2015年にスタートした「広島市シェアサイクル・ぴーすくる」。広島市内中心部でよく見かけるその赤いシェアサイクルは、広島の観光に一役買い、最近では通勤利用も増えています。そんな「ぴーすくる」とともに広島の観光を支えてきた田中真一さんの「広島のおもてなしをしたい」という当初からの思いはブレることはありません。人と関わることが好きな田中さんだからこそできる、おもてなしのスタイルとは?今後の目標もあわせてお話を伺いました。
「外国人と英語で話したい!」という思いで始めた添乗員
田中さんは広島市のご出身で、関西の外国語大学に行かれたんですよね。外国語大学に行かれたのはなぜですか?
田中:高校を卒業して、福岡の経済大学に入ったんですよ。でも自分には合わなくて、一年でやめて関西の外国語大学に入ったんです。もともと英語が好きだったから、英語を話せるようになりたいなっていうのがあって。
そうだったんですか!それだけ英語を学びたいという気持ちがあったんですね。卒業されてからは?
田中:父親が経営していた会社に3年ほど勤めた後、地元の旅行会社に添乗員のアルバイトとして入ったんですよ。
もともと英語に興味があったということは、旅行に携わる選択をするのも自然な流れのような気がしますね。
田中:海外が好きだったし、姉が国際結婚したこともあって「やっぱりいいなー海外」と思って。英語を学んできたから話したいという思いもあったし、自然と添乗員としてスタートしたって感じですね。ただその旅行会社は国内のバスツアーがメインだったので、国内の添乗員をしてたんですよ。
田中:せっかく学んだ英語を仕事に生かしたかったので会社を退職して海外旅行の添乗員として働きました。留学や外国人との交流がなかなかできなかったから、海外旅行の添乗員として働けば英語を話せると思ったんです。
田中:そうなんです。英語力も海外の添乗でめちゃくちゃ鍛えられましたね! 30人40人のお客様のホテルのチェックインを添乗員が代わりに全部するんです。もちろん全部英語で。もたもたしてると全員の視線を感じる気がして(笑)。だから、なんとしてでもしゃべらんと!ていうのがありましたね。
海外旅行の添乗員さんは語学力堪能です、ってことで行っているんですよね?
田中:ヨーロッパでの研修があってそれを終えると海外旅行添乗員の資格をもらえるんですけど、語学力は個々ですごい差があるんです。でも、必要に迫られて大学で学んだ英語を思い出して、だいぶ意思疎通ができるようになりましたね。学生時代やりたかったことができて、やっと外国語大学に行ったことが生かされました。
ぴーすくるを通して関わる広島の観光業
田中さんは現在ツアーズ広島という会社でぴーすくるの事業に携わっていらっしゃいますが、どういう経緯でツアーズ広島に入られたんですか?
田中:海外旅行添乗員は一回行ったら10日間くらい家を空けるんです。その間家族にトラブルがあってもそばにいることができないのでそれはまずいな、と思っていたんです。そんなときに旅行会社の頃に取引していたツアーズ広島の野曽から「ぴーすくるっていうシェアサイクル事業があるんだけど、外国人の方の利用もあるだろうから一緒にやらない?」と言われたのがきっかけですね。ちょうど2015年のぴーすくるがスタートするタイミングでした。
田中:サイクルポートを各所に設置して、最初に届いた150台の自転車は、みんなで乗って何往復もしてサイクルポートに運びに行きました。全て自分たちで作業したのでかなりしんどかったですね。
田中:ありますよ! 2015年ぐらいからインバウンドの需要が伸びてきて、広島は欧米からの観光客が増えたんです。欧米人は自転車が好きだからよく利用してくれるし、2019年のラグビーワールドカップのときにはラグビーの選手も乗ってくれました。「これが電動自転車か~!」とか言ってね(笑)。乗ってるのも目立つから「ぴーすくるってよく外国人乗ってますよね」っていろんな人に言われました。外国人のお客様には随分助けてもらいましたね。
確かに私も、外国人が乗ってるのを見て「乗ってみようかな」と思いました。外国人観光客に利用してもらうのに何か工夫をされたんですか?
田中:当時フリーWi-Fiがあまりなくて登録ができないし決済方法も限られていたから、外国人観光客が現金で買えるパス券を販売したんです。そのパス券をホテルで委託販売してもらったり、広島城に行ってテントを立てて、外国人が来たら「どうぞどうぞ!」って売ったりしましたね。
スタートした2015年から6年くらい経った今、だいぶ利用も増えていますか?
