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konkon 佐々木 恵理子さん|「こんこん」とノックして!障害のある“人の魅力”に出合える扉

雑貨店で出合った障害のある人が作る商品をきっかけに、障害のある“人の魅力”に引き込まれた「konkon」代表 佐々木恵理子さん。佐々木さんは、単に商品の販売や展示だけでなく、障害のある作り手さんとお客様をつなぐ出合いの入り口として「konkon」の活動をしています。そんな佐々木さんに、活動内容や障害者福祉についての思い、「障害」の捉え方なども併せて話を聞きました。

出合いの入り口『konkon』

まず、佐々木さんはどんな活動をしているのですか?

佐々木:障害のある“人の魅力”を伝えたい!という思いから、障害のある人が作る作品や商品を『konkon』として、オンランショップやイベントで販売したり、展示会や講演会の企画、マネジメント業務、その他にも制作現場などを取材してSNSなどで発信しています。

なぜ『konkon』という名前を?

佐々木:広島の障害者福祉の現場で生まれた作品や商品を通して、作り手の皆さんと出会ってほしいので、一人でも多くのお客様に「こんこん」と気軽にノックしてもらえるようにそう名付けました。

konkonはそういった作り手の皆さんとお客様をつなぐ入り口ということですね!

イベント出店では、取り組み内容がわかるような表示も。

『konkon』開業の思いときっかけ

障害のある人が作る作品や商品との出合いについて聞かせてください。

佐々木:そもそも私は全く福祉のバックグラウンドはなくて、一般企業で貿易関係の仕事をした後、夫の転勤で移り住んだ北海道で大学職員をしていました。その頃お気に入りの雑貨店で出合ったのが、障害のある人が通う施設で作られているブローチだったんです。

その商品との出合いから、福祉の世界につながるきっかけは何だったのですか?

佐々木:そのブローチのパッケージ裏に書いてあるアドレスをもとに、誰が作ったのかを調べたら、障害のある人が携わっていることがわかって。すごく可愛くて素敵だったので、ブローチを制作した障害福祉サービス事業所に見学に行かせてもらって、作品や制作している姿を見学させてもらいました。これがきっかけなんです!

すごい行動力ですね!それだけ魅力的だったってことですね!

佐々木:そうなんです。そこで作品を制作している皆さんの姿に心動かされたというのももちろんなんですけど、老人ホームの清掃に行くと500円のお給料をもらえるという話を聞いて、一日働いて500円?!って、一般企業と大学でしか働いた経験がない私は、びっくりしたんですよ。作品や商品はもちろん、障害のある人が働いている環境にも興味を持ちました。

北海道の雑貨店で出合ったブローチ。今でもこんなにきれいに保管されています。

konkonを立ち上げたのは広島に来てからですか?

佐々木:そうですね。最初は、広島に来たのを機に好きなことを仕事にしたいという思いから、障害福祉サービス事業所に就職したんです。そこで約2年間職員として働きました。

ということは、職員の立場を経験したからこその活動もあるのではないですか?

佐々木:職員という立場だったら作品や商品を販売したり伝えたりというのは大切だけど優先順位が低い仕事で、一番大事なのは利用者の皆さんが元気に通所してくれることなんですよね。皆さんの生活や、健康が大前提で、最優先なので。作品や商品の販売は、やりたいけどできない仕事でした。

その、やりたいけどできなかったことを実現させたのがkonkonというわけですね。

佐々木:そうですね。もしも、職員を続けていくのであればもっと福祉の勉強をしないと、と思いましたし…。でも、今まで培ってきたもので障害のある人、彼らを支える現場に貢献できることがあるんじゃないか、って思って始めたのがkonkonですね。

事業所の職員だったころの写真
konkon立ち上げ当初。事業所の利用者さんを取材する佐々木さん。

konkonでは、販売する商品に工夫を施しているんですよね。

佐々木:商品の後ろにQRコードを付けていて、これを読み込むと作り手さんを紹介した記事にアクセスできて、どんな人が作っているか分かるようにしているんです。本当はお客様にも事業所に見学に行っていただけたらいいんですけど、そういう訳にも行かないですもんね。

直接行けなくても、記事を読んで少しでも知ることができるのはいいですね!

佐々木:取り扱う商品は、基本的には取材をしてSNSなどに記事を掲載するんですけど、書いて終わりじゃなくて、買って、記事を読んで、つながることができるような仕組みを作りたいと思っています。

商品の裏に貼られているQRコード。konkonで商品を手にしたら、ぜひ読みこんでみて下さい!

