アウトドア用品を製造、販売するノラクリエイト代表、里﨑亮さん。「頑丈でずっと使える」をコンセプトに商品づくりをしています。そのコンセプトを貫きながらも、これまでの経験や現在の活動を生かして社会福祉とのつながりを持ちながら、アウトドア好きな人だけではなく多くの人に届く商品を手掛けています。里﨑さんが経営するショップ「アウトドアスペース野桜」にてお話を聞いてきました。
愛着が湧く商品は、自身が欲しくなる商品づくりから
広島のキャンプ番組で里﨑さんがつくった「野良道具製作所」の商品が紹介されていて山のイメージを持っていたのですが、ご自身のホームページで「自身のアウトドアのルーツは海」で「お父様の影響で海を好きになった」というのを拝見しました。
里﨑:父親に教わって魚突きを始めたのが小学生の頃で、アウトドア全般に興味を持ち出したのもそのころです。実際には父親は魚突きよりも釣りの方が好きなんですけどね。
里﨑さんが魚釣りではなくて魚突きの方に魅力を感じるのはなぜですか?
里﨑:それは僕がせっかちだからですね。魚が釣れるのを待っていられません(笑)。そこに魚がいるか分からないのに糸を垂らすことが我慢できないんですよ。一度海に潜って魚突きを経験してしまうと戻れないですね。潜ってみると幻といわれるイシダイがめちゃくちゃいることが分かったり、最高に面白いです。
こちらのお店に伺ったときに、ウエットスーツや足ひれが置いてあることに違和感を感じていたのですが、そうしたきっかけからだったんですね。
里﨑:僕的には山より先に海があります。魚突きのついでにキャンプをしている感じなんですよ。「朝まずめ・夕まずめ」と言ってよく魚が捕れる時間帯があるんですけど、大物を狙うには「朝まずめ」を狙って前日入りしてキャンプするか、「夕まずめ」を狙うと時間が遅くなって帰ることができないので、キャンプして翌朝また魚突きして…となると必然的にキャンプすることになるんです。しかも大物狙いなら瀬戸内海ではなくて太平洋か日本海まで行く必要がありますし。
遠方でしかできないから、現地でキャンプをする必要があったんですね。そういった中でキャンプ道具をつくり始めたんですか?
里﨑:最初につくり始めたのは「銛(モリ)」です。2011年くらいから「魚突き用品専門店ジャックナイフ」という魚突きの道具を取り扱う店を始めました。魚突き用の銛を自作して、販売し始めたのが事業の原点ですね。
里﨑:それが全くと言っていいほどなかったんですよ。魚突きって小さい魚を捕るイメージを持っている方が多いですけど、限界まで潜れば50kgの大物も捕れるんですよ。大きな魚を突こうと思ったら竹の銛では威力が不十分で、長くて頑丈な銛を使う必要があるんです。でもそんなものをつくっているメーカーは10年前にはなかったですね。
里﨑:銛はマニアックな世界だったので自分でつくるしかないと思ってカーボンシャフトを特注して、先端の金具はチタンを削り出しでつくって販売し始めたのが最初ですね。
里﨑:そうですね、完全に一人で商品をつくっていました。販売はネットショップを立ち上げて、発送もしていましたね。銛の太さや強さ、構成部品などに試行錯誤しました。今では品質を認めてもらえて、多くの方にご注文をいただいています。
次の段階として山の商品を始めようとしたのは、どんなことがきっかけなんですか?
里﨑:僕の中では商品に海と山の境はないんですけど、発想はレゴブロックと同じなんですよね。自らの欲しいものをつくっているんです。当時小さくて頑丈で火力の強い焚火台がなかったので、レゴブロックの感覚で山の商品をつくりはじめました。
たしかに里崎さんがつくる商品は、いろいろなパーツの組み合わせによってできていてレゴ感があります。
里﨑:僕はとにかく頑丈なものが好きなんですよ。子どもの頃からおもちゃでも金属製のものが好きでした。「壊れるかも」って思いながら使うのが嫌なんですよ。気を使って仕方がないから愛着が湧かないんです。
現在の商品ラインナップは思う存分使ってもへこたれないものばかりなので、使い込んで愛着が湧きますね。
商品一つひとつの背景を大切にしたストーリーあるものづくり
社会人になってすぐにアウトドア関連の仕事で独立したのですか?
