ほとんど毎日着物を着て生活を送っている澤井律子さん。着物を身近なものにするため、2005年にサークルとして『ひろしまきもの遊び』を立ち上げ、さまざまな和文化事業を展開しています。「少しでも和文化に触れてほしい」そんな思いを持って活動する澤井さんに、着物や和文化の魅力についてお話を聞きました。
知れば知るほど深かった着物の魅力
澤井:着物に興味を持ち始めたのは2004年頃でした。以前オーストラリアに1ヶ月間住んでいたことがあって、そのときに日本の文化について聞かれて。私、「言葉は喋れても日本のこと全然知らないな」って気付かされて日本文化に関心を抱き始めたんです。海外が好きで将来移住をしたいなって考えていたから、自国の文化を知っていた方が現地の人と仲良くなれるんじゃないかと思ったんですよ。
たしかにコミュニケーションは取れても、日本文化について知らないと日本の良さが伝わりきらないように思います。
澤井:そんなときに新聞を広げたらちょうど着付け教室をやっているのを見つけて。これが着物ライフにのめり込んでいく最初の一歩でした。実際に着物に触れてみると、すごく楽しくて。
ということは、もともと着物が好きというわけではなかったんですね。着物に出合われるまでは、全く別のお仕事をされていたんですか。
澤井:着物には興味を持っていなかったんですよね(笑)。海外志向が強かったので海外移住のことは考えていましたが、仕事はアナログな和とは違いデジタルなホームページ制作でしたし。それでもやっぱり海外の人に触れ合いたいなっていう気持ちがあったので、一時期は日本語教師を目指そうとしていました。でも言葉だけではなくて、もっと文化的な要素を身につけたいと思っていたときに出合ったのが、たまたま着物だったんです。
そうだったんですね。楽しいと思われた理由も気になります。
澤井:着物は着ていく過程がたくさんあるので大変だと思われがちですが、手の動かし方ひとつで可愛く着つけられたり、粋に着つけられたり、自分の思うように演出できて楽しいんですよ!それに、伊達締めや帯を締めるときの衣擦れの音も好きですね~。癒されるんです。あと、季節の柄が描かれていたりすると、日本の四季を意識するようになるし、その1つひとつに意味があることとかも知っていくとさらに面白さを感じて、そこからいろいろ勉強していったんです。
野球観戦もカフェも、着物でお出かけ。
私が着物を着たのは成人式か大学の卒業式での袴が最後で、普段あまり着る機会がないように感じています。
澤井:私も着物を着る家庭とかでは全くなかったです(笑)。着物を着る機会がないっていう人が多いから、その機会を自分たちでつくろうと立ち上げたのが「ひろしまきもの遊び」なんですよ。
そうだったんですね。澤井さんは普段どんなところに出かけられるんですか。
澤井:仕事はもちろん、普段だとご飯を食べに行くときとか、それこそ映画館や野球観戦にも着ていきますよ。去年コロナでイベントが中止になりましたが、着物でボウリング杯の開催も考えてたんです。
着物でボウリングってめずらしい組み合わせでおもしろい!澤井さんにとって着物は非日常ではなく日常なんですね。今のお話を聞くだけでもなんだか私も着て出かけたくなっちゃいました。私みたいな初心者ならどんな場所やシーンがおすすめでしょうか。
澤井:興味のある企画展に遊びに行くとかいいんじゃないでしょうか。こういう機会を少しずつ増やしていくと、着物がだんだん好きになって楽しくなってくるんです。あとは広島だと川や緑が多いから、景色のいい川辺のカフェとかで読書もおすすめです。始めから和風っぽいところに行くと気が張ってしまうので、まずはお気に入りのお店でランチやティータイムなどでゆったり過ごすのがいいと思いますよ。
なるほど…それだと私でも楽しめそうです。私も着物を着てみたいな~!
