
老若男女に愛される食卓の定番「海苔(のり)」。身近な食材ですが、その作り方は意外と知られていないのではないでしょうか。福山市内海町の田島は県内有数の海苔の産地で、「田島海苔」は特産品としても有名です。そんな田島で60年間海苔作りを続ける、『マルコ水産』の工場に潜入してきました。

『マルコ水産』は自社で海苔の生産から加工までを一貫して行っています。3代目海苔師の兼田寿敏さんに工場をご案内いただきながら、海苔作りのこだわりを教えてもらいました。
日光と温度がカギ!海苔作りは科学
海苔作りはまず、胞子という海苔の種になるものを養殖用の網に定着させる「胞子(タネ)付け」から始まります。タネがついた網は一旦冷凍し、海水温が23度以下になったら「育苗」に移ります。この工程は養殖網を沖に出し、およそ20日間かけて海につけたり、干したり、洗浄したりを繰り返すことで、海苔が成長する環境を人の手で整えて、海苔の苗を育てる作業です。
この「育苗」の成果によって、出来上がる海苔の良し悪しが左右されるといっても過言ではありません。海苔が成長するメカニズムを理解し、顕微鏡で状態を確かめながら、天候も考慮して網の操作を判断しています。海苔師の経験と腕が求められる作業です。

「育苗」が完了した網は海から回収し、冷凍保存します。11月下旬頃、海水温度が18度を切ったら養殖網を再び海に張り、本格的な育成がスタートします。『マルコ水産』では、鞆や田島沖に加えて愛媛県の高井神島や魚島沖にも養殖場を構えています。12月中旬になって海苔が20~30cm程に成長したらいよいよ収穫。
毎年2月末から3月上旬頃までが海苔の収穫シーズンです。

乾海苔の製造工場に潜入!
取材で訪れた1月はまさに海苔の収穫もピークを迎える時期。『マルコ水産』は24時間体制で工場が稼働しており、1日約19万枚の乾海苔を製造しています。

収穫した海苔は専用のポンプを使って、船から陸上の保管水槽に送られます。まず海苔を洗浄し異物を除去したのち、細かく裁断します。裁断した海苔を成形し、熱で乾燥させることで、私たちが普段目にするような乾海苔が完成します。


海苔を成形するにあたって、大切なのは”濃度”。収穫した海苔は日によって状態が異なるので、厚さが均一な乾海苔を作るには海苔を漉(す)く濃度を調整する必要があります。『マルコ水産』では出来上がる乾海苔が1枚3.2g~3.5gになるように、漉く前の海苔と水の割合を光の透過具合で判断して、設定しています。

最後に、四角く成形した海苔はボイラーを使った乾燥機で乾燥させます。美しく光る焼き海苔にするためには、一度も湿り戻ることなく完璧に乾燥させなければなりません。 ここでも海苔の状態や天候を考えながら、微調整を重ねて換気をコントロールしています。


食べ物の成り立ちに目を向けて
こうして完成した『マルコ水産』の海苔は、海苔本来の風味がしっかりと感じられ、つい手が伸びてしまうおいしさ。
兼田さんも「まずは1枚そのまま食べてみてください。そして手巻き寿司は海苔が変わると格段に味も変わるのでおすすめです。脇役じゃない、本物の海苔のおいしさを知ってほしいです」と話します。

しかし近年では、地球温暖化に伴う環境の変化により海苔生産の課題も増えてきている、と兼田さん。特に餌場を失ったチヌの食害に悩まされており、チヌを追い払うため一日中養殖場の上で船を走らせることもあると言います。

『マルコ水産』の海苔は、生産者さんが丹精を込めて生み出す食材の価値を再認識させてくれます。すべての工程に手間をかけた焼き海苔や佃煮は、お土産やギフトとしてもおすすめです。ぜひ本物の海苔の味わいを感じてみてくださいね。
