広島市中区土橋町に店を構える『SHAMROCK』オーナーの原田美貴さん。花を贈る人の気持ちと贈られた人の気持ちを大切に思い、お客様と一緒に花をつくりあげていくことを大事に考えている原田さんに花への思いを尋ねました。
気持ちを救ってくれた花の姿
大学を卒業して就職ではなく、花屋でアルバイトされたとのことですが?
原田:実は、知人の会社に誘われていて就職先は決まっていたんです。ですが母が病気になってしまい、当時母が経営していた飲食店を少しの間手伝っていました。あるとき、母から「もう大丈夫よ、あなたの好きなことをやって」と言われて「好きなことって何かな」と考えたんです。
原田:そうなんです。花とは関係のない自動車の販売でした。その道に進むつもりだったんですが、母の病気が考えるきっかけとなって。何がやりたいのかと考えていたとき、偶然歩いていて見つけた花屋のアルバイト募集のチラシを見て面白そうだなと思い連絡したんです。
原田:最初は花を見ていただけだったんですが、だんだんと観察するようになっていきました。花びらの配列やおしべめしべのこと、種ができるまでなど、深く観察していくうちに花が「格好いいな」と思ってきたんですよ。
原田:花は誰かに認めてもらうためにこういうデザインになったわけではなく、自分たちが生きていくために必要な姿形になったと考えてみたら、「かわいい」より「格好いい」と思いはじめたんです。当時、いろいろ悩んでいる時期だったので、それを見て自分も救われた気持ちになりました。
原田:気持ちの変化とともにもっと花にはまって、アルバイトだったのですが花の仕入れやディスプレーをすることにも楽しみを見いだしたんです。お客様から「資格は持っているの?」と声を掛けられ、持っていない自分に自信をつける為にNFD(日本フラワーデザイナーズ協会)のスクールへ通ったり、草月流の生け花を習ったり。そこで良い出会いもあり、もっと花の業界にはまりましたね。
生花を飾る空間を与えてもらえることが喜び
東京でも働かれていたとお聞きしたのですが、なぜ、東京に行こうと思われたのですか?
原田:アルバイト時代に別の花屋さんでお店を閉めるところがあって、「お店をやりませんか」と声をかけてくれたんです。ですがそのときはまだ自分に自信がなかったので、自分のレベルがどれぐらいなのかを知りたくて1年間東京に行きたいと母に相談したんです。
原田:私が悩んでいたのを知っていたのか、ある日食事が終わって席から離れるときに母が「好きにしてもいいよ、自分のせいで何かを止めるのはつらいから」と言ってくれたんです。周りからは大反対されたのですが、母が迷っていた私の背中を押してくれたんです。その一言があって東京に行くことを決意しました。
原田:不安は無く好奇心の方が強かったですね。花屋特集の雑誌をよく見ていて、東京の花屋を見に行っていましたから。若さもあって不安は一切なく、早く働く場所を決めたいという思いが強かったですね。
原田:広島と比べると仕事量が違いすぎて毎日必死でした。家に帰っても6時間後には出勤をする生活の繰り返しでしたね。古いアパートに当時住んでいたんですが、家賃が高くて給料の約半分は家賃でした。
それだけ花に集中していたんですね。お仕事で楽しかったことはありましたか?
原田:楽しめたのは、レセプションパーティーですね。デザイナーや主催者の方とパーティーのイメージなど打ち合わせをして、それをデザインして装飾をするんです。私は生花を飾る空間を与えてもらえることが喜びなんですよ。パーティーがある会場は装花場所が広いので、全体をどう飾るのかゼロからデザイナーと話し合って決めていく面白さがありますよね。ただ花を並べるのではなく、その場の雰囲気や器にあった花を生けたり、装飾をしていく意識はそこからついたのではないかと思いますね。
お客様の思いを一緒に形にする
東京でいろいろと経験され29歳で広島に帰ってSHAMROCKをオープンされましたが、お客様への接客で大切にしていることはありますか?
