広島市西区にある工房から、世界を舞台に活躍する陶芸家・吉野瞬さん。G7広島サミットでプレートが採用されるなど、その実力や人気は留まることを知りません。今回は、海外での個展を終えたばかりの吉野さんに、旅先での話、独自の創作哲学、これからの展望についてお話を伺いました。
日本と海外 器と文化の違い

吉野さんは広島市出身。基町高校創造表現コースを卒業後、栃木県の益子焼の窯元で8年間修業し、2012年に独立しました。独立後は尾道市因島に工房を構え、その後広島市西区へ拠点を移転。現在は国内だけでなく海外での活動にも力を入れています。
2026年だけでもアムステルダムや中国、韓国などで個展を開催。今後もメキシコやアメリカ、中国での展示が予定されており、再来年までスケジュールが埋まっているそうです。
取材日当日は韓国・ソウルでの個展最終日。吉野さんにとって初めての韓国での展示でした。
「どんな陶器が日常で使われてるんだろう、と思って事前に調査したんですが、韓国料理ってアルミのボウルやステンレスのスプーンで食べることが多いみたいで。ただ、別にその国の好みに寄せることは意識していなくて。僕が作ったものが、韓国の生活の日常の中に入っていくのがこれから楽しみです」
展示した作品は完売。現地の人との交流も生まれ、楽しく、手応えを感じる個展になったといいます。

日本と海外では、器の文化の違いも大きいそうです。
日本には、ぐい呑みや蕎麦猪口、向付(むこうづけ)など、「食べ物ありき」の特別な器があり、食べるものによって、器を細かく使い分ける文化があります。一方で海外では、用途ごとの器という文化はあまり聞かないとのこと。

世界を知ることで自分が広がる

例えば最初は「Wi-Fiあるかな」とか「治安大丈夫かな」とか気にすると思うんですけど、そこを飛び越えると、自分でも計り知れないくらいの発見があります。環境も言語も変わって誰も知り合いがいない場所に行くと、結構おもしろいものが、自分の中から出てくるんです。

作品を生み出す工房へ!
作品のほとんどを作っているという工房も案内してもらいました。
制作途中の作品や釉薬が並び、窯では次の個展に向けた作品が焼かれていました。

一度焼かれた粘土は「素焼き」となります。それに灰などでできた釉薬で色付けし、高温でもう一度焼くと丈夫で使いやすい陶器となります。

灰を溶かして作るので、釉薬の多くは灰色に見えますが、銅が入っていると鮮やかな緑、酸化鉄が入ると赤になる「炎色反応」が起こります。吉野さんはほかに広島の八朔(はっさく)の灰なども作品に使っていますが、八朔は綺麗な青色になるそうです。

制作に使用する土は主に2種類で、作る器によって替えています。海外では使う土も違って、たとえばアメリカではニュークレイ(新しい土)と、リサイクルクレイ(リサイクルされた土)があり、どちらも日本より高額なんだそうです。日本は良質な土をより安価に入手できるので、陶芸に適した環境だといいます。

最後に、なにか思い入れのある器がありませんか?と聞くと、益子焼の窯元で修業していた頃の作品を見せてくれました。
「僕の器、使いやすいですよ。使いやすさを一番に考えています。基本は益子焼なので」と吉野さん。確かに、口元はなめらかで厚すぎず、持つと手にしっくりとくる感覚がありました。
世界各地を飛び回りながら新しい表現を追い求めつつも、使いやすさなどの基本を大切にする姿勢は変わっていません。

また、2027年の5月には、数年ぶりに広島で個展も開催します。
今吉野さんの作品は、ほとんどが個展でしか購入できないので、貴重なチャンスになりそうですね。今後もどのような作品が生まれるのか注目です。
陶芸家
吉野瞬さん
広島市出身。広島市立基町高等学校創造表現コースを卒業後、栃木県の益子焼の窯元で8年間修業し、2012年に独立。現在は広島市西区にアトリエを構え、国内だけでなく海外でも個展を開催するなど精力的に活動している。