和文化をもっと身近なものに
着物や和文化の知識はどうやって身に付けたのですか。
澤井:着付け教室に通いながら着物の本で勉強したり、着物仲間とわいわい座談会をしながら情報交換してましたね。で、気になるイベントに参加しては、茶道だったり風呂敷だったりと和のプロフェッショナルな方々との出会いがたくさんあって、そういう方たちにセミナー講師を引き受けていただいて、着物仲間と一緒に学びました。最近なら、YouTubeとかで、たくさん勉強することもできますよね。
着物がツールとなって様々な和文化にも人にも出会われたということですね。
澤井:そうなんです。こういう形でいろんな人たちと出会って和文化に少しでも触れ合える機会が増えればいいなというのが、私たちの活動の最終的な思いでもあります。
ホームページを拝見させていただくと、水引や和裁など着付け以外にもいろんな活動をされていますよね。全て澤井さんが企画されていらっしゃるんですか。
澤井:そうそう(笑)、好奇心がすごく強くて。水引は作品づくりだけじゃなくて、ワークショップも行っています。5~6年前に和のイベントをやったときにたまたま水引細工をされている先生と出会って。着物と一緒で、実際に自分でつくって見たらものすごくハマったんです。
もしかして、澤井さんが今日付けられているイヤリングも水引でつくられているものですか?私の水引のイメージはご祝儀袋とかについているイメージでした(笑)。
澤井:そうなんですよ。水引も着物と一緒でみんなの身近な存在になったらいいなという思いからアクセサリーをつくるようになりました。
着物は日本人の心になれるとっておきのツール
ここまでお話を聞いていると澤井さんのこれまでの活動は順風満帆という印象を受けていますが、ひろしまきもの遊びの活動を通して逆に苦労されたことや大変だったことはありますか。
澤井:活動を始めた15年前ってこういうグループが全然いなかったんですよ。けど実は「仲間が欲しかったんです」っていう人たちがたくさんいて。そのときは仲間もすぐに集まったからあまり大変ではなかったんですけど、その後にやった「和カルknow」というインバウンド事業が大変で。
そうだったんですね。具体的には何が大変だったんでしょうか。
澤井:海外からの観光客向けに平和公園の近くを拠点として着付け体験をしたのですが、皆さん平和公園には着物を着て行かれないんです。
たしかに宮島ではよく見るけど、平和公園では見たことないかも…。
澤井:海外の方にとっては、着物はエンターテイメントの一つという感覚で着るので、平和を祈る場である平和公園へは着物で行かないということに気付いたんです。インバウンドをビジネス化したのはいいものの、マッチングしなかったんですね。
澤井:平和公園に来られている海外の方に自分たちで直接話を聞きに行ったりしました。話を聞くと、平和公園じゃなくて、別の場所なら着たいっていう意見があって。私たちが思っている以上に場所ありきの着付け体験なんだなと感じました。
澤井:だから平和公園付近から今は縮景園近くの場所に活動拠点を変えたんです。着付け体験をされた大半の方が、「日本人の心になれた気がする」って言ってくれて。それがすごく嬉しいんですよ。
そんなことを言ってくれるんですね。海外の人たちが思いを持って広島に来てくれるだけで価値があるように思います。
拠点を今の場所に変えてから、海外の方の反応はどうですか。
澤井:やっぱり場所を変えたことがよかったみたいで、すごく楽しんでくれています。
澤井:アジア系の方は派手な着物を選んで写真を撮ることを楽しみ、欧米系の方は落ち着いた雰囲気のものを選んで、「それは何?」「なんでこんないっぱい着るの?」という感じで一つひとつの理由を知りたがる傾向があります。そういう国によっての違いは面白いなって思いますね。
澤井さん自身も海外移住への思いがあるから実際に触れ合うのは刺激になりますね。海外の方って日本=着物というイメージがあるのでしょうか。
澤井:そうですね。着物もそうだけど特に侍のイメージがあるみたいです。まだみんな日本人が日常の生活で着物を着ているイメージをもっていたりとか。
もしかしたら侍にも会えると思っていたりするかもしれないですね(笑)。
和に特化した学校の設立
ひろしまきもの遊びとして、今後広島でどのように和文化を広めていきたいですか。
澤井:私たちの活動の目標の一つとして「和に特化した学校」をつくるっていうのを今考えています。学校だとハードルが高いって思う方もいらっしゃるかもしれないので、塾のようにして、中学生とか高校生とかが通える場所にしたいなと思ってるんです。
こういう専門分野って大学とか専門学校に行かないと学べないイメージがあります。気軽に行ける場所だと少し興味がある人でも参加しやすそう。
澤井:そうそう。一気にだと難しいので少しずつ定期的にやっていきたいなって考えています。あとは今春から「和文化体験合宿」を三原で始めようと思ってるんです。その土地の文化も取り入れつつ、そこで活躍されている茶道の先生とかを呼んで盛り上げたいなって。広島県の各地で和文化に少しでも触れられる体験が出来るようにしていきたいですね。CLiPさんぜひ何か一緒にしましょう(笑)。
今まで着る機会がなかった着物。澤井さんと話していると、ハードルの高い存在だった着物が一気に身近な存在になりました。きっとそれは澤井さんと和文化の魅力に惹かれたからだと思います。まずは気軽に参加できる着付け体験や着物のイベントを楽しんでみることから始めてみてはいかがでしょうか。