「カルムディモンシュ」とは、フランス語で「穏やかな日曜日」という意味。日曜の早朝、車好きの大人たちが、ヒストリックカーやネオクラシックカーに乗って集まります。今回はこのイベントの主催者である瀬戸良さんを訪ねました。瀬戸さんもあることがきっかけでネオクラシックカーが大好きになったそうで…。
ゆっくり走って、四季を感じる
瀬戸さんが車に興味を持たれたのはいつぐらいですか?
瀬戸:小学2年生のときかなあ。引っ越しがきっかけで通学する友達が変わり、それまではウルトラマンとかヒーロー戦隊に夢中だったんですよ。同級生の子が、車とすれ違うたびに「あっ、今のはファミリアだ」「コスモかっこいいね」なんて言うのを聞いて、みんな詳しいなあと。それから車の名前を覚えるようになりました。
瀬戸:スーパーカーブームっていうのがあったんですよ。フェラーリとかランボルギーニとかね。僕はすごくのめり込んだわけではなく、みんなが騒いでるから、ちょっと車の名前を覚えてみるか、ぐらいの軽い感じでした。
ちなみに瀬戸さんはこれまでどんな車に乗っていたんですか?
瀬戸:軽自動車なら維持費もかからないという理由で、最初はダイハツのミラ。その頃は車より音楽にのめり込んでいたんですよ。我が家の近くの畑賀峠を走りだしてから運転が楽しくなって、もっと上手になりたいと思うようになりました。それからモータースポーツにはまりましたね。
クラシックカーより先にモータースポーツだったんですね。
瀬戸:未舗装路でスピードを競うダートトライアルは車の負担も大きいので、アスファルトで競うジムカーナを始めました。ジムカーナJAF戦にB310サニー(Dクラス)でエントリーもしていたんですよ。
瀬戸:モータースポーツを一緒にやっていた先輩がモータースポーツをやめて、数年ぶりに再会したときにフォルクスワーゲンのビートルに乗っていたんです。ビートルは速く走るイメージがなくて、心の中で、なんでこんなのに乗ってるんだろうなと思ってたんですよ。
確かに、モータースポーツのイメージではないですよね。
瀬戸:何かの用事でそのビートルに乗せてもらう機会があったんです。乗ってびっくりですよ! 一般的な国産車のペダルは吊り下げ式になっているのですが、このクルマは床にペダルが設置されているオルガン式だったんです。最初はすごく乗りにくかったですね。
瀬戸:そうですね。パワーはないけど車が軽くてキビキビ走るし、見た目はゆるいけどハンドリングもいいしと、用事を済ませて帰ってくる頃には不思議とだんだん気に入ってきたんですよね。今まで速く走るのが楽しかったのに、ゆっくり走るのってなんだか楽しいなあと。車が古いので、こっちが無理なお願いをすると応えてくれない。車に合わせて運転しないと動いてくれないという不自由さが新鮮でした。
それがきっかけでビートルに乗られるようになったんですね。
瀬戸:乗ってみると全然快適じゃないんですよ(笑)。夏の暑い日に汗をダラダラ流しながら走ってました。でもね、ちょうど運転席側に小さな三角窓があって、風を入れることができるんです。「あっ、自分のための扇風機がここにある!」と。角度を調整して、風量を加減できるんです。スピードが速くなると、閉まっちゃうんですけどね(笑)。
瀬戸:不自由を楽しむっていう感じですかね。あと、車の中にいながら四季を感じることができるんです。夏だと橋の上が涼しいとか、山影に入ると気持ちがいいとかね。
瀬戸:夏の暑い日にどうしても乗りたくて、三角窓を全開にして乗っていたんですよ。山のほうなら涼しいから大丈夫かなと思って。しばらくすると頭がボーッとしてだんだん意識が遠のいていったんで、これはヤバイと思って自動販売機で冷たい飲み物を買ったりして、なんとか帰れました。車から降りたら背中からズボンまで汗でびっしょりになっていましたよ(笑)。
車に乗るのも命がけですね…(笑)。他にも乗っていた車はありますか?
