
捨てられるはずだった糸くずや豆の皮が、「紙」となって誰かの手に届く。そんな循環のものづくりが、府中市の印刷会社『コトブキ印刷』から生まれています。
コトブキ印刷は印刷工場でありながら、誰でも使えるワークスペースを備えた、ちょっと変わった印刷会社です。
ワークスペースに展示されているのは、デニムの廃材、大豆の皮、コーヒーの欠け豆など…これらはすべて、地域の企業から出た廃材。その廃材を紙へ生まれ変わらせるのが、コトブキ印刷が手がける紙づくり「めぐる、手漉紙(てすきがみ)。」の取り組みです。
同社代表取締役の宗藤利英(むねとう としひで)さんに、廃材が紙に生まれ変わるまでの物語を聞かせていただきました。


デニムの廃材から始まった、紙づくりとの出合い
「めぐる、手漉紙。」の第一弾は、地元デニムメーカー・カイハラ株式会社との協働から生まれました。デニムを織る工程で出る廃材を紙にすき込んだのが「インディゴデニムペーパー」です。

昔から紙が好きだったという宗藤さん。「自分でも紙を作りたい」と動き続けるうちに、手すき紙づくりに精通した人物と出会い、現在の紙づくりの形が生まれました。

「めぐる、手漉紙。」はすべて、障がいのある方の手漉きで生まれます。単なる“外注先”ではなく、紙づくりの担い手として関わってもらうことで、仕事の継続性や誇りにつながる仕組みを目指しています。

現在のラインナップは14種類。府中味噌の製造過程で出る大豆の皮を混ぜた「味噌ペーパー」、府中の木工産地の削りくずを使った「木くずペーパー」。そして広島市の福祉作業所では、平和公園で毎年焼却処分される折り鶴の一部を材料にした紙づくりにも取り組んでいます。
廃材を紙にすき込むというだけでなく、「地域の企業」「福祉作業所」「使い手」がゆるやかにつながる循環をつくっているのが「めぐる、手漉紙。」です。
廃材に、その企業だけのストーリーを込めて
「めぐる、手漉紙。」のラインナップは、14種類だけにはとどまりません。企業ならではの廃材を紙にすき込み、その会社だけの一枚をつくる、オーダーメイドの紙づくりにも応えています。
その一例として見せてくれたのが、プレスリリース配信会社・PR TIMESとのプロジェクトです。

廃棄コストのかかっていた素材が紙となり、名刺や会社案内として企業の顔になって、誰かの手に渡る。素材のストーリーを知った受け取り手との間に会話が生まれ、手元に残り続ける。そんな循環が、「めぐる、手漉紙。」の力です。

「せーの!」で刷り上げる、ワークスペース体験
そんなコトブキ印刷では、印刷の楽しさをもっと身近に感じてもらおうと、工場内にワークスペースを設けています。ワークスペース「Ce-no(セーノ)」では、事前予約でシルクスクリーン印刷とリング製本を体験できます。
スクリーン印刷は版画の技法の一種で、版自体に孔(あな)を作り、そこにインクが通って印刷される、シンプルな印刷方法。「せーの!」という掛け声から名づけられたこのスペースで、広島CLiP新聞編集部員も実際にTシャツへのスクリーン印刷を体験させてもらいました。




シルクスクリーンやリング製本のワークショップは、年に数回各地のイベントで出展されています。印刷の楽しさと手漉き紙の魅力を、手を動かしながら感じてもらう場になっているそうです。

今年は海外のイベントへの出展も決まっており、府中発のものづくりが、いよいよ海を渡ります。
役目を終えたはずの素材が、誰かの手に残る一枚になる。そんな「物語のある紙」に触れ、手で刷り上げる体験を、ものづくりの街・府中で味わってみてください。
