
音楽活動のほか、テレビやラジオへの出演など、多方面で活躍している森本ケンタさん。広島でシンガーソングライターとして活動をスタートし、2018年には発声障害で歌うことが難しくなりギタリスト・作曲家へ転向。その大きな決断の裏にある葛藤を乗り越え、今年活動20周年を迎えました。
これまでの活動を振り返りながら、節目を迎えた今の心境、そしてこれからについて教えてもらいました。
20年前に思い描いたものとは全く違う音楽活動の形に。
森本:体感的には、あっという間に過ぎ去る時期とすごく長く感じる時期と、両方あった感覚です。ただ20周年を迎える今が一番楽しいと感じていて、そんな気持ちで活動できているのがすごく幸せなことだなと改めて思っています。
シンガーソングライターとして活動していた頃。森本:若い頃は「良い歌を歌っていればいい」という思いがあって、いろんなことを人に任せっきりにしていたことがありました。でも発声障害で歌えない状況になったことで、人の痛みが分かるようになりました。発声障害は僕にとっては挫折ですが、その分今まで以上に人の心に寄り添える音楽がつくれるようになったかなという思いもあります。20年前に思い描いていたものとは全く違う音楽活動の形になっていますが、この経験は自分の人生においてすごく重要なことだったと思っています。
森本:けっこうかかりましたね。ギタリストへ転向して7年目になりますが、本当に自信を持ってステージに上がれるようになったのは3年前くらいからです。そこまでには、“どうやって森本ケンタを締めくくろうか”と応援してくれている方が納得できる終わり方を探していた時期もあるくらいでした。
森本:一つはファンの方からのメッセージです。「週末にライブがあると思うと忙しい毎日も頑張れる」「子どもが不登校になり笑わなくなってしまったけど、家で音楽をかけていると笑顔が見られるようになった」というようなお手紙をいただいて、これは辞められないなと。応援してくださる方の力に少しでもなりたいからもう少し踏ん張ってみようと考えるようになりました。そんな頃に、森本ケンタトリオのメンバーに出会えたんです。これが二つ目の支えですね。

トリオでの音楽に、可能性と魅力を感じる。
2022年からはチェロ・川岡光一さんとパーカッション・森川泰介さんとともに「森本ケンタトリオ」としても活動されていらっしゃいますね。
森本:そうなんです。僕のギターでは表現しきれなかったり声を失うことで諦めていた伸びやかなサウンドを川岡くんが弾いてくれることによって、作曲の幅がすごく広がりました。森川さんは僕が発声障害以降苦しんでいることを知ってくれていたので、ギタリストに転向した僕の苦悩も理解して支えてくれました。アルバム『OPEN』のレコーディングをきっかけに、3人で演奏する機会ができたのが2022年7月17日。初めて3人でライブをして本当に楽しくて、バチッとはまった感覚が今でも忘れられないくらいです。
左から、森川泰介さん、森本ケンタさん、川岡光一さん。2人との出会いがなければ、今はなかったかもしれませんね。
森本:本当にそうですね。世界最古の楽器であるパーカッション、クラシックのチェロ、ギターとすごくトラディショナルな楽器の集まりなので、これでどこまで面白い音楽ができるかっていうところにも可能性や魅力を感じています。アイデアがどんどん出てくるし、あれもやりたいこれもやりたいと考えている間は、結局辞めようなんて思わないじゃないですか。そこが支えになったし、立ち直らせてくれた存在でもあります。
森本ケンタトリオでのライブの様子。森本:トリオを中心に、ベースとピアノ、ギターの6人編成で行う予定です。今ちょうどアイデアを出しながら内容を考えているので、6人だからこそ届けられる特別なステージをぜひ楽しんでもらいたいと思っています。
支えてくれた人へ恩返しできる人生に。
森本:どの活動も大切ですが、音楽活動と並行して長く続けている取り組みの一つに、似島にある養護施設への訪問があります。地元のスーパーマーケット・フレスタさんがこの活動に賛同してくださり、毎年秋には島の清掃をした後にみんなでバーベキューを楽しんだり、クリスマスにはケーキを届けに行ったりしています。また年に一度はチャリティーオークションを開催し、ファンクラブの皆さんにもご協力いただいています。売上は、子どもたちが自分の好きなものを買えるように寄付しています。
子どもたちと一緒に遊んだときのワンシーン。森本:それ以外にも、定期的に子どもたちと過ごす時間をつくっています。僕の音楽活動が子どもたちの楽しみや喜びにつながっていると感じますし、小さい頃から知っている子たちが施設を卒業して働いている姿を見ると、本当にうれしくて大きな力をもらいます。この活動は、自分が音楽を続けるモチベーションにもなっています。だからこそ、こうして続けさせてもらえていることに心から感謝しています。
森本:シンガーソングライターの頃には見られなかった景色が、今のトリオの活動の中では見られるような気がしています。そこにすごくワクワクしているし、いろんなことに貪欲にチャレンジしていきたいです。僕が心折れそうになって辛かったときにそばにいてくれた方へ、恩返しができるような人生にしていきたいと思っています。
転向後にリリースしたアルバム2枚とベストアルバム。音楽を聴きながら楽しめるようにとコーヒーブランド【Tallman’s Cafe】を立ち上げ豆の販売も行うなど、音楽を軸に多方面に活動の場を広げている。
撮影時にはギターの生演奏も! その様子は広島CLiP新聞のInstagramを要チェック。「挫折といえる経験も、自分にとっては勉強だった」と語る森本ケンタさん。最近では企業の70周年記念パーティーに出席する機会が続いたそうで、「これは“自分も70周年まで続けろよ”というメッセージなのかなと思っていて。僕の70周年って、90歳なんですよ(笑)。今は90歳まで音楽を頑張っていく気満々です!」と笑顔。経験を糧に、さらなる豊かな表現で紡ぎ出される作品との出合いがこれからも楽しみです。