
広島・呉市。島々が連なる安芸灘の海で育まれる『安芸灘わかめ』は、流れの速い潮にもまれながらゆっくりと成長することで、肉厚でありながらもやわらかく、噛むほどに磯の香りとうまみが広がるのが特徴です。
このわかめを育てているのは、漁師の沖田和博さんと山本秀明さん。かつては太刀魚を中心とした“獲る漁業”を生業としていましたが、海の変化によって漁獲量が大きく左右されるようになったことをきっかけに、新たな道として“育てる漁業”へと舵を切りました。現在では、わかめの養殖に加え、間引きの工程で発生する廃棄わかめをエサとして活用したウニの養殖にも取り組み、限りある資源を無駄なく生かすかたちで生産を行っています。

漁から養殖へ。試行錯誤の先に見えたもの

沖田さんは、もともと漁を中心に生計を立てていましたが、近年は海の環境変化の影響もあり、魚の漁獲量に波が出るようになってきました。「魚が獲れにくくなってきたな、という実感があった」と振り返ります。そうした変化を受けて、季節によって収入にばらつきが出やすい状況を少しでも緩やかにしていきたいと考え、冬場の取り組みとして始めたのが、わかめの養殖でした。


漁が“その日の結果”に左右される仕事であるのに対し、養殖は日々の管理の積み重ねが数カ月、あるいは数年後の品質に直結する仕事です。手をかけた分だけ応えてくれる一方で、常に海の状態に気を配り続ける必要があるなど、異なる難しさがあります。
その一方で、時間をかけて育てたものが形になっていく実感や、品質を自分たちでつくり上げていけることに、漁とはまた違ったやりがいを感じているといいます。養殖から加工までを一貫して手がけながら、設備づくりや工程の改善も自分たちの手で積み重ねてきました。

『安芸灘わかめ』では、収穫から製品化までのすべての工程を自分たちの手で行っています。収穫したわかめは、「ボイル→冷却→塩漬け→芯取り→塩抜き→脱水→乾燥→袋詰め」という工程を経て製品となります。朝採りのわかめをその日のうちに釜で茹で上げることで、鮮度と香りを閉じ込め、さらに風味を最大限に引き出すための乾燥工程では、気温や湿度を見極めながら丁寧に仕上げています。そのひと手間によって、一般的な湯通し塩蔵わかめでは味わえない、香り高さとしっかりとした歯ごたえが生まれます。

廃棄わかめを有効活用したウニの養殖
『安芸灘わかめ』の年間の生産量は、わかめだけでおよそ30トン(原藻ベース)。その中で、芯や間引きなどの工程で発生する部分は10トン以上にもなり、これまで活用しきれずにいた資源でもありました。このわかめを有効に生かそうと始めたのが、ウニの養殖です。

現在は長崎や福岡から仕入れた赤ウニの種苗を、約2年かけてじっくり育て、年間でおよそ8,000個を出荷しています。さらに近年では、種苗そのものを自分たちで育てる取り組みもスタート。試行錯誤を重ねながら、少しずつ安定した生産に近づけています。

わかめをたっぷり食べて育った赤ウニは、甘みが強く、味にしっかりとした厚みがあるのが特徴です。磯の風味をまとったような奥行きのある味わいは、料理人からの評価も高く、主に市場や飲食店へと届けられています。こうして、わかめとウニが支え合う、無駄のないかたちでの養殖が実現しています。

わかめのおすすめの味わい方
『安芸灘わかめ』の魅力を最もシンプルに味わうなら、採れたてをさっと湯にくぐらせる“しゃぶしゃぶ”がおすすめです。熱湯に入れた瞬間、茶色から鮮やかな緑色へと変わり、同時に立ち上る磯の香りとともに、やわらかさと弾力のバランスの良さを感じることができます。

また、意外な組み合わせとしてぜひ試してほしいのが、豚肉とにんにく、唐辛子を効かせたペペロンチーノ。わかめと豚肉を一緒に炒めてパスタと合わせることで、食感も楽しく、肉のジューシーさと磯の風味、うまみが引き立つ一皿に仕上がります。

さらに、乾燥わかめや乾燥めかぶは手で割って味噌汁やうどんに加えるだけで、手軽にミネラルと風味をプラスできる優れもの。日々の食卓に自然と取り入れられる使いやすさも魅力です。

魚を獲ることを中心としてきた営みから、新たに育てることへと舵を切った『安芸灘わかめ』の取り組み。そこには、海の変化に向き合いながら、今ある環境を生かしていこうとする姿勢があります。手間ひまを惜しまず育てられたわかめとウニには、その積み重ねがそのまま味として表れています。『安芸灘わかめ』の商品は、県内のスーパーを中心に販売中。瀬戸内の海が育てた一品を、ぜひ一度味わってみてください。