広島市西区天満町に100年以上にわたり、昔ながらの石臼と杵を使って餅をつくり続ける『天満町 林の餅』があります。現在、4代目当主として店を牽引する林秀樹さんに、昔ながらの製法にこだわる理由などをお聞きしながら、地元の人々に長く愛されるおいしさの秘密に迫ります。
毎朝、 つくりたての餅たちがずらり!
林:今日はもう売り切れてしまったものもあるのですが、小餅、あん餅、豆あん餅、柏餅といった定番の餅類の他、おはぎ、赤飯なども常時販売しています。また季節に応じて、桜餅やお月見団子といった限定品も販売しています。
林:豆あん餅です。柔らかくて口当たりもなめらかなので、もち米100%だというと驚かれます。一般的な豆あん餅だと、黒豆も甘く煮詰めて柔らかくしたものが多いのですが、うちは黒豆に甘味は付けず蒸すだけにして、黒豆本来の味と食感を味わってもらえるようにしています。
餅のおいしい食べ方やおすすめの食べ方があれば教えてください。
林:当店の餅は全部、広島県産のもち米100%でつくっているので、くっつかないシートを敷いてトースターなどで焼いて、まずはシンプルに餅本来のおいしさを味わっていただきたいです。味変としてしょう油やきな粉をつけたり、ハムやチーズをのせるのもおすすめです。焼きあん餅にしてトッピングでアイスクリームをのせて食べてもおいしいですよ。
林:その日についた餅を1つずつラップに包んで、フリーザーパックに入れて冷凍すると解凍したときに柔らかい餅を味わえます。餅は生物(なまもの)ですから、常温だと2、3日で乾燥してしまうし時間が経つとカビも生えますが、ちゃんと保存しさえすればおいしく食べていただけますし、当店の餅はもち米100%で保存料も一切入っていないので、安心して食べていただけます。
素材にこだわり、117年変わらぬ味を守り抜く
ところで餅は1日にどれくらいつくっておられるのですか?
林:予約の入り具合にもよりますが、平均すると1日50キロ、数でいうと800個くらいですね。毎朝2時から6時くらいまでいろんな種類の餅をつくります。一番忙しい年末は、1日に約1トン、25,000個くらいになります。夜の23時から翌日の夕方の6時ぐらいまでずっとつきっぱなしです。
1トンとはすごい量ですね!『林の餅』では昔ながらの石臼・杵付きの手づくりにこだわっておられるそうですが、機械でついた餅とはどういうところが違いますか?
林:餅のツヤが全然違います。始めに餅つき機で2分程度ついた後、石臼と杵でついて仕上げます。杵でつくときの手水を極力少なくすることで、粘りと弾力のある餅ができあがります。雑煮やぜんざいなどで炊いたり、鍋料理に入れてもお餅がとけたりしないと、お客様にも好評なんですよ。
そうした道具やつくり方はもちろん、素材にもすごくこだわっていらっしゃるそうですね。
林:うちは創業以来、もち米はもちろん、小豆や桜餅や柏餅の葉にいたるまで全て国産品のみ使い続けてきました。やっぱり食感や味が全然違うんですよ。
ところでこの2つの豆なんですが、違いがわかりますか?
林:小さい升に入っているのが赤飯用の小豆で、大きい升に入っているのがあんこ用の小豆です。最近、小豆を栽培する農家さんが減っていて、入手が難しくなっています。他にも気候変動などの影響で値段が高騰した食材もあって、今まで通りに食材を調達する難しさを感じるようになりました。でも1つでも妥協してしまうと、なし崩しに全部がだめになってしまう。伝統の味を守るために、材料は1つも妥協できないんです。
100年以上続くおいしさは、そうした努力の賜物なのですね。
林:おかげさまで、代が変わっても通ってくださっている常連さんがたくさんおられます。お客様の期待に応えるためには、代々受け継がれてきた昔ながらのつくり方とこだわりの食材でちゃんとつくり続けるということ、それが一番大切なことだと自負しています。
林:でも最近、正月や上棟式用の「鏡餅」もカビない鏡餅をつくってくれといわれて戸惑うこともあります。日持ちはしなくてもお客様には安心安全なお餅を食べてほしいので、もち米100%の餅しかつくりませんが、生活様式や考え方の変化に合わせざる得ないこともあります。
例えば1歳誕生祝いの「一升餅」も半升にしたり小餅にしたりする方も増えています。でも「一升餅」の形や重さに意味があるので、そうした日本に伝わる伝統や文化もできる限り、それぞれのご家庭で受け継いでいってもらえたら嬉しいですね。
お土産にいただいた豆あん餅は、なめらかな餅と黒豆の歯ごたえのある食感が絶妙で、あんこの甘味もやさしくて、さすが人気ナンバーワンのお味でした!100年以上、おいしさを保ち続けているのは、4代目林さんをはじめ、これまで代々の当主の皆さんがたゆまぬ努力で伝統の製法と味を繋いできたからこそ。明治40年創業の老舗の味を、皆さんもぜひご賞味くださいね。
*2024年末用の餅の予約は終了しているものもあります。詳しくは、公式サイトでご確認ください。