「人生は冒険だ」「可愛い子には旅をさせろ」といった言葉を耳にします。しかし、我が子のこととなると、けがして痛い思いをしないよう守りたい気持ちが先行しがち。子どもの自由を奪うかもしれないその行為を取り除いたとき、子どもたちはどんな表情を見せるのでしょうか。みやうち冒険あそび場の会の寺本光児さんは、大人が口出ししない子どもの自由な遊び場を作りました。
設置された遊具はない。さあ何して遊ぶ?
「みやうち冒険あそび場の会」について教えてください。
寺本:廿日市市の宮内工業団地内にある鑓出第3公園で、子どもたちができるだけ自分たちの自由な発想で遊ぶことのできる場所を提供している団体です。
遊具のない公園ですが、子どもたちはどんな遊びをするのでしょうか?
寺本:芝生を走り回ったり、木登りしたり。ほかに、焚き火台、ブルーシート、ハンモック、シャベルやのこぎり、かなづちなどの道具、木材の端材といった遊びに使える道具を僕たちボランティアが用意します。火を扱うもののそばには安全のため大人が付き添いますが、見守るだけ。それらをどう使うかはあくまでも子ども次第です。
過去の写真を見ると、みんな楽しそう。何歳ぐらいの子どもたちが遊びに来ますか?
寺本:10歳ぐらいまでが多いですね。お母さんに抱っこされた0歳の赤ちゃんも来てくれたことがあります。1回につき平均で40人ぐらいが参加します。
道具をどう使うかは子ども次第
寺本:印象的だったのは、園内の斜面で洞窟を作った子どもたち。その日、砂場のようなところの近くにシャベルを置いていたのですが、子どもたちはシャベルを砂場ではなく、斜面を掘ることに使い始めました。
寺本:始めたのは小学生の姉弟でしたが、だんだん周りの子どもたちも巻き込んで人数が増えていきました。斜面に穴を掘るのは普段は怒られることかもしれない。でもこの会は、「やってみな」と言ってあげられる場なんです。
寺本:子ども一人が入ることのできる大きさになって満足したようで、次の興味へ移っていきました。大切にしたいのは、完成させることではなく、子どもの「今これをしたい!」という衝動です。
けがも失敗も「良い経験」
この会はけがも子ども自身の責任という考え。「けがしないように」と育てる親としては胸に刺さる言葉です。
寺本:けがや失敗は子どものために取り除くものではありません。それらを経験することで、自分で生きていく力がつく。親は「痛かったね」と声を掛けて、心の中では「この子は良い経験をした」と思ってほしい。「けがや失敗をしても大丈夫」と、どーんと構えていきたいですね。
「みやうち冒険あそび場の会」を今後、どのように発展させていきたいですか?
寺本:まずは細く長く、イベントの一発屋で終わらないように、5年、10年と続けていきたい。あそび場の常設化や放課後毎日開催などが夢です。そのためにもボランティア仲間を増やしたいですね。
寺本:大きい遊具のある公園に遠くから行くより、小さくても家の近くにたくさん遊び場がある方がいい。僕らの活動を知って、「いろいろな地域で私も挑戦してみたい」と思う人が増え、子どもたちの遊び場の芽がたくさん育ってくれたらいいと思います。
子どもの可能性を信じ、見守る環境を広げていこうと活動する寺本さん。自由な発想力を育んだ子どもたちが作る未来は、きっと心豊かで過ごしやすい社会へつながるはずです。「やってみたい」という好奇心を、私たち大人は大切に守っていきたいですね。