉ビルの地下で音楽食堂ONDOを始めることにしました。
敏:店内の改装や、その他の準備で約2か月くらいですね。最初は業者の方にお願いして改装してもらったんですけど、それ以降は自分たちで手を加えていきました。今はいろいろな装飾をしているんですけど、オープン当初は、なにもなかったです(笑)。
今後もいろいろな雰囲気を楽しむことができそうですね。
帰る場所のひとつになるためのアットホームな空間づくり
音楽食堂ONDOをつくり上げていく中で、こだわったポイントはありますか?
敏:まずはDJブースをお客様の目線に配置したことです。DJブースって基本高い位置にあることが多いんですけど、ここではお客様とDJが同じフロアで音楽を一緒に楽しめるようにしたくて。
敏:あとは音楽を楽しむのと一緒に、しっかりとバランスの取れた食事を提供していることもポイントです。料理はすべて妻がつくってくれています。農家の方など、いろいろな仲間とつながることができて、現在はそういった方から食材を仕入れさせてもらっています。提供する側としても安心で気持ちがいいですよね。
自信をもって提供できますね。音楽だけのつながりじゃないっていうのがいいなと思いました。一番のオススメ料理はなんですか?
敏:一番は定食ですかね。火曜日から木曜日で週替わり定食を提供しています。
歩美:自分が食べたいものをつくっていますね(笑)。あとは揚げ物など偏らないように栄養バランスも考えてつくっています。
歩美:例えば一人暮らしの方とかは、仕事していたらご飯をつくることが負担になると思うので、そういった方の手助けになればいいなと思っています。食や音楽などきっかけはなんでもいいので、とにかくこの場所で楽しんで過ごしてもらえたら一番うれしいですね。
お話を聞いて「音楽食堂」っていう名前がぴったりだと感じました。音楽や食をきっかけに、人が集える空間をつくっていらっしゃるんですね。
音楽食堂ONDOを経営していく中で大変だったことはありますか?
敏:大変だったことだらけですね。毎回冒険しているようで、いちかばちかでやっています(笑)。でもここに来てくれる人たちみんながサポートしてくれるから、乗り越えることができていますね。
歩美:ずっと大変だけどその反面、ずっと楽しいっていう感じです。音楽イベントのフィナーレで、みんな感極まって涙を流したときは本当に感動しますね。その他にも忘れられない瞬間がたくさんあります。
歩美:感動とともに、音楽食堂ONDOが皆さんの帰る場所のひとつになればいいなと思います。私自身、大学生のときに一人暮らしを始めて、さみしいと感じることもあったんですけど、当時アルバイトしていたところが、私を家族みたいに受け入れてくれて。この経験があったからこそ、ここもそういった場所にしていきたいです。
このアットホームな空間をつくり上げることができているのは、そういった経験があったからなんですね。
歩美:自分たちがそうだったように、場所に救われることってやっぱりあると思うんです。
敏:そういった思いで営業しているので、コロナでお店を十分に開けることができていないのは悔しいですね。早く皆さんに会いたいです。
音楽食堂ONDOを残していきたい
コロナ禍で思うように営業できないなか、どのように過ごされているんですか?
歩美:お店を休業していたときは、店内をDIYしました。
歩美:結構大変でしたね(笑)。その他にも2020年には、広島のクラブやライブハウスなど音楽関連のお店と共同してクラウドファンディングを行い、ステッカーやTシャツなどをリターンとして配布しました。少しでも皆さんが音楽に目を向けてくれたらいいなと思って。
敏:こういうときだからこそ、人と人がつながるきっかけになればいいなと思いますね。
敏:臨場感があって、音で感動してもらえるように音響のレベルを上げていきたいです。あとはこのお店を続けることが大切かなと思います。今までのお客様が帰って来られるような場所を残し続けたいですね。
歩美:今のこの形も好きなんですけど、新たなコミュニティをつくるために、いつか地上階に出るなど、環境を変えることも考えていきたいです。
取材を通して、敏さんと歩美さんの優しい人柄がアットホームな空間をつくり出していると感じました。音楽食堂ONDOに行くと、森脇さんご夫婦が楽しい音楽や美味しい食事を提供してくれて、皆さんの帰る場所を作ってくれますよ。