作り手とお客様をつなぐ扉が開く『こんこん通信』

佐々木さんは、イベントなどでいろいろな作り手さん・事業所の紹介や作品・商品を販売したら、必ず作り手さんや事業所にフィードバックされると聞きました。

佐々木:そもそもなぜ私がそれをやっているかというと、作り手さんの中にはお金の価値がわかりづらい方もいます。その方にとっては、「いくらで売れた」というのが喜びじゃない。なので、お金だけではなく皆さんが分かりやすいところで伝えることが大事だと思ったんです。そこで、『こんこん通信』を作って報告することにしました。

こんこん通信。大きめの文字は読みやすく、全ての漢字にふり仮名がふられています。写真もたくさんあって、視覚的にも内容が伝わります!

こんこん通信を見た作り手さんの反応はどうですか?

佐々木:ある時こんこん通信をお渡ししたら、その中に書かれている報告をホワイトボードに書き写してくれた方がいたんです。報告したことをホワイトボードに書き写すくらい心が動いたんだと思うと、商品を売ったり作品を展示したりすることはもちろんだけど、私が本当にやりたかったことは作り手さんとお客様をつないで、彼らに喜びを感じてもらうことだったんだ!と気づくことができました。

販売や展示などは、作り手さんとお客さんをつなぐツールということですね。

佐々木:そうですね。緊急事態宣言期間中はこんこん通信をお渡しできないのでオンラインでつないで、商品を買ってくれたお客様に直接感想を伝えてもらったんです。そしたらみなさんすっごく喜ばれて!私自身、すごくうれしかったですね。

ホワイトボードに書き写している利用者さん。
ホワイトボードに書き写されたもの。

お客様の反応はどうですか?

佐々木:購入された方にメッセージをいただいたり、写真を撮らせていただいたりするんですけど、最初は「え?なんで写真撮るの?」って感じだったんです。当たり前ですよね(笑)。でも今は、商品を持ってポーズをとってくれる人もいて。その姿を見ていると、この取り組みを肯定的に捉えて下さっているんだな、ということがわかってすごくありがたいです。

実は私も商品をいくつか持っていますが、色やデザインはもちろんアイデアも豊かで、確かにこれはファンになりますよね!

佐々木:ありがとうございます。最終的には作り手さんのファンを作りたくてやっているんです。作り手さん宛にお手紙書いてくださるお客様もいて、これはもうファンですよね(笑)。私もうれしいし作り手さんもうれしいだろうけど、職員さんもうれしそうでした。

作り手さんのことばかり考えがちでしたが職員さんのやりがいやモチベーションになるようなことも大事ですね。これまで気づかなかったことがたくさんありますが、今回この記事を通してこういったことも知っていただきたいですね!

編集部スタッフの私物。お気に入りのノートと缶バッジ。そして、ペイントされたターポリンのブックカバーは、なんとしおり付き!アイデアがすごい!

今のお話のように、障害のある人とだけではなくその方たちをサポートしている職員さんや事業所との関係性も大事にされていると思いますが、それにまつわるエピソードはありますか?

佐々木:konkonを始めてからいろいろな福祉サービス事業所に、取材させてください、商品を売らせてください、って訪ねて行きました。突然知らない人が来るので、最初は不審に思って当然ですよね(笑)。だけど、だんだんと関係性を築けてきた中で、先日、障害福祉サービス事業所を運営する「社会福祉法人もみじ福祉会」の季刊誌に載せてもらったんです!

いつもこんこん通信の取材をする立場からの逆転ですね!

佐々木:そうなんですよ!例えば広島CLiP新聞に載せて頂けるということは、「応援したい!」と思ってくださっているってことじゃないですか。それと同じように、もみじ福祉会さんからも認めていただけた部分があるんだな、って。私も応援したいし、事業所側もそう思ってくださっている。そういう関係性ができたんだなって、一番うれしい出来事でした。

佐々木さんが取材を受けたもみじ福祉会の季刊誌「がんばろうや」。

「障害」の捉え方

ところで、「障碍者」「障がい者」「障害者」などいろいろな表現がある中で、konkonのSNSなどでは、「障害のある人」という表現をされています。それはなぜですか?

佐々木:「障害」の原因についての捉え方として、その人の心身機能が原因であるという考え方(障害の個人モデル)と、障害のない人を前提に作られた社会の作りや仕組みに原因があるという考え方(障害の社会モデル)があります。私は、後者の「その人にとって障害がある」という捉え方でいるので、あえて「障害」と漢字を使い「障害のある人」という表現をしています。

なるほど。言われてみると自然なことですが、これまで“障害”はその人の心身機能が原因であるという方の考え方しかしてこなかったように思います。この件に限らずですが多角的な捉え方や視野を広く持つことは大事なことですね。

佐々木:私も気を付けたいと思っていることがあって、アートやものづくりをメインに発信していると、「障害のある方って皆さん一芸に秀でているわね」って言われちゃうんですよ。実際は、一芸に秀でている人もいれば、いない人もいる。‟健常者”とされる人たちと一緒なわけです。そこはしっかり伝えていかなくちゃと思っています。

何か、それがうまく伝わる施策はありますか?