原田:お客様は気持ちを伝えたくて花を贈られるので、贈る方の気持ちが伝わって貰った方が喜んでくれることが大事だと思うんです。なので、つくり置きをせずお客様と一緒にその方を思い、花をつくりあげることを大切にしています。だから贈る用途や相手の年齢、性格などもお客様にいろいろ質問をするんです。写真を持って来られる方もいたり、怒られたこともあるんですよ。
原田:興味本位で聞いていると思われて「なんでそんなに聞くんだ」と怒られたんです(笑)。興味本位ではなくて貰った方にも喜んでもらいたいので、花を貰う方がやさしい色が似合う方なのか、はっきりとした色味がお好きなのかなどを聞いて一緒につくっていくことをお伝えしたところ、理解をしていただけたんです。
理解していただけて良かったですね。原田さんは贈る人と贈られる人、両方の思いを花に込めたいということですね?
原田:そうなんです。お客様とその方を思って一緒につくっていくことで気持ちがより伝わると思うんです。贈る方の気持ちを無駄にしない、その場面を台無しにしない、喜ばれるものをつくるというのは使命のような気がしますね。つくり置きをしていないのは、「これで良い」ということにしたくないんですよ。
気持ちを伝えるため、お客様と一緒につくることにこだわっているんですね。
原田:もちろん、花は綺麗で素敵なので喜んでもらえると思うのですが、結婚記念日や誕生日で“お花を贈る”というのは人間ならではですよね。贈る事は素敵なのでその思いをどう表現して伝えていくか、というところに真摯に取り組んでいきたいですね。
そうなんですね。つくり置きがあれば多く売れて良いのではないですか?
原田:つくり置きが多く売れれば売り上げはもっと伸びますが、そうではなく時間をかけて一緒に選んだこと、選びながら花の話をすることで、持ち帰ったとき花を贈る人と贈られる人の間に1つの会話が生まれるんですよね。花を売っているんだけど、人と人との会話の時間も大切にしたいんです。
私は花を買うことに勇気がいるタイプなのですが、男性のお客様も来られるんですか?
原田:男性のお客様も多くなってきていますね。彼女の成人式に花束をプレゼントする男性や、フラワーバレンタインで2月14日に花束を贈る男性もいらっしゃるんですよ。私は「男性が女性に花を贈れば世界は平和になる」って信じているんです(笑)。だからSHAMROCKは男性の方にも入りやすいお店にしたいと思っています。
花を買われる男性の方も多いんですね。いろいろなデザインの花束やアレンジメントをされていますが、発想力などを養うために何かされているのですか?
原田:意識して「絶対これを」というのはないんですが、植物の本や雑誌、ファッション誌も見ていますね。映画も時代関係なく観てニュアンスや雰囲気などをなるべく感じるようにしています。花があると日々の生活が彩られ心の救いになる瞬間があるから、見た目のデザインが良いだけでなく、そこにちゃんと理由があるものにしていきたいんですよ。お客様の家ですぐ花がしおれないようにということも考えながら挿していますね。
お店でつくったときの見栄えだけでなく、飾る所まで考えているんですね。
原田:移動とかも考えて挿していかないと、自己満足になってしまうんですよ。展示会ではその場を華やかにするため、開花状況などを考えて美しく彩ることを重視しているんです。ですが贈り物の花は長く楽しんでもらいたいので、デザインだけではなく日持ちも重視してつくるんです。アーティストというよりは花屋としてつくるので、お客様に1日でダメになったと残念に思ってほしくないんです。
“人が人に花を贈る”その素晴らしさを伝えていきたい
今まで花に携わってきた原田さんが思う花の魅力って何ですか?
原田:それが、今でも「これが絶対!」という答えが私もわかっていないんですよね。だから今もこうやって答えを探しているのかもしれないですね。花が1輪あるとその空間はパっと華やいで、初めて会った人なのに「これかわいいですね」と会話が弾んだりする存在なんですよ。私もまだ探している途中なんです(笑)。
魅力はその都度、見え方や感じ方で変わるからですかね?
原田:そうですね。その都度変わるから、花に魅了されているのかもしれないですね。お客様にも「花に片思い中だからずっと仕事を続けていられるんじゃないの」って言われています(笑)。
これまでこだわりを持って営業されてきた中で苦労されたことは何ですか?
