速さではなく技の迫力や芸術性で魅せる走法で、クルマ好きを魅了するドリフト。国内最高峰のプロドリフト競技『D1グランプリ』に参戦するD1ドライバー・村上満さんと、『広島トヨペットGR Garage HATSUKAICHI』副店長でありモータースポーツチーム『HTP Racing』にレースエンジニアとしても所属する田上輝昭さんに、ドリフトの魅力について語ってもらいました。
ドリフトのかっこよさを競う『D1グランプリ』
村上:中学生のときにバイクを始めましたが、レースでケガをして辞めてしまいました。その頃ちょうどドリフトが流行っていて、友達に誘われてやってみたのがきっかけです。バイクと違ってクルマはタイムアタック以外の形で楽しみたいと考えていて、当時のドリフトは採点競技だったのでできそうだと思って始めました。それが19歳くらいの頃ですね。
田上:僕はクルマに乗るようになって、ドリフトが純粋にかっこいいなと思ったところからのスタートです。滑らせるのが好きだったのでそこからダートを始めて、西日本の大会では良いところまでいったんですが、費用の問題から辞めてしまって(笑)。
田上:今は、ドリフトは程よく趣味の範囲で楽しんでいます。
村上さんがD1ドライバーの道へ進んだのはいつ頃ですか?
村上:19歳からドリフトを始めましたが、ところどころで間が空いています。D1グランプリが始まった頃は仕事で独立するために一生懸命働いていた時期なので、ドリフトは休んでいました。2013年頃にドライバーに復帰し、一番下のカテゴリー「D1ディビジョナル」とその上の「D1ライツ」で戦績を上げて、今はトップカテゴリーの「D1グランプリ」で戦っています。
通常の運転を越えたコントロールでクルマを操る
田上:僕は競技には出ていないですが、やっぱりクルマを意のままに動かせるところが魅力だと思います。一般道を普通に走るのももちろん好きですが、ドリフトは「クルマを操っているぞ」という感覚を持てるというか。
村上:そうですね。ドリフトは進行方向とは逆にハンドルを切って後輪を滑らせながら走るので、通常の運転を越えたコントロール能力が求められます。他の人ができないことをできるようになる感覚なので、上手くなればなるほど楽しさを感じられますね。
見る側としても、クルマのダイナミックな動きや音と煙の迫力があって楽しいです。
村上:ドリフトには「人を湧かせたり喜ばせてこそ」という面がありますからね。ただその度がいき過ぎて、あまり良くないイメージがあることは残念です。
田上:その「人を魅了する」というところにドリフトの原点があるとは思うんですけどね。
村上:そうなんですよね。ドリフトは日本発祥の走法ですが、今や海外の方が盛り上がっています。安全性の問題などいろんなポイントはありますが、日本でももっと楽しんでもらえるようにしていきたいです。
実車ならではの楽しさを広く伝えていきたい
田上:若い世代の人にも、ドリフトはもちろんクルマ自体の魅力を伝えていきたいですよね。例えばサーキットは、僕が若い頃はクルマを持ち込んで楽しむことができたけど今はそうではないので、若い世代が気軽に行ける場所じゃなくなってきている気がします。
村上:もっとハードルが低かったですよね。今はサーキットに連れて行くだけでも若い世代の人は喜んでくれます。どんな競技でもいいので、まずクルマに興味を持ってやりたいことをやってもらいたいです。僕はずっとシルビアに乗っていますが中古でも簡単に買えない価格になってきているので、若手にもっと身近に感じてもらえるように来シーズンからは現在でも新車で手に入れられる「GR86」でD1グランプリに参戦することにしました。
田上:HTP Racingも同じ思いを持っていて、クルマの魅力をいろんな角度から伝えていくためにレース活動をしています。実は息子が二十歳を越えてからドリフトを始めたので、今では親子で趣味としてやっているんですよ。
村上:すごくいいですよね。クルマは面白さだけじゃなくて危なさも併せ持つので、そういったことをリアルでもっと感じてもらいたい。ただ最近はeスポーツの勢いも感じています。ドリフトもシミュレータ―でできるし、ちゃんと重力も感じられるのですごいですよ。
田上:eスポーツでドライバー経験のある人は、車の動かし方が本当に上手です。ただゲームはリセットできるけどリアルはそうではないので、恐怖心や先を見通す力とかが違ってくるのかなと感じています。その辺りが上手く交差すれば、eスポーツからリアルへの移行も可能になるのかなと思いますね。
村上:自分が学生のときにeスポーツがあればやっていたと思いますよね(笑)。ただ僕としては、リアルでゼロから体験してほしいという気持ちもやっぱりあります。D1ドライバーとして活動する中で、実車ならではの楽しさという点も大切にしながら今後もクルマの魅力を伝えていきたいです。
カテゴリーは違えど、長くクルマの世界に携わりクルマを愛する者同士が語るドリフトの魅力。時代に合わせて変化し、多様化していくクルマの楽しみ方とその将来にも思いを馳せるひとときとなりました。
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