
インテリア雑貨や家具、建材など、私たちの生活に身近な自然素材である“木”。木ならではの温もりやサステナブルさから、家の中に愛用している木のアイテムがあるという人も多いのではないでしょうか。
最近では木材や木製品との触れ合いを通して、木への理解を深める「木育(もくいく)」という考え方も広まっていますが、その域を超えてもっと奥深く、幅広い可能性を持っているのが木の世界。
「木そのものの価値と、それに携わる人の価値を高めたい」と、新たに「木学(もくがく)」という考え方のもと人と木との関わりしろを増やす活動を行っている『一場木工所(いちばもっこうしょ)』の一場未帆さんに、取り組みについて尋ねました。
木が持つ力を信じて、家業承継と業態変更
田畑が広がり、その先には緑豊かな山。すぐそばにはJR芸備線が走る、三次市上志和地に本社を構える『一場木工所』。1967年に創業し、住宅部材や神社仏閣部材の製作を行ってきました。

2012年には創業者である父に代わり、娘の未帆さんが二代目に就任。元々は、食品会社に勤務する傍らイラストレーターとしても活動していた未帆さん。家業であるとはいえ異業種からの挑戦、そしてすでに斜陽産業であるという認識もあった中、「手触りや香りなど木が持つ本来の魅力や、トレーサビリティなど環境に配慮した“本物”が求められる時代がこれから必ずくる」と、木の可能性を信じて事業を続けることを決心したといいます。

木育で広く、木学で深く、木のことを伝える
下請けとして木材を加工するところから、木製品を作って木の魅力を提案していく会社へ。地域材を使った自社オリジナルの木製品作りに試行錯誤する中で、反響が大きかったのが木のおもちゃです。
15種類以上の樹種で手のひらサイズに収まるよう整えた木の玉「森のこころん」、木で作られたさまざまな食材やトレー、お皿などがマルシェ型ラックに陳列された「ひなたぼっこマルシェ」など、木という素材を五感で楽しめるおもちゃを開発、製作しています。



木のおもちゃを携えてイベントや展示会等を巡り、多くの人とコミュニケーションをとるうちに、木を実際に触ったことのない人や木の特性について知らない人が思っていた以上に多いことに改めて気付いたという一場さん。おもちゃを通してだけではなく、もっと広い視点から分かりやすい言葉で木のことを伝える木育の必要性を再認識しました。

木と人を繋ぐ場を増やしていく
一場さんが今、特に注力しているのが木学です。
木に関する仕事の代表格は林業。それ以外にも、例えば山に苗木を運ぶドローン操縦、森林空間でのヨガ教室、木製品のデザイナー、木の糸の製造など、木に関わる仕事は多岐にわたります。林業の担い手はもちろん、木に携わるさまざまな仕事を生み出すため、一場さんは各専門分野のプロと協働。今では木と人を繋ぐ場を作り、プロデュースするようになりました。


幼い頃からカンナくずや木材を見ながら育ってきた一場さん。「一つひとつ形も香りも手触りも違って、素材としてもいろんな形に変化する。自分にとってすごく身近でありながら毎回驚くようなデザインを見せてくれる。木そのものの生体デザインが私にとっての木の大きな魅力です」と話します。
林業従事者の減少やさまざまな要因による森林荒廃、最近ではクマ被害など、身近でありながら多くの課題も抱えている山。自分にとっての木との関わりしろは何なのか? 取材後はそんなことを考えながら帰途につきました。木育や木学を通して見えてくる、木の可能性。従来の考え方からもっと柔軟に、一人ひとりが木との関わり方について考えることができそうです。