田中:増えてますよ。最初150台でスタートしてサイクルポートは12か所だったけど、今は750台でサイクルポートは110か所あるんです。それに今は市民の方の利用が多いんですよ。観光客の皆さんが多く乗ってくれていたところにコロナが来て、観光客が一気に減ってこれからどうなるのかなと思ってたんだけど。今は3密を回避する移動手段という意識が高まって、市民の方も乗ってくれてるんじゃないかと思います。
広島の日常に触れられる、タナカスタイルのおもてなし
ぴーすくるを通じての出会いもたくさんあったんじゃないですか。特に英語を話せると、直接お話しできる方も増えますよね。
田中:そうですね。ぴーすくるでの観光を終えたお客様と一緒にごはんを食べに行ったりとかね。エキニシに連れて行ってごちそうしたら、「サンキュー!タナカー!」って言って次の日にワイン持ってきてくれて(笑)。たまたまぴーすくるを借りに来た人と今も連絡を取り合ってるし、2年連続で来た人もいますよ。
いろんな人の旅の一部に関わっているんですね。ぴーすくるを利用された人の思い出の一部に田中さんがいて、次もまた田中さんに会いに行こうかな、ってなりそうですね。地域との触れ合いを求めている方も少なからずいらっしゃるでしょうから。
田中:どうしても我々って、いいところを見せようとするじゃないですか。整備されたきれいな観光地とか。でも本当に喜んでもらえるのは、おばちゃんがやってるような地元のお店に行ったり、その地域や人の飾らない素の在り方に触れて交わすことが出来るリアルなコミュニケーションなんですよね。
外国人の旅行って日本人の旅行とは少し違って、その地を感じに来る人が多いと思うんですけど、そういう人たちが田中さんに出会うってすごくうれしいんじゃないかなと思いました。
田中:たしかに、日本に来る外国人は時間もあるので、そういった充実した過ごし方を求めますね。自分が海外に行くときも、歩いて地元の人が行くお店に行ったりするんです。全然日本語通じないけど、逆にそれが面白いし旅って感じがします。旅で大事なのはいかにその地を感じられるかだと思うんです。
昔は日本の方を海外に連れていくという働き方をしていたのに、それが今度は海外の方をおもてなしする方へ視点が変わったというところが面白いですね。
田中:確かにそうですね。海外の添乗をたくさんやって、英語を話す機会に恵まれて、今こうして広島でいろんな方にお会いできて本当にありがたいなと思いますよ。
中四国を思い切り楽しめる旅のプロデュースをしたい!
田中さんはいろんなイベントにも参加されていて、人とのつながりも広いですよね。広島CLiP新聞で取材した「ひろしまきもの遊び」の澤井さんや、「ひろしまジン大学」の平尾さん、「sokoiko!」の石飛さん、「マジックアイランド」の西川さんともお友達なんですよね。
田中:そうなんです。一時期インバウンドが盛り上がってるときによく交流会をしていたんですよ。交流会は人と人が一番近づきやすくて関係性も強く持てるし、お酒の力を借りると気持ちもフラットになって仲良くなれますよね。
観光を通して、広島の街のいろんな方と知り合ってつながって、一緒に盛り上げているのがすごいなって思います。
田中:本当はもっともっと盛り上げたいんですよ。例えば今なら、ホテルや飲食店に行ってもらえるようなきっかけづくりと、実際に行ってもらえる提案をしたいですね。そういうところにうまくぴーすくるをつなげて、コロナで大変なこの状況を打開する施策を打ち出したいんです。コロナでもみなさん試行錯誤してやってるところだしね。
それは観光客だけでなく地元の人も楽しめるのでいいですね。人がもっと自由に移動ができるようになったら、どんなことをしてみたいですか?
田中:そうだなぁ。「日本の西側に行こうぜ!」と思ってもらえるプランを打ち出したいですね。西側っていうのは中四国の事なんですけど、広島だけでなく中四国の範囲でたくさん宿泊をしてもらって、楽しんでもらいたいと思うんです。そのひとつにぴーすくるがあったり、SUPがあったり、きもの体験があったり。地元の皆さんの得意分野を生かして中四国を思い切り楽しんでもらえる、トータル的な旅行のプロデューサーになりたいですね。
田中さんの周りにいる仲間の皆さんが活躍できますね!世界中から田中さんに会いに来て、ここに相談すれば楽しい体験ができる、というわけですね。
田中:そうそう!それが私のやりたいことですね。「人を生かす」というのが面白いと思うから。
「ぴーすくる」というシェアサイクルを通して、広島の観光を盛り上げている仲間や町の人たちと出会ってきた田中さん。広島のみならず中四国全体の観光をもっともっと楽しんでもらうべく、田中さんは「広島の“人”を生かした旅のトータルプロデューサー」を目指します。