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まめな食堂|「介護のいらない暮らし」を目指す大崎下島の地域食堂

広島市内から車で約1時間40分。とびしま海道で結ばれる瀬戸内海に浮かぶ大崎下島は、かつて「黄金の島」と呼ばれた柑橘の産地です。その大崎下島の久比(くび)地区で、新しい地域社会のあり方を提案し、多角的な活動を行なっているのが一般社団法人まめな。
今回は、その『まめな』から生まれた取り組みを2週連続でご紹介します。1週目となる今回は、活動の玄関口となっている「まめな食堂」を取材しました。

「介護のいらない世界」を目指して

まめな食堂を営む更科さんは、東京生まれ東京育ち。母親を3年間在宅介護した経験から、“介護を良くするための活動”を始めました。

一般社団法人まめなの更科安春さん。『まめな』とは「よく動く人」という意味で使われる言葉ですが、もともとは「元気な」「健康な」という意味を持ちます。
なぜ、縁もゆかりもないこの島で、活動を始められたのですか?
更科:8年前、たまたま訪れたこの島で、80代、90代の高齢者が朝早くから軽トラを運転して働く姿を見て、「こういう生活をすれば、元気なまま最期を迎える『ピンシャンころり』に近づける」と感じたことがきっかけです。
介護のあり方を変えるよりも、介護が必要になる人を減らしていこうと。
更科:日本の介護制度は素晴らしい一方で、いずれ破綻すると感じています。根本的な問題は、介護を必要とする人をどう減らすかではなく、どう支えるかばかりに焦点が当たっていることです。身体機能や認知機能が衰えても、隣近所で助け合える相互扶助コミュニティがあれば、「介護のいらない世界」になると確信しています。

2019年3月、更科さんは「一般社団法人まめな」として活動をスタート。まめな食堂は、その活動の玄関口として誕生しました。

元病院だった建物を改修した「まめな食堂」。更科さんの構想に共感した持ち主から土地建物を譲り受け、この場所で活動がスタートしました。

久比地区では、人口の約半数が高齢の一人暮らし。「月に1、2度帰省する家族が冷凍庫に詰めた食材や、お菓子で食事を賄っている方が多かったんです」と更科さん。
今では日常の居場所として、栄養バランスの取れた食事を楽しみに1日30〜40人が食堂を訪れ、その約6割が地域の方々です。

食堂は元病院の面影を残すレトロな空間。昔ながらの木枠の窓から、温かい日差しが差し込みます。
庭先で色づく柑橘の実。静かな集落には、穏やかな時間が流れています。

孤食を防ぐ、島の日常の食卓

ランチタイムには地元の高齢者と島外からの来訪者が入り混じり、和やかな会話が飛び交います。島の方々は「どこから来たの?」と気さくに話しかけ、食堂は新たな出会いが生まれる日常的な交流の場となっています。

メニューは日替わりで、基本お肉料理1品、お魚料理1品から選ぶことができます。どちらも地元で採れた野菜をふんだんに使った、家庭的な味わいです。

ブリの照り焼き
スパイシーチキンカレー
更科:毎日のように地域の方々が新鮮な野菜や、時には釣りたての魚を届けてくれます。大根をたくさんもらえば大根料理、白菜があれば白菜を使った料理に。新鮮な素材を活かしながら、食品ロスを出さないメニューを心がけています。

まめな食堂の第一の目的は、地域の高齢者の健康を食でサポートすること。そのため、地域の方には食券制度で1食500円、地域外からのお客様には800円〜、という価格で定食を提供しています。

食堂から広がる「共助の輪」

まめなの活動は食堂だけではありません。訪問看護ステーション『Nurse & Craft 株式会社』を設立して島での看取りを可能にし、「過疎地を健康不安のないまちへと再生する」という目標のもと、活動の幅を広げています。

更科:おじいちゃんおばあちゃんたちから「島で死ねないのが辛い」という声が多く聞かれたんです。島に医院はありますが、週に限られた曜日しか診察がなく、常時身近に医師がいないため看取りができない。そのため終末期には子どものいる場所や市内の大病院へ移らざるを得なかったんです。
医療従事者の方々は島に移住されてきたのですか?
更科:都市部の病院で働く看護師の多くが、機械的な業務の中で患者一人ひとりと向き合えないことにストレスを感じているんです。そんな方たちが、やりがいを求めて地域医療をやりたいと移住してくるケースも多いです。
食堂とは別棟に設置された訪問看護ステーション。都市部から移住した看護師4人が、地域の高齢者の健康を支えています。

そんな更科さんの元には、インターン生や視察者など、年間を通じて多くの人が訪れます。「ここでやりたいことを見つけたい」と移住を決める若者も多く、現在は5、6人が共同生活を送りながら、それぞれのプロジェクトに取り組んでいます。
まめなは、トップダウン型の組織ではなく、若者が「やりたいこと」を自律的に実践できる場所。地域の方々と交流しながら、新しい挑戦が次々と生まれています。

まめなを拠点に、これまでどんなプロジェクトが生まれましたか?
更科:元馬小屋をリノベーションしたバーや、規格外柑橘を活用するケーキ屋、人材育成プロジェクトやデジタルツール開発など、様々なアイデアが形になっています。ここでは、誰もが失敗を恐れずに挑戦できるんです。
学生が企画した、大崎下島の地域資源を活用したビジネスプランつくり合宿の様子
ホワイトボードには訪れる若者へ向けたメッセージが。ルールをつくらず、それぞれが「自分がどうありたいか」を起点に行動できるコミュニティを目指しています。
取材時は、東京から訪れた高校生と地域の高齢者が和やかに会話を楽しんでいました。
この取り組みは、他の地域にも広がっていくのでしょうか?
更科:いろんな自治体から「うちでもやってください」と声をかけていただくこともあるんですが、私は70歳を超えましたから、自分があちこちに行って活動することは難しい。だから「そちらでやられた方がいいですよ」とお伝えしています。大切なのは、その地域で「やろう」という意志を持つ人材がいるかどうか。人がいれば、どこでも実現できるんです。
まめなでの長期滞在者向けの宿泊棟。四畳半の和室が五部屋並んだ長屋

広島市内から約1時間40分の場所に、温かな人々と新しい暮らしのかたちがありました。まめな食堂での出会いは、高齢化と過疎化という課題に向き合いながら、地域社会の新しい可能性を感じさせてくれます。次の休日、とびしま海道をドライブして訪れてみませんか。

次週は、まめなの活動から誕生した島で唯一のケーキ屋さん『Sunny side-UP(サニーサイドアップ)』をご紹介します。どうぞお楽しみに!

まめな食堂

広島県呉市豊町久比2312

TEL.0823-66-2939

OPEN.11:30 – 13:30(L.O. 13:00)

定休.木曜日

アクセス
安芸灘大橋入口(安芸灘とびしま海道)から車で30分