里﨑:現在のように自分で独立して仕事をする前は、いろいろな職業を経験しましたね。型枠大工・スーパーのバイト・IT関係など多岐にわたります。あと、お芝居をしていた頃もありました。
えー!お芝居していた頃もあるんですね、役者ですか?
里﨑:役者もしていましたし、演出家は今でも呼ばれたらやりますよ。
里﨑:お客様と話をすることはとても好きですね。多くの意見をもらいながら商品開発をしていると結果的にマーケティングにもなりますし、いろいろな方の思いが商品のストーリーづくりになって面白いです。
商品のもつ背景に魅力を感じるお客様は多いと思います。演出家という経験があるからこそ、ストーリーづくりの部分が商品に生かせているのかなって感じました。
里﨑:何かを設計したりする素養が全くなかったんですよ。自分の頭の中にある商品のイメージを手描きで表現するしかなかったので、すぐに壁にぶつかりました。立体の商品を作るのに平面に描くのではすぐに限界がきてしまうんです。
里﨑:でも今はフリーで使えるパソコンソフトも多くあることが分かって、いろいろなイメージを形に出来ています。すごく自由に商品の発想が生まれていますよ。
里﨑:そうですね。最初はめちゃくちゃハードルの高いものだと思っていましたけど、実際にやってみるとそうでもなかったり。
一旦壁にぶつかったけど、そのお陰で今の商品づくりにつながっているんですね。
火起こしにチャレンジ
最近いろいろなキャンプ番組で火起こしをしているのを見ていたので、一度やりたかったんです。ぜひ体験をさせてください。
里﨑:まずはどうやって火を起こすのかを説明させてもらいますね。今日はファイヤースターターという棒状のアイテムを使って火を起こします。ライターの火花が出るところがありますよね。その大きいバージョンと思ってください。
里﨑さんのところでは「野良スティック」という名称でファイヤースターターを販売しているんですね。この野良スティックは少し削れていますけど、けっこう使用しているんですか?
里﨑:体験に使用してもらうファイヤースターターは、お店でデモ用に置いているものなのでかなり使い込まれています。この細さになってもまだまだ使えますけど、通常はこんなに細くなるものではないので、個人で使うぶんには一生ものですね。
里﨑:尖っていれば何でもよくて、ナイフの背とかでもよいです。野良スティックの特徴なんですけど一般的なものより大きいんですよ。この商品をつくった時はこんなに大きい火起こしはなかったんです。火起こしが小さいと火花も小さいので大きいサイズをつくりました。火をつける先は麻紐をほぐしたものや、ティッシュでもよいです。
里﨑:あらかじめスターターを削って粉を溜めておくと火が付きやすいですね。火起こしには「ファットウッド」という木の欠片もとても有効です。木の節の部分に樹脂がめちゃくちゃ溜まってこの濃さの色になっています。
里﨑:転がっています。ここの部分だけは腐らないんですよ。木が倒れて腐るじゃないですか、ここだけ残るんですよ。そういった部分を山で拾ってきて形を整えて使います。なにが良いってめちゃくちゃ燃えるんですよ。もう燃料ですね。
ロウのような手ざわりです。ねちゃねちゃしますね。でもこれを森の中で見ても気が付かないですよ(笑)。これに火を付けるならできそうな気がしてきました。
里﨑:しっかりおさえて火花を最後まで対象物にあてるのがコツです。
よーし、おー、簡単に火が付いた!子どものころからこういう体験をしておけば万が一のときに役立つかもしれませんね。ワークショップのような機会を通して、多くの方に知って欲しいです。
里﨑:そうですね、万が一に備えてかばんの中に一つ入れておけば、山の中で遭難したときに暖をとることができるから、防災グッズの一つとして認識してもらえたらいいですね。
福祉施設と地域の関わりを考える
里﨑さんは福祉施設との関わりがあると聞きました。どんな活動をしているのですか?
