広島市南区元宇品の住宅街に、ひっそりと佇んでいる燻製工房がある。オーナーシェフであるアラン・カールセンさんは、デンマーク王室や日本の大使館でシェフを務めていた経歴もあるのだそう。元王室シェフが作る燻製はいったいどんな味わいなのか。日本で、そしてこの広島の元宇品でお店を開くまでのお話も合わせて伺いました。
定番のスモークサーモンから肉類、調味料まで。
燻製工房ホイコッケンでは、どんな種類の燻製を作っているのですか?
アラン:メインはスモークサーモンですが、この2023年4月から、ベーコン、パンチェッタといった肉類も取り扱うようになりました。
アラン:塩や胡椒、オリーブオイルといった調味料の他、色々な種類のナッツも、燻製にして販売しているんです。料理にほんの少し加えるだけでアクセントになりますし、味に深みが出ます。
丁寧に時間をかけるからこそ、極上の味わいに。
看板商品である、スモークサーモンはどのように作られているのですか?
アラン:まずサーモンが到着したらすぐに三枚におろし、塩・砂糖・スパイスに2日間ほど漬け込みます。そうすることで、余分な水分や臭みを排出し、ベースとなる味付けができます。
アラン:味付けしたサーモンを冷蔵庫で半日〜1日寝かせて味を馴染ませ、表面を少しだけ乾燥させます。そして専用の燻製機に入れ、桜チップで70時間以上冷燻(※)した後、冷蔵庫で約1週間寝かせて熟成します。この熟成を行うことで味に深みがでるんですよ。
(※冷燻:燻製器内の温度を15℃から30℃ほどの低温で長期間燻製をかける方法。)
アラン:そうなんです。完成するまでに、約3週間程度かかります。ちなみにベーコンは約1ヶ月、そしてパンチェッタは約2ヶ月かかるんです。
そんなに!作られるまでの工程を知ると、食べる時間がより貴重に感じられますね。食材やスパイスにこだわりはありますか?
アラン:スモークサーモンは全て、北ノルウェーから仕入れたオーロラサーモンを使用しています。
冷たい海水で育つオーロラサーモンは、きめ細かい上質な脂がのっていてとっても美味しいんですよ。
他にも、味付けに使用するスパイスは、デンマーク伝統の味を大切にしながら、日本の方々の味覚に合うよう独自にブレンドしています。
燻製のとてもいい香りがこちらまでフワッと広がります。おすすめの食べ方はありますか?
アラン:スモークサーモンを小さく刻んでホカホカのご飯と軽く混ぜ合わせると、絶品おにぎりに大変身します。同じように茹でたじゃがいもと混ぜ合わせると、とっても美味しいマッシュドポテトになるので、ぜひ試してみてください。
デンマーク王室から日本の大使館、そして広島へ。
元デンマーク王室シェフの方が、どういったきっかけで来日されたのですか?
アラン:デンマーク王室でシェフをしていた時から、海外で仕事がしたいという気持ちを強く持っていました。そんな時、日本の大使館でシェフを急募しているため来てほしいという話があり、迷うことなくすぐに行くことを決めたんです。
アラン:はい。その後は旅客船でウェイターをしたり、コンテナ船でシェフをしたり。結婚を機に、妻の住んでいる広島へ来ることになりました。
アラン:燻製は、私の母国デンマークではとても馴染みの深い伝統的な調理方法で、日々の食卓を彩ってくれるものでした。日本で生活する中で、そんな大好きな燻製と、伝統を重んじる和食に強い繋がりを感じ、日本の方にもデンマークの伝統の味を知ってもらいたいという思いから、2013年に現在の燻製工房をオープンしました。
今年でちょうど10年を迎えられたのですね。お店を続けられる中で、どのようなやりがいを感じますか?
アラン:燻製を食べてもらった方に美味しいと喜んでもらえることが、ほんとうに何より嬉しいことです。数年前から、元宇品小学校の2年生が行っている生活科の「どきどき わくわく まちたんけん」の学習で、毎年このお店に来てくれるんです。
アラン:子どもたちとの交流をきっかけに、地域とのつながりも感じられています。これからも、広島、そして日本のみなさんに喜んでいただけるよう、頑張っていきたいです。
デンマーク王室や日本大使館など、様々な場所でシェフとして働いた経験を活かし、伝統的かつオリジナルな燻製を作るアランさん。丁寧に時間をかけて作られるホイコッケンの燻製は、かけた時間のぶんだけ風味豊かで味わい深いものになっているのだと実感しました。しっとりとした優しい食感と上品なスパイスの香りが特徴の、デンマーク伝統の味をぜひ味わってみてください。