瀬戸:あとは、現在所有している1980年式のポルシェですね。これもハンドルが重いし、エアコンがなくて、音もデカイ(笑)。ヒーターはついていたけど、温度を調整するところが壊れてて熱風が出っぱなしで…。夏に譲ってもらったこともあり、余裕もなかったのでまあいいかと外しちゃったんです。寒い日は膝に毛布をかけて乗っています。
瀬戸:アクセルを踏んだら踏んだだけ応えてくれて、ブレーキを踏んだら踏んだだけ効いてくれて、ハンドルをきったらきっただけ曲がってくれるんです。ただ、パワステがないので重たいですが…。ポルシェってスポーツカーで速く走るだけの車に見えますが、実はビートルにとてもよく似た乗り味で、ゆっくり走っても楽しいんですよ。
車好きが集まるゆる~い集い
瀬戸:最初は「キマグレミーティング」という名前で8年前に立ち上げました。『W・ザ・ブライズスイート』という結婚式場が宇品にあって、その駐車場を使って何かイベントができないかという話をいただいたのがきっかけです。
瀬戸:そうなんです。新しい車でも古い車でも、大人の車好きな人が集まろうと。でもインターネットの力もあってどんどん口コミで広がって、250台ぐらい集まるようになったんです。それと同時に違法改造車も増えてきちゃって、少しイベント内容を考え直そうと。それが2017年頃かな。
瀬戸:外観を大きく変えていない、オリジナルに近いヒストリックカーやノスタルジックカー、ネオクラシックカー、趣味性の高い希少車に限定させてもらいました。ネオクラシックカーはクラシックカーよりも新しくて、1980年代~90年代に製造された自動車の呼び方です。
それよりももっと新しい、例えば最近の車に乗っている方は参加できますか?
瀬戸:もちろん見学で来られる方や古い車に興味があるよという方も参加できますよ! ただ最近の車で来られる方は、限られた駐車スペースなので古い車のオーナーさんを優先させてもらってますので、来場の時間を30分ずらして来ていただくようにしてもらっています。
瀬戸:最初はきっちりドレスコードを設定していたのですが、今はジャージや短パン、サンダルとかでなければOKにしています。
瀬戸:40代、50代のおじさんが多いけど、ファミリーで来られる方もたくさんいるんですよ。アットホームな雰囲気で、女性も気軽に楽しめると思います。
瀬戸:店舗さんのオープン前の駐車場をお借りしているので営業の邪魔にならない早朝ということと、日曜日の朝は交通量が少ないので車を運転するのに最高なんですよ! 街なかでもこんなに気持ちよく走れるのかと。ミーティングに来る道中も運転を最大限に楽しんでもらえると思い、この日時にしています。ただ日曜日の早朝って皆さんお仕事が休みで家でゆっくりしている時間帯なので、騒音に注意して交通マナーを守って来てくださることが条件になりますけどね。
イベントを主催してやりがいを感じるのはどんなときですか?
瀬戸:いろいろな車のオーナーさんと知り合えることですね。道路ですれ違うとき、変わった車が来てるなと思ったら、知り合いだったりします。ゆるい感じのネットワークができていくのがうれしいんですよね。
瀬戸:希少な車が見られるだけでなく、オーナーさんとの触れ合いが楽しい! 冬の朝7時、寒いのに幌をあけてきてくれるオーナーさんもいるんですよ。真似はしたくないけど(笑)、かっこいいなぁって思います。車の乗り味などオーナーさんに直接話が聞けるのも醍醐味。雑誌だけでは絶対分からないですよ。何よりいい歳したオジサンが子どものように目をキラキラ輝かせて、当時のこととか聞かせてくださるのを見るのが好きですね。
車の細かい部分まで見られたり教えてもらえるのもイベントの良さですね。
瀬戸:例えばですけど、ボンネットを開けたら地面が見える車もあるんですよ。今はカバーがあって見えないでしょ。そういうところを見るのも楽しい。一つの部品をつくるために、昔はかなり工夫していたんだなというのも分かります。ライトも丸いのが多いんだけど、あれは可愛いから丸くしてるんじゃなくて、当時丸いのしかなかったんですよね。
お話を聞いていると、瀬戸さん自身もかなりの車好きだっていうことが伝わってきます(笑)。
大人気! 水彩イラストの「しゃえ」
瀬戸さんは本職がイラストレーターでいらっしゃるんですよね?
瀬戸:そうです。実は僕、前職は会社員で3DCADを使って、車のドアの金型の表面形状をつくる仕事をしていたんですよ。
瀬戸:水彩画は結婚したときに始めました。結婚前は趣味にかなりお金を使っていたのですが、結婚後はお小遣いが減りますよね(笑)。お金のかからない趣味はないかなぁと、スケッチブックを持って出かけて風景画を描いてみようと思ったのが最初です。でもね、線はそこそこ描けるけど、色を塗るのが苦手だったんですよ。
瀬戸:ある日、風景画を描こうと河川敷に行ったとき、ショベルカーがとまっていたんです。キャタピラのガッシリした感じを描き始めたら、すごく面白くて。なんかいい感じに描けてね。どんどん一人で盛り上がって、風景より車の方が好きだと改めて気がついて、家に帰ってすぐに雑誌を広げて車の絵を描きました。その絵を車のことや運転を教えてもらった先輩のところに持っていったら「いいじゃないか!」と言われてね。
その経験から、イラストレーターになろうと会社を辞められたんですか?
