
『Spice 5109』を手掛けるのは、商業施設やオフィス全般のデザイン設計で全国を飛び回る、空間建築デザイナーの柿木信仁(かきぎのぶひと)さん。インドへ一人旅をした経験や、出張先でのカレー食べ歩きを通して、「スパイス文化」に惚れ込んだそうです。無類のカレーラヴァーが自らデザインした店舗で展開する「一皿」には、デザイナーならではの視点と思いが詰まっていました。
デザイン×スパイスの融合が生み出す相乗効果
「出張先では必ず、カレー屋さんを見つけては食べ歩いていました。そんな中でもスパイスカレーのおいしさに感動して。でも当時はまだ広島にスパイスカレーが浸透していなかったんです。スパイスは体にも良いので毎日食べたい。そこでお店を作ろうと決めました」と話す柿木さん。祖父が戦後から長らく営んでいた飲食店の後を継ぎ2018年に『51(コイ)カリー』(西区己斐本町)、そして2023年に系列店『Spice 5109』をオープン。出張時以外には51カリー夜営業の厨房に立ち、カレーの仕込みを行っています。



空間のデザインも、一皿の食事のデザインも、その根底にあるのは「消費者の満足を追求するクリエイティブな仕事」という共通の哲学。そう語る柿木さんは、食を一つの「トータル環境デザイン」と捉えています。
落ち着いた心地良い空間づくりから始まり、店内に流れるBGM、さらにはカレーを提供する器やスプーン、使う食材、美しい盛り付けまで…。一皿のカレーを届けるためのいくつもの工程をロジカルにデザインし、ここにしかない唯一無二のカレーをプロデュースしています。
計算し尽くされた「美」と「引き算」が織りなすスパイスカレー
テーブルに運ばれてきた瞬間から繊細な美しさで視覚を楽しませてくれる『Spice 5109』のカレー。メニューは、定番のチキンキーマカレーをはじめ、アサリと広島県産牡蠣のカレー、マトンのニハリカレーの3種をラインナップ。すべてにダルカレー(レンズ豆のカレー)と副菜が付きます。

取材時にオーダーしたのは3種の中から選ぶ「2種あいがけカレー」。アサリと広島県産牡蠣(右)のカレーとマトンのニハリカレー(左)をチョイス!
アサリと広島県産牡蠣のカレーは、貝の旨味と磯の香りがフワッと口いっぱいに広がり、主張しすぎないマイルドな辛さが特徴。また、インドの郷土煮込み料理でおなじみ、マトンのニハリカレーは、香味野菜とともにじっくり煮込まれ、ホロホロにほどけるマトンが絶品です。あしらわれたナッツの食感と香ばしさもアクセントになっています。

『Spice 5109』が提供するカレーは、インドの伝統的なスパイスと日本の出汁文化の融合。そして何十種類ものスパイスを複雑に使うのではなく、あえて必要最低限の種類に絞り込み、素材の旨味を最大限に引き出すシンプルな引き算のスタイル。スパイスはすべて、素材に合わせて調合したオリジナルです。五感を刺激するスパイスの存在は、鮮烈で繊細な香りが鼻からスッと抜けていく…。この瞬間には思わず声が漏れてしまうほど。

人生の転機から学んだ、心と体を整えるスパイスの力
『Spice 5109』という店名の由来は、食の土台を支えるコンロの「五徳(ごとく)」からきています。食と健康の結びつきを人一倍感じ、大切に思う柿木さんは、壮絶な時間を過ごした人生の転機から学んだことをカレーという一皿に込めています。

「食で人を良くする」という強い思いは新たなフェーズへ。スパイス料理の魅力をより身近に届けるため、そうざい製造業の営業許可を取得し、広島県産牡蠣のオイル漬け「牡蠣とスパイス」を商品化しました。広島の豊かな海の恵みである牡蠣の旨味と、体を労わる特製スパイスを掛け合わせた自信作。家庭でも手軽に健康的なスパイス文化を楽しめる仕掛け作りが着々と進んでいます。



「スパイス文化を広げたい」と、空間デザインと飲食業、二つのフィールドに力を注ぐ柿木さん。平日も時間が取れた日には『Spice 5109』に姿があることも。こだわりと優しさがギュッと詰まった一皿を味わいに、ぜひお店へ足を運んでみてはいかがですか?