佐々木:まだまだ模索中ですが…たとえば、うつ病になられて休職している方がいらっしゃいますよね。休職後すぐに元の職場に復帰するのはハードルが高いから、その間のワンクッションとして自立訓練という福祉サービスがあるんですけど、今度オンラインショップで扱う商品の写真を、自立訓練をしている方にお願いしようと思っているんです。

それは社会復帰のきっかけとして自信にもつながるしいいですね!

佐々木:「障害」って見た目にはわからないことも実は多いですよね。そういったこともオンラインショップの商品写真を通して知っていただけたらいいな、って思います。

たしかに、身近なことでも気づかないことがあるかも。それに、何かが不自由になったり社会の中で生きづらくなるって、私たちにもいつでも起こりうることですよね。

佐々木:そうなんです。だから、障害のある人とそうでない人の間に隔たりを感じる人もたくさんいるけど、本当はそこに隔たりなんかないんですよね。そういったことも上手く伝えていきたいです。

まずは「知る」ことから

「隔たり」という言葉が出てきましたが、コミュニケーションをとるのに戸惑いや遠慮があったり、コミュニケーションをとる機会がないというのが、隔たりを感じる原因の一つではないかと思ったのですが。

佐々木:配慮が必要な面は多々あると思います。彼らに伝わりやすい方法で伝えるとか、施設がバリアフリーかとか。でも、遠慮はいらないのかなって。同じ人間同士だから、はじめましての時はそれなりの距離感でいて当たり前だと思います。障害のある人だからと遠慮したり、逆にフレンドリーになりすぎるのではなくて、配慮はしつつ普通に“はじめまして”の距離感でお話しして、だんだん関係を築けばいいんじゃないかと思っています。

コミュニケーションの場としてCLiP HIROSHIMAでも毎年「ハートフルフェスティバル」という福祉をテーマにしたイベントを開催しているので、イベントに参加して人や商品と出合い「知る」きっかけにしていただけたらいいな、と思っています。konkonも “きっかけ”“出合い”の扉ですよね!

佐々木:そうなんです。ここからぜひ入ってください、って。人間って本来、魅力的なんだと思うんです。ただ、障害というものが原因でコミュニケーションを遠ざけているとしたら、それは人生損ですよ!って。ぜひ関わってほしいですね。

毎年CLiPで開催されるハートフルフェスティバル。みんなでウィンドウアートを完成させた記念写真。

最後に、佐々木さんは今後どんなことを目指していきますか?

佐々木:すごく大きな話になってしまいますが、最終的には、「障害者」という言葉がなくなる社会に少しでも貢献できたらいいなと思います。あるとき子供さんに「障害者ってなに?」って聞かれたんですけど、「…なんだろうね?」って私もなっちゃって。「障害者」と呼ばれる人と自分が違うなって感じる部分もあれば、何も変わらないじゃんって思う部分もあって。それって「健常者」の人でも同じだよなと思うんですよ。

確かに、いつも自分の近くにいる人でもそうだし、誰とも違うところがあって当たり前ですよね。

佐々木:そうなんです。なので「障害」とか「障害者」という言葉の定義や必要性は、接点を増やしていって、ご自身で感じて、考えて欲しいことですね。そういう意味でも、「こんこん」と気軽に扉をノックしてほしいです。

佐々木さんと編集部スタッフ。

普段自分の周りにはないと思っていることも、少し意識や目線を変えるだけで自分の周りにもあふれていることに気が付く事は多いと思います。「konkon」は出合いの扉であることはもちろん、そんな“気づき”の扉でもあるように思いました。障害のある人たちの事を知るきっかけとして「こんこん」とその扉をノックすると、その先にはきっと魅力的なものがあなたを待っていますよ!

※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

konkon代表

佐々木 恵理子 さん

山梨県出身。会社員、大学職員を経て、2018年に広島での生活を始めたのを機に福祉の世界へ。「障害のある“人の魅力”を伝えたい」という思いから、いろいろなイベントへの参加や自ら企画開催する展覧会、SNSなどで発信を続けている。その他に講演会なども開催し、障害のある人だけでなく、その家族や事業所の職員さんにも寄り添った活動をしている。