里﨑:2015年に友人と一緒に大竹市内に、放課後等デイサービスを立ち上げました。
放課後等デイサービスとはどんなことをするんですか?
里﨑:障がいのある子どもたちをお預かりして、さまざまなケアを行う福祉サービスです。広島CLiP新聞の皆さんは「レスパイトケア」という言葉を知っていますか。
里﨑:「レスパイトケア」は、介護をしている家族が一時的に介護などから解放され、休息をとれるようにする支援のことです。たとえば登下校が心配な子どもさんがいて、親御さんが子どもについて行きたいけど仕事で学校の迎えができないようなときに放課後等デイサービスのスタッフが迎えに行くんです。放課後等デイサービスからの帰りも自宅まで送ったりして、親御さんのケアも目的の一つです。
里﨑:そういったサービスが以前は大竹にほとんどなかったんですよ。人口の少ない町は放課後等デイサービス事業者の選択肢が少ないのが問題だと思うんです。仮にフィーリングが合わなくても、そこに決めないといけなかったり。
里﨑:放課後等デイサービスでは子どもによってさまざまなカリキュラムを用意しているんですけど、自立支援と日常生活の充実のための活動を子どもの個性に合わせて考えています。
アウトドア用品の製造や販売だけではなく、放課後等デイサービスの活動も含めて、地域とのつながりを大切にされているんですね。
アウトドアを次のステップに進めるために
里﨑:近年アウトドアを楽しむ方がすごく増えています。キャンプ場にも人がいっぱいいるし、野良の商品販売も好調だし、新製品もどんどん増やしたいんですが、それで消費されるだけの存在になりたくないと思っています。コロナが流行する前は就労支援施設へ「野良ストーブ」の組立梱包をお願いしていました。就労支援施設へ仕事をお願いするようになってから分かったのは、結構いろいろな作業がしてもらえるということです。
こちらが思うよりも多くの作業ができるということですか?
里﨑:そうです、もっと多くのことを依頼すればいいじゃんって思ったんです。ノラクリエイトの商品を多くの方に使っていただいて、商品が就労支援施設でつくられていることが利用者の方に伝われば、他の会社も仕事の依頼をすることによって就労機会が増えていくんじゃないかなって。
里﨑:自社の商品が売れるだけではない、世の中にちゃんと循環していくようなことをやりたいですね。現在は依頼のみですが、将来的には就労支援施設をつくりたいと思っています。先ほどの放課後等デイサービスは小学生~高校生までが対象なんです。親御さんはその先の就職を心配される方が非常に多いので、楽しくて面白いアウトドア用品を製造できる職場環境をつくりたいと考えていますね。
さまざまな就労支援施設の方がグループで半年に一度、日々の活動を知ってもらうためのイベントをCLiP HIROSHIMAで行っています。里﨑さんとのコラボイベントなどぜひ行いたいです。
里﨑:最近はアウトドアブームだと言われていますけど、多くの人が自然の中に入っていくだけなら、もしかしたら自然にとってはただの迷惑かもしれないと思うんですよ。アウトドア事業に携わることで、ブームだけで終わらせるのではなく、もう一段高いステージに上げる必要があると感じています。「環境保護につながったね」とか「社会の役に立ったね」とか。そういう活動がこの業界の人には必要だと思っています。
さまざまなアウトドア用品を世に送り出している里﨑さん。そのアイテムには、ただアウトドアを楽しむためだけではなく、福祉とのつながりも大切にした里﨑さんだからこそ描けるストーリーがありました。ジャンルを越えた先にある思いを共有しながら、里﨑さんはこれからも多くの人が幸せになれるアイテムをつくり続けていきます。