
福山市神辺町。かつて山陽道の宿場町として栄えたこの地に、200年以上の時を刻む庄屋屋敷『旧菅波邸』があります。この歴史的価値のある建物を、オーナーの藤近さん親子が再生させた『Café anjin(カフェ アンジン)』。店名は仏教用語である「安心(あんじん)」に由来し、店内に一歩足を踏み入れると温かな光が包み込む、まさに「安心」できる空間が広がっています。
昔と今を繋ぐ古民家との出合い

神辺地区には歴史ある貴重な建物が残っていますが、高齢化をはじめ様々な問題から維持が難しく、空き家が増えています。『旧菅波邸』もその一つ。神辺大火(※)後に建てられた古民家をカフェとして再生させたのが『Café anjin』のオーナー藤近洋子さんと娘のえりさんです。
※江戸時代の文化4年(1807年)2月18日から19日にかけて、備後国神辺宿(現在の福山市神辺町)で発生した大火災
「一軒しか救えないけど、この場所を誰もが集える場所に再生したい」と一念発起。1年半以上の歳月をかけ、大工さんの力とDIYを組み合わせてリノベーション工事を行いました。家族や仲間の手で塗り直された壁や、カフェのアイコンはかつての持ち主、菅波梅子さんへの敬意を込めて梅をかたどるなど、随所に「歴史へのリスペクト」が息づいています。

かつて庄屋屋敷だったこの家で、特に目を引くのが、今の建築では再現できないほど立派な梁が巡る天井と、生活を支えた広大な土間のスペース。そこはリノベーションによって再び開放感あふれる空間となりました。また、店内に並ぶアンティーク家具の多くは、縁あって譲り受けたもので、ボロボロだった椅子を張り替え、古いタンスは丁寧に洗って塗装を施し、カフェの調度品として蘇りました。


ゆっくりと時が流れる空間で楽しむ至福のランチタイム
ランチの看板メニューは『週替わりあんじんご飯』。新鮮な野菜をふんだんに使って「ひと工夫ある美味しさ」を大切にしています。またスパイスの香りが食欲をそそるカレーや、カフェ丼、グラタンなど季節に合わせいろいろなメニューを開発して提供しています。



スイーツの担当は娘のえりさん。季節によって様々なパフェやスイーツを提供しています。またドリンクも豊富で、今は米糀のドリンク類が好評とのこと。


Café anjinでのひとときをより豊かにしてくれるのが、四季折々の表情を見せる美しい庭園。穏やかな風を感じながら、日常を忘れてゆっくりと過ごすことができます。

神辺の活性化と未来へ繋ぐ
「この場所が、神辺の存在意義に気づくきっかけになれば」と地域の歴史と文化を次世代へ継承することを願う洋子さん。レンタルスペースとして利用できる奥座敷に、希少な『備後畳表(びんごたたみおもて)』を取り入れる準備も進めています。かつて最高級品として名を馳せながらも、今や職人が途絶えようとしている伝統工芸。それを身近に感じてもらうことで、失われゆく文化の価値を問い直そうとしています。そして、この場所を拠点に神辺の街が再び輝き出す未来を見据えています。


「歴史ある神辺を忘れ去られた場所にしないために」。この場所が発信地となり、古いものを大切にする文化を守っていく…。そんな未来への思いには胸が熱くなります。ここを吹き抜ける風さえも出迎えてくれているかのように感じる優しい空間で、古き良き時代の先人たちの思いに心を寄せながら、格別な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。