瀬戸:最初は会社員をしながら絵を描いていました。ずっと技術屋だったので、人に喜んでもらうことがあまりなかったんですね。自分が描いた絵をオーナーさんに渡したらすごく喜んでもらえる。人に喜んでもらえるのがこんなにうれしいんだなと思っていた頃、東日本大震災がありました。明日の保証なんてないんだなと痛感して、それなら好きなことをしようと2012年に退職しました。
色やアングルにとてもこだわっていらっしゃいますね。
瀬戸:絵を描くときは写真ではなく、実際に確認に行きます。写真で見る色と、実際の色は違うんですよね。また、車に関する思い出話を聞かせていただくことで、そこに思いをはせながら仕上げています。
瀬戸:ありがたいことに、今オーダーいただいても2年ぐらい待ってもらっています。大人気と言うより手が遅くてすぐ仕上がらないので待っていただいている感じです。オーナーさんの愛が感じられる車であれば、どんな車でも描かせていただいてます。ただ昔の車は放つオーラが素敵で、自然と絵になるんですよ。
取材後、編集部もカルムディモンシュへ!
実際に編集部スタッフもカルムディモンシュに来てみました! 瀬戸さん、案内してもらっても良いですか?
ワーゲンのような可愛らしい車からスポーツカーみたいなかっこいい車まで、目移りするくらいある…!
瀬戸:だいたいいつも150台ぐらい集まるんですよ。今日はちょっと少ないかな。
あっ、もしかしてあれは! デロリアンじゃないですか!?
瀬戸:そうそう。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズでエメット・ブラウン博士が主人公マーティー・マクフライとともに時空を超えて乗っていた、劇中に登場した車と同モデルのものです。
すごい! 伝説のデロリアンが目の前にあるなんて夢のようです!
車のオーナーさん:これは電気で動くようにしているんですけど、電気で動くデロリアンは多分国内でこれ一台だと思いますよ。
瀬戸:続いてこちらはフェアレディZですね。432Rといって日産が競技用に販売したクルマで軽量化したボディにレーシングエンジンをディチューン(街乗りしやすいように変更)したものを搭載しています。オーナーさんは30年ぐらい手をかけながら所有されているんですよ。
瀬戸:海外の車の方が揃っているんですよ。国産の方が意外と大変で、国産旧車のオーナーさんには頭が下がります。
あ、瀬戸さん! こちらもしかして、シングルナンバーじゃないですか…!
瀬戸:そうそう、一桁の数字は珍しいでしょう。なかなか見られないと思いますよ。
瀬戸:これはホンダのS600。1964年に登場したスポーツカーですね。オーナーさんは20年ぐらい前にこの車を手に入れて、塗装以外はほぼすべての場所に手を入れられているそうですよ。
あっ、このトヨタのカローラは先日取材のときに話題になった三角窓がありますね。
瀬戸:この窓がいいんですよ(笑)! オーナーさんは「キマグレミーティング」と呼ばれていた頃から来てくださっているんですよ。しかも島根から。ありがたいです。
こうして見ているだけでも楽しいですね。時間があっという間に過ぎちゃいます。
瀬戸:車のことは何も分からないという方も気軽な気持ちで楽しめると思いますし、女性の方も大歓迎です!
車好きの方にとっても、オーナーさんにたっぷり話を聞けるので貴重な機会になりますね。
瀬戸:オーナーさんはみんな優しいので、質問したらたくさん答えてくださいます。輸入車に見えるけど実は古い国産車だったとか、意外にコンパクトなサイズ感だなとか、いろいろな発見があると思うので、車っていいな、面白いなって思ってもらえるとうれしいですね。
ネオクラシックカー好きが高じて、イベント開催だけでなく車のイラストレーターの仕事も始めた瀬戸さん。大好きなものに囲まれて、優しく穏やかに話してくれる姿が本当に印象的でした。「カルムディモンシュ」は2カ月に一度の開催なので、旧車好きの皆さん、ぜひ一緒に楽しみましょう!