原田:SHAMROCKをオープンしたときと、こだわりをもった仕入れや販売を理解してもらうまでの道のりが苦労しましたね。最初は流川にオープンしたのですが、繁華街なのでお客様はつくり置きの花束を買って飲食店に渡すことが多いんです。でもここではつくり置きをしていないし、絶対にある花もないのでお客様から「買い方が分からない」と言われたんですよ。
それは悲しいですね。絶対にある花がないというのはどうしてなのですか?
原田:バラやカスミソウがあれば多く売れるんです。でも、市場に行っても自分の中でもっと質の良い花がほしいと思ったときは仕入れないので、バラやカスミソウが店に置いていないときも結構あったんですよ。
原田:よく好まれる色彩で安価な花だけではなく、花屋さんではあまり置いていない一般的にあまり知られていない珍しい花も仕入れていたので、市場の方から「こんな玄人好みの花屋じゃ続かないよ」と言われて、理解してもらうまで苦労しました。でも貫きたくて必死で続けて今に至るかな。長めの苦労でしたね(笑)。
お客様と一緒につくるからこそ珍しい花のこともいろいろ話ができて、お客様に沿った形をつくれますね。
原田:そうですね。なんでもいいからと買われるのは嫌なんですよ。「これでいい」というのは誰に対しても失礼ですよね。でも花を買う行為は素敵だから買う行為自体を素敵にしていきたいんです。「花を売っているだけ」ではなく、そのほうが自分もやりがいがあるんです。思いが強いので、頑固さが逆に苦労したところかもしれないですね(笑)。
こだわるって素晴らしいですよ。長い苦労をされてきたなかで、うれしかったことって何ですか?
原田:いろいろありますけど、お父さんと一緒に花を買いにきてくれていた当時小学生の男の子が、高校生になって「同級生が引越しをするから花束をつくってほしい」と来たんですよ。とても感動しましたね。渡す相手は男友達ですよ。
原田:格好いいですよね!大切な親友の旅立ちに向けて男の子だったら他の物もある中で、花を贈るって。小学生だった子が友達の為に花を贈るようになったんだって、15年も長く続けてきたからこそ感じましたね。ここ最近で1番の感動でしたね。
感動しますね。私には贈る物の中に花の発想はありませんでした。
原田:物を贈るのも気持ちとして素敵ですが、人が人に花を贈る行為はなくしたくないですね。でも不思議なんですよ。何故、人は花を贈るのか。思いを花に託している人の姿に感動するし美しい行為だなと思うのでもっと増えたら良いなと思いますね。
お客様と一緒につくることを大切にされている原田さんが従業員の方へ教えていることや伝えていることは何ですか?
原田:1番は花屋なのでお客様が持ち帰って長く楽しんでいただけるコツですね。悲しい思いは絶対してほしくなくいので、自分が大好きな花のことを思ってお客様にも花を愛してほしいと思えば全ては分かるはずなので、それに向けての細かいことはたくさん伝えていますね。
原田:私にとって花は『救世主』ですね。若い頃、格好つけたり他の人と比べたりすることがあったけど、生きているだけで格好いいということに気づき救われました。花に恩を感じていますし、もっと魅力を伝えていかないといけないという思いがありますね。
若い頃花に助けられたからずっと携わっているんですね。
原田:そうですね。花で自分と同じように救われる人が1人でも増えたら、自分も生きている価値があるのかなと思います。もし自分を救ってくれたのがケーキだったらケーキ屋さんだったかもしれないですね(笑)。
原田:スタッフが育ってくれたらお店を任せて海外に花などを買い付けに行きたいですね。もし行った先で働けるのであれば、もう1回修行もしたいです(笑)。現地でしか見ることができない物を見たり、感じられない雰囲気を感じたりとか、花器や花のデザインなど流行のスピード感も違うので現地で見て広島に持って帰りたいです。これまでの基本を大切に守りながら海外の流行も取り入れてお客様に提案しながら一緒に花をつくっていきたいですね。
若い頃、花の咲く姿を見て心が救われた原田さん。以来、花の魅力を色々な形で表現し伝え続けています。人が人に花を贈ることが素敵だと思うからこそ「気持ち」を大切にし、お客様と一緒に花束やアレンジメントをつくることにこだわり続けているのだと感じました。これからも変わらず、もっと多くの方へ花の魅力と気持ちを届けるお手伝いをしていきます。