
寒さを乗り越え、甘みが増す冬の「わけぎ」。広島はわけぎの生産量全国1位で、中でも尾道市・岩子島はその約7割を占める一大産地です。しかし、高齢化により出荷量は減少傾向に。そこで立ち上がったのが『政兵衛(まさべえ)ファーム』。伝統の農法を守りつつ、新たな挑戦として「わけぎ祭」や直営店を展開しています。岩子島、わけぎの魅力を広める取り組みに迫ります!
寒さを乗り越えて甘くなる!岩子島のわけぎ
わけぎは、ネギと玉ねぎ(エシャロット)の交雑種。ネギより辛味が少なく、見た目も太くてしっかりしていて、甘みがあります。

政兵衛ファームでは、ハウス24棟と、2反(約2,000㎡)の露地でわけぎを栽培しています。
わけぎの植え付けは7月〜11月まで休みなく続き、収穫も8月〜4月下旬まで続きます。夏は成長が早く1カ月で収穫できますが、冬はハウス栽培でも2カ月、露地栽培では4カ月かかります。その理由は、冬のわけぎは寒さで一度枯れて、暖かくなるとまた成長を始めるから。冬を乗り越えたわけぎは甘みが増し、さらにおいしいわけぎになるのです。
先人の知恵が生きる農法

岩子島でわけぎ栽培が始まったのは70年以上前。土質が花こう岩で適していることもあり、かつては島の多くの住民がわけぎを栽培していました。そこから考えられたのが「間作」。これは、すでに育った収穫前のわけぎとわけぎの間に、新しい球根を列で植えていくこと。限られた土地を最大限に活用するために、先人から受け継がれた知恵です。

さらに、3年に1度は海の砂を畑に入れて、ミネラルやカルシウムを豊富に含む水はけの良い土壌を維持しています。
岩子島のわけぎ生産者は、来シーズン用の球根を自ら生産します。冬を土の中で耐えたわけぎの球根を5月に掘り出し、そこから2ヶ月間乾燥させます。そして7月にまた植え付けを始めるのです。

また、わけぎは種で増えるネギと違って球根で増えるので、毎シーズンひとつひとつ手で植え付けします。その数は何万粒にも及ぶそう。これが大変な苦労だそうで、平谷さんは「だから岩子島の人は“しんぼうにん”じゃと言われます」と笑っていました。
こうして育ったわけぎは、収穫後、皮剥き専用機「ネギピカ」で洗われながら皮を剥かれ、出荷できる状態になります。



岩子島を盛り上げる!新たな取り組み
近年、岩子島では高齢化が進み、わけぎの出荷量も減少しています。この状況を打開するため、平谷さんは新たな取り組みを始めました。
◇わけぎ祭

その一つが「尾道わけぎ祭」。尾道にある飲食店でわけぎの魅力を引き出した新しいメニューを期間限定で提供します。初開催の2022年は参加店が3軒でしたが毎年拡大し、2025年3月末まで開催中の第6回イベントでは27軒が参加!居酒屋で提供される「わけぎキムチ」から、フランス料理店の「鴨ロースト わけぎのエチュベ みかんとバルサミコのソース」などまで、各店舗の特徴も活かした、バラエティ豊かな料理が楽しめます。
◇「わけぎとトマトのお店 わこちゃん」

さらに昨年7月、政兵衛ファーム直営の「わけぎとトマトのお店 わこちゃん」をオープンさせました。ここでは主にわけぎと、政兵衛ファームが夏に栽培しているトマトを使った料理を提供しています。

たっぷりのわけぎに、かつおぶしと生卵をのせた一品。わけぎは辛味と臭みが少ないので、こんなにかけてもさっぱりしていてご飯が進むおいしさ!コロッケにもわけぎが入っています。
店長さん曰く「わけぎは遠慮なく、どかっと使うほうが美味しい!」とのこと。ちなみにわけぎ丼への「追いわけぎ」は無料!

トマトの炊き込みごはんを使ったオムライス。かかっているトマトソースも政兵衛トマトを使ったもので、柔らかい甘みがあります。

平谷さんは「岩子島のわけぎをもっと知ってもらうために、このお店を拠点として更に発展させていきたい」と話されました。
政兵衛ファームでは、農業を志す人の研修受け入れもしています。取り組みのかいあってか、3年に1人は新規就農者が岩子島に来ます。
今後も精力的な取り組みを続ける『政兵衛ファーム』と、新メニューが続々登場する「わこちゃん」。岩子島のわけぎの新たなおいしさに、ぜひ出合いに行ってみてください!